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日本版リーガルテック史〜2030年に向けて

【この記事は法務系 Advent Calendar 2023における22日目のエントリーです】
 
Yuichiro MORIさんからバトンを受けて、今年初参加させていただきます!
 
私は、2014年から弁護士としてキャリアをスタートさせ、2017年秋以降は「Hubble」というリーガルテックスタートアップを経営しております。 
このnoteでは、「リーガルテック元年」と称された2019年からの丸5年を振り返り、これからを予想してみたいと思います。時代の変化が速すぎて、数年先も考えることが難しいですが、このnoteでは2030年に向けて書きたいと思います。

 1 〜2019年「リーガルテック元年」まで

2019年までに、Hubbleをはじめ、クラウドサイン(2015年サービス開始)GVA TECH(2017年1月)、ContractS(2017年3月)、LegalOn Technologies(2017年4月)、Legalscape(2017年9月)、MNTSQ(2018年11月)、Legal Technology (2018年12月)など、現在でも成長を続ける数多くのリーガルテックスタートアップや事業が誕生しました。

また、リーガルテックマーケットの可能性にVCなどの投資家が注目し、この年までに数億円の資金調達をするスタートアップも出てきました。また、2019年10月には、MNTSQが長島・大野・常松法律事務所から累計8億円の資金調達をするとのリリースが出され、タイムチャージ制による収益構造をとる法律事務所が弁護士の稼働時間を短縮しうるリーガルテックへ大型出資したを決めたことで話題になりました。

プレーヤーが急増し、資金も集まり、日本においてリーガルテックが成長産業として認識され始めた頃だったと思います。

2 2020年〜電子契約の普及等

この5年間で最も成長したリーガルテックといえば、電子契約だと思います。
リーガルテックマーケットが盛り上がりを見せてきた頃、2020年4月、新型コロナウィルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出されました。企業は、在宅勤務を進め、それを阻む「ハンコ文化」が経営課題として大きく取り上げられることになり、結果として電子契約普及が一気に進みました。

「企業IT利活用動向調査」(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)によると、2022年1月時点に電子契約を何かしらの方法で利用していた企業はアンケート回答者の69.7%で、2020年比で2022年は電子契約の利用率が1.6倍になっているという情報もあります。

そして電子契約の普及により、その周辺にある業務のデジタル化の機運も高まったことを感じます。まさに「DX」と呼ぶに相応しい、業務変革の流れが法務領域に起き始めた年でしょう。

また、Hubbleが運営するOneNDA(秘密保持契約の統一規格化プロジェクト)もこの年にローンチしました。締結行為自体をなくすという取組みに多くの期待を寄せていただきました。

 さらに、2020年頃から「リーガルオペレーションズ」という言葉が日本でも言及され始め、2021年には「日本版リーガルオペレーションズ研究会」が発足され、 リーガルテックの普及と並行して法務部門の業務オペレーションを見直していこうという機運が高まりました。

外的環境の変化がテクノロジーの普及を後押して、業界全体が次の時代への適応を考え始めた段階といえるでしょう。

3 2022年〜他業界のリーガルテック参入

2022年は新しい動きとして、リーガルテック界隈でこれまでなかったM&Aが2件ありました。
フリーが、電子契約サービス「NINJA SIGN」を展開するサイトビジットの株式約70%を取得(取得価額は約27億8800万円)、また、キャリアインデックスは、CLMを提供するContractSが実施する第三者割当増資を引き受けて株式53.3%を取得しました(取得価額は3億9900万円)

他事業を展開する企業が独自にリーガルテックプロダクトを開発したり、M&Aを通じてこのマーケットに参入し、一層業界が盛り上がった年でした。

4 2023年〜テクノロジーのさらなる発展へ

今年は、今後のリーガルテックの発展において重要な判断がなされた年でした。

2023年8月1日、法務省が、弁護士法72条と契約の自動レビュー機能等との関係を明らかにしたガイドライン「AI 等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72 条との関係について」を公表しました。

2022年6月、グレーゾーン解消制度においてAI契約書レビューシステムに関して、「違法の可能性がある」という見解が示されたことを端緒に、同年9月に一般社団法人 AI・契約レビューテクノロジー協会が発足され、多くの関係者がこの問題に尽力していたことを見てきました。

法務省ガイドラインでは、既存サービスの適法性が確認されました。
AIが存在しない時代に策定されたルールを解釈し、テクノロジーの社会実装に向けて前進した年だったと感じています。この問題について考えるとき、好きな著書の一節を思い出します。将来この問題を振り返ったときに、この問題は、リーガルテックという新しいものを受け容れる社会への第一歩だったと言われるのではないでしょうか。

テクノロジーの進歩だけですべての問題――たとえば気候変動や貧困、格差などの問題――を解決できるとも思っていません。人類の手によって生まれたテクノロジーを最大限活かすには、テクノロジーをうまく受け容れて活用できる社会が必要です。そのためには社会を理解し、ときには社会を変えていく必要があります。

馬田隆明『未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則 』はじめに

5 これから

このように、リーガルテック元年から丸5年が経過しました。この5年だけでも数多くの出来事があり、業界の変化が毎年ありました。数年後の未来も予想することが難しい中ですが、2030年に向けてどういう未来を見据えるべきか考えたいと思います。 

法務「機能」を企業に実装する

企業法務の領域では、昨今SDGs・ESG、企業と人権の問題、経済安全保障など、企業を取り巻く新しいテーマがたくさん出てきています。社会の進展・複雑化が不可逆であるとすれば、法務部門が対応しなければいけない、新分野は今後も増加していくでしょう。

私が重要だと思うのは、法務部門が法務機能を担うという当たり前を疑い、「自社に法務機能をどう実装するか」という点を考え、実行していくことが求められてくると考えます。

法務機能の企業実装をいかに実現するか

少し脱線しますが、3年前「全てのスタートアップはフィンテック企業になる」と題したプレゼンが、投資ファンド「Andreessen Horowitz」のゼネラル・パートナーであるAngela Strange氏によって行われました。

これは「全てのスタートアップが、テクノロジーを利用することによって、金融インフラ・サービスの手を借りることが可能となり、低コストかつ高速に、独自の金融サービスを構築することが可能になる」ということです。

このプレゼンを聞いたときに、リーガル領域においても同種のインパクトが起きるのではないか、起こせないか考えました。テクノロジーの活用によって、「これまで各社において実装するハードルの高かった、金融サービスを各企業が実装可能になる」ことと同様に、「これまで実装ハードルの高かった、法務機能を各事業部門が簡単・迅速に実装可能にならないか」ということです。
 
時代の変化に伴い、企業成長を支えるリスクマネジメントという法務機能全般を一部門が担うことは難しくなっており、その限界を迎える日は近いと考えます。また、すでに現場のビジネスの最先端の事象は多岐に渡り、さらに高速で変化していく状況の下では、法務部門が適切な時期・内容で統制を及ぼすことの難易度は一層上がっていると考えます。
法務部門が主導して、営業部や開発部門などを巻き込み、リスクマネジメントプロセスを策定し、継続的改善を加える業務基盤を整える必要があります。いわゆるアジャイルガバナンスの考え方を法務主導で企業に実装する考えを強化していくべきです。

参考図

手段としてのテクノロジーの活用

そしてこれを実現するためには、テクノロジーの活用が不可欠です。
これまでのようなアナログ業務から脱却し、データを通じた管理体制を構築することはもちろん、データ構造も法務に中央集権的にリーガルデータを集めていくのではなく、アクセス性の高いリーガルデータベースを構築し、現場主導で統制を効かせる仕組みを構築すべきです。

リーガルテック活用にやるDXは、未だコストセンターと称される「法務部門」主導のDXであるものの、「2025年の崖」と称される2025年前後で本格的に着手される領域です。企業の中で最後に残され、そしてこれからの時代に不可欠なDX 領域です。
このDXを成功させることが上記のこれからの時代のあるべきリスクマネジメント・法務機能の実装につながると考えます。

「法務は『部門』から『機能』へ」
2030年に向けて。


生き残るテクノロジーが選別される時代へ

そして生き残るテクノロジーが選別されることもこの数年で起こると考えます。
この5年間で、テクノロジーが進歩するのと並行して、ユーザー側のテクノロジーへの期待値が適正化されてきたと感じます。現在のテクノロジーができること、できないことが認知され、実際に実務で活用できるシステムを選別するような動きがより一層強まるでしょう。
イノベーターやアーリーアダプタの方の利用システムの見直し、アーリーマジョリティ以降の人々が実務で活用できるシステムが選別される段階に入ります。
システムが「再考」され、そこから「本格的な活用期」に移り変わっていくでしょう。

「リーガルテックは『再考期』を経て『本格活用期』へ」
2030年に向けて。


6 最後に

最後までお読みいただきありがとうございました!

毎年見る専門でしたが、一年の最後に自分の考えをまとめて、皆様に読んでいただける貴重な機会ですね!来年も是非とも参加したいです!
皆様良いお年をお迎えください!

明日は@ahowotaさんです!

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