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霞の関も春ぞ暮れぬる:文部科学省に、「大学図書館係」ってあるらしい

文部科学省 本多 竜二


2021年3月30日晴れ
 
この日、歩道の隅にまだ少し雪が残る札幌を発ち、
既に麗らかな真春のただなかにある東京に降り立った。

文部科学省旧庁舎正面口にある桜も、
来る夏に向けて衣替えの支度を始めていた。
 
 

1.「文科省に行ってみませんか」


2019年某日晴れ
 
「文科省に行ってみませんか」
 
なんの前ぶれもなく、こんな話をいただいた。
 
 
「ええと……それは……東京の?」
 
他にどこがあるのか。

朝、いつもと変わらず、呑気にトーストなんかをかじりながら、あくびのひとつもしていたその日の自分には、よもやよもやの寝耳に水であった。
 
北大図書館に採用されてから5年目、担当した部署は工学部図書室と研究支援企画担当の2部署のみ。
 
最初に配属された工学部の図書室では、閲覧業務、ILL業務、図書室や研究室の蔵書点検等、図書館業務全般の手ほどきを受けた。ブッカーのかけ方を覚えたのもこの時である。ここで本に日々触れる生活を3年間過ごした後、研究支援企画担当へ異動となった。

研究支援企画担当は主に、図書館システムの管理、機関リポジトリ関係の業務を担っている。これまでの本に囲まれた日常から一転し、本の代わりにやたらと大きなハードディスクと2台のディスプレイに、文字通り囲まれた日々が始まった。システムやプログラミングの知識に乏しい自分としては、異動を告げられたときこそ軽いめまいを覚えたが、ここでの荒療治のおかげで、IT関連の用語へのアレルギーを克服できた。
(北大図書館のサイトの「このページ」などを担当したので、お時間あるときにぜひ!)
 
 
このように、決して長い勤務経験があるとは言えない自分に、まさか文部科学省行きの話が来るとは、夢にも思っていなかった。
 
三日三晩、回答期限当日ギリギリまで悩んだ末に
 
「よろしくお願いいたします」
 
 
こうして、大学図書館に入職したかと思ったら、宇宙航行のスイングバイよろしくその勢いで、遠く文部科学省という別の星に飛んでいった。
 

 
 

2.文部科学省大学図書館係!

 
「文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室大学図書館係」
 
これが今働いている部署の名前である。
 
 
「もんぶかがくしょうけんきゅうしんこうきょくさんじかんじょうほうたんとうつきがくじゅつきばんせいびしつだいがくとしょかんがかり」
 
なんとなく、ひらがなにしてみた。
 
 
この部署が文部科学省組織の中でどのような位置付けなのかを、長い部署名を頼りに、ざっくりとではあるが順番に見ていこう。
 
まず、大きな括りとして(あくまでざっくり)6つの「局」がある。
それぞれどのような局があるかはインターネットの組織図等*1にすべて任せることとして、大学図書館係は「研究振興局」に入っている。
次にその下の「参事官(情報担当)付」。
日本が誇るスーパーコンピュータ「富岳」等を担当する係と、全国の大学等の学術情報ネットワーク基盤「SINET」や、研究における世界的な潮流である「オープンサイエンス」等を担当する係が含まれている、いわゆる「情報系」の担当課(参事官付)だ。
 
その中でも後者のSINETやオープンサイエンスを担当する係が配置されているのが、「学術基盤整備室」であり、大学図書館係はこの学術基盤整備室の中の一係である。
 
ちなみに、「大学図書館係」という名前から、一見すると「大学」や「図書館」と一緒の部署に整理されそうだが、「大学」は「高等教育局」、「公共図書館」や「学校図書館」は「総合教育政策局」という、それぞれ別の局が所管し、それぞれ別のフロアに配置されている。
 
 
着任当初は、とにかくこれら組織の名称と構成を覚えるのに苦労した。
今でもアヤシい。
 
そもそも普段は正式名称ではなく、略称で呼ぶ。

(例)
「研究振興局」→「振興局(シンコウキョク)」
「総合政策局」→「総合局(ソウゴウキョク)」
「科学技術・学術政策局」→「科政局(カセイキョク)」
 
自分が所属している学術基盤整備室も「基盤室(キバンシツ)」と略されるため、初めのうちは、

「キバンシツ?
 

 
 
……
 
 
……どこ?」

と、見事に漢字変換を成し遂げられぬままフリーズすることもしばしば。 
 

さて、それにしても「大学図書館係」とは、見事なまでに潔い名前である。
電話でこの部署を名乗って
 
「もう1度部署名をよろしいでしょうか」
 
などと再度尋ねられることはほぼない。
 
 
だが、この非常にわかりやすい名前とは裏腹に、何をしている係なのかと尋ねられると、一言で伝えるのは難しい。

こういうときは、『文部科学省組織令』*2で所掌を見てみる。

「第六十六条(参事官の職務)」の中に
・六 大学の附属図書館その他の学術に関する図書施設に関すること。
・八 国立大学の附属図書館(中略)における教育及び研究に関すること。
 
とある。
なるほど、つまり大学図書館係の業務は「大学図書館に関すること」のようである。

……それは、わかる。
 
 
となると今度は、「大学図書館に関すること」とは一体何なのか。
それを紐解くには、現在携わっている具体的な担当事項を挙げるより他なさそうだ。
 
 
ちなみに、文部科学省にも図書室があるのだが、ここで働いているわけではない。
 
 

3.大学図書館に関すること……


さて、
 
「具体的な担当事項を挙げるより他なさそうだ」

とは言ったものの、それぞれの事項を本気で説明しようとすると、それだけで個別に記事が3つも4つも書けてしまう恐れがある。

そのため、簡単な説明は、大きいところを2つほど、残りはほんのり紹介程度に止める。

オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方検討部会

現在、大学図書館係が事務局として切り盛りしているのがこの検討部会である。

名前が長いなどと思ってはいけない。

委員の先生の各種手続きや日程調整、会議資料・会場の準備、当日の機材の運用などを主に行っている。こういった業務は、隣に座っている大学図書館から来ている研修生と協力して進めている。(大学図書館係の構成は係長(自分)とこの研修生の二人体制である)

この検討部会は、2021年10月に科学技術・学術審議会情報委員会下への設置が承認され、
2022年2月から11月14日現在まで計6回開催されている。

会議は一般公開され、傍聴登録をすれば誰でも視聴できる。
これからの大学図書館に求められる機能について、今後議論がどのように展開されていくのか……気になる方は是非登録を!

また、過去の資料や議事録も見ることができるので、詳しくは検討部会のWebページ*3を覗いてみていただきたい。


学術情報基盤実態調査
 
全国の大学図書館に毎年回答いただいているこの調査、
大学図書館に関する政策のための基礎データとして活用される重要なものである。
 
なんといっても回答率が100%である。
毎年ご協力いただいている大学図書館の皆様にはこの場を借りて御礼申し上げます。
 
ちなみに、この調査に関する業務は1年がかりで行っており、
集計が完了し報告冊子を各大学に発送してすぐ、次年度調査の準備に取り掛からねばならないという、終わらないオクラホマミキサーのような業務である点、申し添えておく。
 
こちらも調査結果や調査票などはWeb*4上で公開されているので、覗いてみるのはいかがでしょう。
 
 
さて、これ以外では
 
学術情報流通に関すること *5
読書バリアフリー基本計画に関すること *6
著作権に関すること *7
 
などなどなどに関連した業務も担当している。
 
またこの他
・大学図書館に関わる質問がきたときの対応
・大学図書館関連の団体が主催する会議への参加
・会議での講演資料の作成
 
などの業務もある。
 
ここまで紹介した大学図書館係の業務に共通する役割は、大学図書館と政府の間を取り持つ「窓口役」である。
 
 
なんだ、一言でまとめられるじゃないか。
 
 

4.文科省の窓から

 
「文科省に行ってみませんか」
 
 
このお話を受け、文科省の窓から大学図書館を眺めることができたのは非常に貴重な経験となった。
もしこの話が不意に舞い込んでこなかったら、「大学図書館に関すること」にこれほど踏み込んで理解を深めようとしただろうか。
 
おそらく、恥ずかしながら、見える景色は変わることなく、朝呑気にトーストを食べ、あくびのひとつもしていたに違いない。
 
 
現在ではオンライン開催の会議が広く普及し、現地開催以外の選択肢がなく、時間的・地理的に参加するハードルが高かった以前に比べ、会議や委員会への出席・傍聴が容易になった。
そういう点では、大学図書館の窓からも政府の動向を眺め易い時代が訪れていると言える。
 
 
はるか昔、日本神話のヤマトタケルが築いた関所があった。
この関所からは「雲霞を隔てた遠方を望むことができた」のだという。
これが「霞が関」の由来であるとか、ないとか *8。
 
 
文科省の窓からの、雲霞を隔てた見晴らしを、少しでも伝えることができればと、拙い文章をしたためてみた。
 
2022年11月某日晴れときどき曇り
 


注)
*1 文部科学省組織図
https://www.mext.go.jp/b_menu/soshiki2/04.htm
 
*2 文部科学省組織令 
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412CO0000000251
 
*3 オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方検討部会
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu29/004/index.html
 
*4 学術情報基盤実態調査
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/jouhoukiban/1266792.htm
 
*5 学術情報流通について
①ジャーナル問題検討部会
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu29/001/index.html
 
②北海道大学附属図書館note
「Publish and Perish : Time to rescue science」(Maedaさん)
https://note.com/hu_library/n/n0b1643c280db
 
*6 読書バリアフリー基本企画
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1421441.htm
 
*7 著作権法の改正
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/
 
*8 錦絵でたのしむ江戸の名所 – 霞が関
https://www.ndl.go.jp/landmarks/sights/kasumigaseki/
 


#北海道大学附属図書館 #仕事


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