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大学図書館の仕事を紹介します ILL編

北海道大学附属図書館 工藤未来

1. はじめに

 この記事は大学図書館の仕事に興味を持つ方に向けて、筆者の目から見た、その具体的な内容を紹介するものです。進路を考えるときなどに、少しでも参考になれば幸いです。もちろん、他の方が読んでも「そんなふうに仕事しているのか」と楽しんでいただけるかもしれません。
 なお、筆者は長く他大学にいたため、記事の内容が必ずしも北海道大学附属図書館の実情と一致しない可能性があることはご承知おきください。

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2. ILLとは

 今回取り上げるのは、図書館の中でも特に大学図書館ならではと言えるILLです。ILLはInter Library Loanの略で、日本語では相互利用と言ったりします。平たく言えば図書館の間での貸し借りということですね。規模は違っても1つ1つの大学で利用できる資料には限りがありますので、当然ながら見たい資料が自分の大学にないという事態は発生してしまいます。そんな時に「うちにないなら持っている所から見せてもらえばいいじゃない」ということができるのがILLなのです。
 ILLにはコピーを取り寄せる「文献複写」と、現物そのものを取り寄せる「現物貸借」がありますが、今回は特に区別せずに紹介します。
 また、内部的には、他大学から文献を取り寄せる「ILL依頼」と、他大学の依頼に応えて文献を送る「ILL受付」に分かれていて、規模の大きい図書館だとそれぞれ担当を別にしていることもあります。ちなみに私が初めてILLに携わった時は、「利用者さんからの依頼を我々が受け付けるから……ええとどっちだ?」と依頼と受付がなかなか区別できなかったのですが、大学内でのことはさておき他大学との関係だけで考えるようにすれば間違えないようになりました。

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3. 「ILL依頼」の仕事内容

3.1. 下調べ

 まずは「ILL依頼」の方を紹介していきましょう。職員の仕事は、利用者からの取り寄せ依頼が届くところから始まります。Webで申し込まれた依頼は図書館業務システムの専用画面で確認できるのですが、私の時は(おそらく今も)特にアラート機能はなかったので、こまめに画面を開いて状況を確認していました。
 依頼が届いたら、まず取り寄せを希望する文献の情報を文献データベースで確認します。利用者が入力した内容に誤りがあった場合、依頼した相手先に迷惑をかけるだけでなく、「そんな文献はありませんでした」と謝絶されてから再度確認して依頼することになると、文献の入手が遅れてしまいます。急がば回れで最初にきちんと正しい文献情報を把握することで、その後の手続きをスムーズに進めることができるのです。
 また、電子版を閲覧できることに気づかずに申し込んでしまうケースもあります。閲覧できる文献には大学で契約している電子ジャーナルだけでなく、Web上でフリー公開されているものもあるので、文献を探すのに慣れていない人では見つけにくいことがあります。そういった時に「ここで閲覧できますよ」とお伝えするのも私たちの仕事のひとつです。
 こうした下調べを重ねることで自然と文献を探す能力が鍛えられていきますので、大学図書館職員になった方は早めにこの仕事を経験できると、後々役立つと思います。

3.2. 依頼館探し

 次に、文献を所蔵する図書館を確認し、その内のどの図書館に依頼するかを決めます。国内の多くの大学や研究所は国立情報学研究所が提供するNACSIS-CAT/ILLシステムに参加することで所蔵情報を共有しているので、専用の画面を使い、雑誌の巻号単位で所蔵がある図書館を検索することができます。ちなみにILLの仕事とは別枠になりますが、ここで登録されている情報に誤りがあると「本当は所蔵していない図書館に依頼してしまった」ということが起きてしまうので、私が雑誌担当になった時は所蔵情報の管理をしっかりするよう前任の先輩に教えられたのを覚えています。
 所蔵がある図書館を見つけたら、その中でどの図書館に依頼するのか決めます。所蔵館が1ヶ所しかなければ選択の余地はありませんが、複数の図書館が所蔵している場合は様々な条件を考慮して選ばなくてはなりません。
 まず1つは料金の違い。図書館によって1枚あたりの複写料金が異なるので、基本的には安価で入手できるところを優先します。また、複数の依頼を同時に行う場合はなるべく1つの図書館にまとめて依頼すると送料負担を減らすことができるので、それぞれの文献の所蔵館を見比べて判断します。そして料金が同じであれば、対応の速さや親切さ、複写の丁寧さなど過去の経験から分かる情報も参考にすることがあります。ただし、同じ図書館にばかり依頼すると相手館がパンクしてしまいますので、相手館の負担も考慮しなければいけません。
 このようにたくさん書き連ねてしまいましたが、このあたりは図書館や担当者によって様々だと思います。ひとまず、何も考えずに依頼しているわけではないと覚えておいてください。

3.3. 所蔵館が見つからない時は

 難しいのは検索しても所蔵館が見つからなかった場合です。見つからなかったと言っても、それは所蔵を登録している国内の大学図書館の中で、という話ですので、例えば次のような可能性も考えられます。
 A) NACSIS-CAT/ILLシステムに参加していない大学以外の機関に所蔵がある
 B) 電子ジャーナルなら契約している大学がある
 C) 海外なら取り寄せ可能な図書館がある
 私はCのケースはあまり取り扱ったことがありませんが、Aについては医学系の図書館の時に発行元の病院に直接電話したこともありますし、Bについては前任者が残してくれた情報を使って他大学の電子ジャーナル情報を調べて回ったりしたこともあります。中には入手できないまま終わってしまうこともありますが、苦労して入手した文献を無事お届けできた時は、頑張って良かったと思えます。
 なお、Cの海外からの取り寄せについては河野さんの素敵な記事で紹介されていますので、そちらもご参照ください。

3.4. 利用者へ提供

 依頼が上手くいけば後は文献が届くのを待つだけ、と言いたいところですが、到着してからも届いた文献のページに抜けや間違いがある可能性がありますので、中身をしっかり確認する必要があります。例えば医学系では本文に挿入された写真が重要なこともありますが、その写真がコピーで潰れて判別できないこともありますので、注意が必要です。そういったチェックをしっかり行い、中身に問題ないことが確認されたら利用者に連絡して引き渡しとなります。
 引き渡しの際、窓口での現金払いが可能な図書館では金額のミスや領収書のミスに悩まされたものですが、北海道大学附属図書館では大学生協窓口での支払となっているのでこの点は安心ですね。
 文献複写の場合はこれで終了となりますが、現物貸借の場合は利用者から返却された資料を所蔵館にお返しするまでが一連の仕事となります。相手館への返却期限に間に合うよう、返却を忘れている方がいれば連絡を行ったりして、最後までしっかり対応します。

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4. 「ILL受付」の仕事内容

 「ILL受付」の方は他の図書館からの依頼に対応していくだけなので、内容としてはシンプルです。ただし、コピーを取る時にページに抜けや間違いがあると相手に迷惑がかかってしまうので、その点はしっかり注意しなくてはいけません。また、せっかくなら綺麗なコピーを送れるよう、コピーの取り方のコツを先輩から学べると良いでしょう。
 それから、依頼の方で書いたことの逆で、間違った内容の依頼が届くことがあります。どうしようもなく無関係な内容であればただ謝絶するしかありませんが、少し間違っている程度なら「正しくはこっちじゃないですか」と返してあげたりします。私も依頼するときに下調べが足りていなかった部分を、相手館の方に教えられたことが何度もありました。こうして大学の枠を越えて図書館職員同士の繋がりを感じられるのもこの仕事の良いところだと思います。

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5. ILLのやりがい

 まだ説明できてない部分も多いのですが、大学図書館におけるILLの仕事がどのようなものか、少しでも感じていただけたでしょうか。最後にILLについて個人的にやりがいを感じている点を3つ挙げておきます。
 ・ 利用者が必要とする文献を直接提供することでサポートしている実感が得られる
 ・ 他大学の図書館職員との繋がりを感じられる
 ・ 文献調査の経験を積むことで自分をスキルアップさせられる
 もしこの記事を読んだ方が将来ILLの担当になった時は、大学図書館の仕事の中でも特にやりがいを感じられるところだと思いますので、ぜひご自身の成長に繋げていってください。

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Image from Pixabay

#北海道大学附属図書館 #仕事 #相互貸借


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