符亀の「喰べたもの」 20220703~20220709

今週インプットしたものをまとめるnote、第九十四回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

さよなら絵梨」 藤本タツキ

病気で亡くなる母親の姿を映画にして文化祭で公開した男子高校生と、謎の美少女との物語を描いた200ページにわたる読み切りの、書籍版です。

正直に言いまして、読み切りをスマホで読んだ際は、本作はあまり刺さりませんでした。「ルックバック」の時は読み切りを読んだ週書籍版を買って読み直した週との2回感想を投稿しているのに対し、本作は読み切りが公開された週に何も書いていないのはそういうことです。読んでなかったわけじゃないよ。書くのが面倒だったわけでもないよ。

その理由は、オチがなんというか「本作を上手くまとめるためにわざとクソにした」ように見えたからです。いや作品のバランスを取るためにどこかを抑える必要があることは重々承知ですし、ハンバーグバーガートンカツカレーラーメン特盛みたいなのになった方がクソなのもわかっているのですが。それでも、200ページ付き合わせて、「ルックバック」の後で、前ページで「まさか」と思わせてアレをオチにするのは、いい意味だけでなく悪い意味でもサイテーと言わざるを得ない。それが、読み切り版の時の感想でした。

ですが、紙の本で改めて読み直すと、これはこれで好きだなと感じました。「ルックバック」のような読者を強すぎるほどにゆさぶる作品を期待すると収まりのよさに首をかしげてしまうかもしれませんが、その綺麗なまとまりに読み切り版ほど「こじんまり」や「不時着」という悪印象を受けませんでした。

その理由は、2つあったのかなと考えています。1つ目は、単に1回読んでいるので裏切られた感がなく、オチにも免疫がついているからです。そしてもう1つは、紙の本だと、見開きの両ページが同時に見えるからです。

(ここからネタバレ)
本作のオチは見開きになっており、右ページは爆発する思い出の廃墟、左ページは映画に足りなかったもの(爆発)を見つけて清々しそうな表情で廃墟を後にする主人公が描かれています。スマホで読み切り版を読む際、デフォルトの設定は1ページずつの表示なので、この見開きを「爆発→主人公」の順で読むことになります。より論旨に合わせた言い方をすると、爆発だけを先に見ることになります。爆発オチだけですと、そりゃサイテーとも言いたくなります。「ラストなんで爆発させた?」です。

ですが、紙の本ならば見開き全体が一気に見えるため、爆発と同時に主人公の清々しい表情も目に飛び込んできます。そうすると、爆発の「クソ映画のオチ」としての文脈が主人公の物語の終点として上書きされ、なんか丸く収まった感じが強くなったのかなと思います。騙されてるだけと言われたらそうかもしれませんし、そもそも主人公いうほど清々しい表情じゃないですけど。「なにわろてんねん」な顔ですけども。

ここまでオチの話ばかりしてきましたが、本作の独特のコマ割について最後に触れたいと思います。本作は4コマ漫画のような横長の長方形が4つ並んだ単調にも程があるコマ割を基準としており、これをつなげた1ページ大ゴマや見開きはあってもこのテンプレートを崩すことはありません。この表現の効果についてしっくりくる考察がネットになかった (教えてほしい) のですが、これによってあるページ内のコマ間の時間間隔が一定化されているように感じました。それとカメラを感じさせる手ブレが合わさり、映画らしさと疾走感とを両立できているように感じました。漫画の表現技法の1つであるコマ割を廃し、均一化することで逆にそのコマ割の効果が生まれる。こういうところがやっぱり上手いと感じますし、紙の本で読み返した結果好印象になったおかげで見つけられた「いいとこ」なので、その手のひら返しについて1000文字ぐらいだらだら書いたのも報われるのではないかなと思います。

ー 完 ー


ONE PIECE」(1~303話(32巻)) 尾田栄一郎

実は今までまともに読んでいなかったので、303話分が10日まで無料だったのを機にスマホで読んでみました。

全体的に、エピソードの最後で別の話に着地させるのが上手い作品だと感じました。わかりやすいのがウソップ海賊団解散のシーンで、ルフィたちが目立っていたエピソードを、やや急な印象もあるあのシーンによってウソップの話にしてしまい、彼に好感を持ちやすくしていると思います。本作はこのように「最終的にキャラクターの信念の話に着地させる」のを強引なぐらいに意識しているように見え、それがキャラの魅力を高めると共に読者が冷めにくくしている (キャラの感情に流されて無粋なツッコミをしにくくなる) のかなと思いました。

ただこの手法、要は最後のシーンや名言で読者をぶん殴るパワーで解決しているので、そこが魅力的でないと単純な急展開でスベるんですよね。そして先程の「さよなら絵梨」と同様、ジャンプラだと見開きがばらばらに見えるせいで気持ちよさが半減しており、その火力が魅力に直結しているこの作品だと致命的なデバフに感じました。

なので、ここから304話以降も無料公開されますが、私は読まないつもりです。せっかくなら、本作の全力に圧倒されたいので。


今週は媒体の違いによって刺さらなかった作品が刺さるようになったり、超有名作を今更ながら履修する機会に恵まれたりと、普段と質の異なるインプットができてよかったと思います。32巻分ONE PIECE読んでるので、量もすさまじかったですし。


一般書籍

「ONE PIECE」で手一杯でした。


Web記事

ネトフリ版バスタードの描写について

ネットフリックス版と30年前のOVE版との「バスタード」における描写を比較し、漫画をアニメ化するための翻案や、「最初はちゃんと考えて創っていたものが、その結果様式が確立していくと、しだいに様式の再生産だけをするようになって劣化する」問題について論じられた一連のツイートです。

旧OVA版において、1つの描写でこれだけの考察ができるほどの情報量を載せられているのがすさまじいなと思います。筆者さんがおっしゃられている通り考えさえすればできることなのかもしれませんが、この例のようにテンプレに従って違和感に気づかないこともあるでしょうから、しっかり他山の石にしたいと思いました。


未来人材ビジョン

経済産業省が、デジタル技術が労働市場に与える影響や日本の人材に関する社会システムの問題点をまとめ、向かうべき方向を提言したスライドです。

画一的な教育が難しくなっている現状を踏まえ、家庭と学校以外に開かれつつも個人に合わせた第三の学びの場を作るべきという提言には納得させられました。ただ「教員に探究や研究を指導する役割が期待されてこなかった」というのは大学の本来の仕事を軽視している発言にも思え、まず大学を就活用資格センターとして再定義し続けていたことを見直すべきなのではという気もします。


🌼リッツパーティー開催のお知らせ🌼

狂気。


「ONE PIECE」の大量無料公開に木曜から取り組んだせいで全てのスケジュールがぶち壊されましたが、結果的に面白いインプットができたのではないかと思います。問題は、このツケをどう払うかな気もしますが。

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