見出し画像

ブラっと水産学部図書館 ~函館キャンパスにおけるMLA連携~

北海道大学附属図書館 水産学部図書担当 小林泰名

 図書館・博物館・文書館の世界では10年ほど前から「MLA連携」という言葉が話題になっています。扱う資料は違えど、いずれも文化的情報資源を収集・蓄積・提供する機関であるという共通点を持ち、情報資源のアーカイブ化等の課題を共有していることから、MLAー“Museum” ”Library” “Archive”が連携して課題解決に取り組むことが重要であると言われています。

 ここでは函館キャンパスでのMLA連携についてご紹介します。

 北海道大学には札幌キャンパスと函館キャンパスがあります。
 函館キャンパスでは水産科学研究院 水産科学院 水産学部の学生・研究者のほか、北方生物圏フィールド科学センターや環境科学院などの一部の学生・研究者も学び、研究しています。
 函館キャンパスには博物館(Museum)が1つ、図書館(Library)も1つあります。水産科学館と水産学部図書館です。図書館の正式名称は実はとても長いのですが 注1)、キャンパス唯一の図書館なので、単に「図書館」と呼ばれています。この文章でも「図書館」と言ったら水産学部図書館のことと思って読み進んでください。
 また、函館キャンパスではオンライン教材を配信する「バランスドオーシャン」という教育プログラムを展開しています。ここではデジタルアーカイブ部門とも言えるバランスドオーシャンが “Archive” にあたります。
 函館キャンパスは規模がコンパクトな分、担当者同士が連絡をとりやすく、小回りが利くのが強みです。

 水産科学館長によると、水産科学館が担う生物系博物学的教育・研究では18世紀後半まで遡る図書資料調査が必須だそうです(河野さんの記事を思い出しますね)。これまでも当然、水産科学館を含む函館キャンパスの研究者と学生は図書館を活用してきましたが、水産科学館と図書館が連携することで、函館キャンパスの教育・研究に両施設をもっと役立てることができるのではないか。そう考えて、水産科学館と図書館は2020年度から本格的に連携協力を開始しました。

 まず実施したのは、博物館実習での連携です。学芸員資格取得を目指す学生が水産科学館での実務を学ぶ「館務実習」に、図書館での調査の時間を組み込み、水産科学館と図書館それぞれで企画展示を行いました。水産科学館で「物」の展示を行い、その展示を作成するにあたって調べた「本」を図書館で展示したのです。2つの「館」を行き来して、見て、考えてもらおうという企画です。

画像2

水産科学館での展示。テーマは「函館キャンパスで考える海のゴミ問題」。

画像3

図書館での展示。図書だけでなく雑誌論文もあります。

画像4

函館の海辺でゴミを採集する実習生の様子はバランスドオーシャンが記録し、水産科学館で動画を展示しました。

 図書館での実習では、文献の調べ方については事前に資料をメールで送り、実習初日に館内を案内しました。その際、実習の様子を記録するためにカメラを担いでやってきたバランスドオーシャンの教員から「このガイダンスの様子を動画にしてオンラインで配信したら面白いのではないか」と提案があり、図書担当も「いいですね!」と応じました。

 ちょうど、札幌キャンパスにある北図書館で、新入生向けに図書館案内動画2)を作成しSNSで広報していたのを見て「うちもこういうの作りたいね」と言っていたところだったので、プロフェッショナルであるバランスドオーシャンの協力を得られるなんて渡りに船です。さっそく図書担当でシナリオを作成しました。北図書館を見倣って、3分くらいの短い動画をいくつか作成して、気になるトピックを選んで見てもらえるようにしようと提案しました。それが2020年10月のこと。

 11月に、図書館・水産科学館・バランスドオーシャンの「連携」についてオンラインセミナーを開催しようという企画が持ち上がり、12月に開催することが決まりました。

 テーマは「図書館・博物館の融合が産み出す水産科学教育研究の未来像」。

 「図書館と水産科学館の現状についてそれぞれ説明した後に、館内の様子を生中継して見てもらえばいいじゃない。『ブラっと水産学部図書館』って題名付けてさ」、という図書委員長の発案から、事前に動画を作成することになりました。実習の時に話し合った動画作成の案が、実現に向けて動き出したのです。

 セミナー当日は図書館・水産科学館・バランスドオーシャンそれぞれの担当者から現状とこれからについて説明した後、「ブラっと水産学部図書館」「ブラっと水産科学館」と題した動画を配信しました。その内容を踏まえて、参加者の学生・教職員に、これからの図書館・水産科学館についての意見や要望を聞きました。
 参加者からは施設について、利用の仕方について、広報についてなど様々な意見や要望が寄せられました。

 この日配信した2つの動画は後日、バランスドオーシャンの運営するYouTubeチャンネル「LASBOS YouTube」で公開されました。3)水産科学館はセミナー当日に流した15分ほどの動画です。図書館の動画は再編集して5本に分け、1本は3~5分程度で気軽に見られるようにしました。動画の再編集、YouTube画面の説明文やチャプターなど、全てバランスドオーシャンのスタッフが作成してくれました。
 また、3月には動画のQRコードを印刷したカード(LASBOS card)4)も作成しました。  

画像5

画像6

バランスドオーシャンスタッフによる撮影裏話
■資料解説の苦労
 実は図書館は撮影に最適な場所です。雑音が少なく、足場がしっかりしていて、雨も降りません。「ブラっと水産学部図書館」の撮影は図書館スタッフが事前にシナリオを用意してくださったおかげもあり、かなりスムーズに撮影が進みました。
 時間がかかったのは撮影した後です。紹介された資料がその場では解説できなかったため、後から調べ、必要であれば図書館から借りて再撮影、解説ナレーションの吹き込みなどを行いました。書名は知っていたけれども……という自分の知識不足を痛感するとともに、大変勉強になりました。動画を見てくださる方のお役に立てればうれしいです。また、図書館や資料紹介の動画を作成したいものです。
(バランスドオーシャンスタッフ)

 水産学部の学生は、3年生の春に札幌キャンパスから移ってきます。毎年4月初めのガイダンスでは、図書担当も10分ほど時間をもらって、図書館について説明するのが恒例となっていました。また館内を見て回りながら図書や雑誌の配置場所、利用方法などを案内する「10分ガイダンス」も行っていました。

 ところがこのコロナ禍。集合のガイダンスはできるだけ時間を短くした方がよいだろうと、2020年度と2021年度の図書館案内は資料配布だけにしました。2020年度はリーフレットだけでしたが、2021年度は「ブラっと水産学部図書館」のカードも配布することで、10分ガイダンスに代えることができました。

 2021年4月のLASBOS card配布数No.1は「ブラっと水産学部図書館」でした。5) これはガイダンスで配布した分を含めずに集計した結果です。4年生以上の学生さん達にも、図書館の魅力を再発見してもらえたのではないでしょうか。

 札幌キャンパスでも、総合博物館や附属図書館本館と北図書館にバランスドオーシャンの活動を紹介するコーナーがあり、動画を見たりLASBOS card を入手したりできます。札幌キャンパスで学んでいる水産学部の1・2年生にも動画を見てもらい、函館キャンパスの図書館には水産科学関連のお宝資料が沢山あるんだな~とウキウキした気持ちで函館に来てもらえたら嬉しいな、などと考えています。

画像7

 北図書館内に設置した紹介コーナー

注:
1)正式名称は北海道大学大学院水産科学研究院・水産科学院・水産学部図書室
2)北図書館の新入生向け動画
https://twitter.com/Hokudai_Library/status/1268731149473333250

3)“LASBOS”は海に関する学問の演習や実習についてWEB上で学ぶことができる教育システム “Learning and Study by Balance de Ocean System” の略称。
LASBOS YouTube
・水産科学館の動画リスト(「ぶらっと水産科学館」のほか、博物館実習の動画も公開されています)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLUEc4MwRlJfimWUFniYnuDqpYED9j1evw
・「ブラっと水産学部図書館」の動画リスト
https://www.youtube.com/playlist?list=PLUEc4MwRlJfgbeZIQvSQJRyNLmy4gqCxX
4)LASBOS card List
https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=198
5)バランスドオーシャン番付(2021年4月分)
https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/mod/resource/view.php?id=8268

#北海道大学附属図書館 #エッセイ #MLA連携


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?