符亀の「喰べたもの」 20210919~20210925

今週インプットしたものをまとめるnote、第五十三回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。

寝落ちのため、日曜日に更新しています。


漫画

まくむすび」(1~5巻(完)) 保谷伸

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「わからない」と言われて漫画が描けなくなってしまった主人公が、自分の漫画を(勝手に)脚本とした演劇を見て高校演劇の世界へと飛び込み、表現する面白さに飲まれていく物語。1話しか読まずに積んでいた(くせに新刊出るたびに即買って応援はしていた)のですが、この休みで一気読みしました。

ほぼ読まずに全巻買っていたので不安なところはありましたが、期待通りの面白さで満足しました。特に劇中劇部分の脚本と演出がすばらしく、紙面の向こう側の我々すら雰囲気に飲み込んで息をのませる、見事な表現力です。捨てゴマ、コマ割り、構図、背景、表情、とにかく漫画が上手くて教科書にできそうな作品です。

その魅力が一番表れているのが、2巻中盤から描かれる、合同発表会内での劇中劇でしょう。(以下ネタバレ注意)
この脚本は、あるキャラに立ち直ってもらうために主人公が当て書き(誰が演じるか決めて書いた)したものとして、1巻末に一度登場します。その際脚本の前半部分は語られますが、残りは未完成として明かされないまま話が進みます。しかし、さらっとですが「前半のオチ」にあたるセリフは1巻で描かれており、それが2巻中盤、しっかりとした演出を伴って「15話目のオチ」として再登場する。続く16話以降で直後の「転」と真のオチが描かれ、そのオチもそれまでの伏線を回収する形になっている。さらに上演後の講評で、そのオチの見方が変わるような評価が述べられる。このように1つのシーンに何度も意味が与えられ、それによって面白さが多重に感じられるようになって重厚な味わいを出している。非常によくできていて、特に一気読みだからこそ味わえた美味しさだったと思います。

一方打ち切りであろうという結論からくる事後諸葛亮な気もしますが、読み込むと気になる点もありました。モノローグとセリフで別のストーリーがつづられていて混乱しやすい点、主人公以外が軸になった「○○回」的な話がほぼ無く他キャラの掘り下げが不十分な点、各エピソードの前後で何が変わったのかが明確でなかったり同じようなこと(基本主人公が「書ける」ようになった話)ばかりだったりでストーリーが単調な点などでしょうか。逆に言えば、これらの問題点があっても作中劇の面白さと表現力とで面白く読めたということにもなり、そのすごさの証明でもあるのですが。

明日の君が好き」でもその表現力の高さに酔いしれた身として、是非いい編集さんの元でホームランを飛ばしていただきたいと思います。


おじいちゃんデコりました」(1~2巻(完)) 中西

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男に飢えすぎた女子高生が、己のメイク技術の総力を結集しておじいちゃん(80、書影の男性)をデコるギャグ漫画です。こちらも1話だけ読んで積んでました。

見た目だけ若くなったおじいちゃんが老人相応の振る舞いをすることで、絵面がキレイなままギャグの破壊力を上げているのが上手いですね。ギャグも老人ネタだけでなく、腐女子ネタやメイクを活かした絵面ネタ、「メイクでイケメンになったおじいちゃん」がイケる読者ならこれもイケるだろう的なノリの頭おかしいネタまで幅が広く、それで面白いのが強いですね。強みをわかった立ち回りをしています。

大前提の「おじいちゃんがメイクでイケメンになりました」で脳がフリーズしない方なら、非常にオススメなギャグ漫画です。積んでたおかげでここで紹介できたことに感謝を。


漫画『バーテンダーだったときの話』

アオアシ」の作者さんが、バーテンダーとしてアルバイトしていたときの出来事を漫画家した日記です。

5ページ目のコマ割りと描き方が上手いですね。基本的に白かった旦那さんの顔をトーンで暗くして際立たせてから一気に話させる2段目。それが浮かない程度に背景が描かれた1段目。筆者さんのアバターと旦那さんが向かい合う構図の3段目。全て飛び道具ではないものの地味に効いていて、漫画的地力の高さが伝わってきます。


積読が2作品読めたことも大きいですが、蔵書を整理したおかげで、既刊を読めず展開を思い出せないせいで新刊も積んでいた作品群を消化していけるようになったのが良かったですね。という訳で、今後は積読消化枠が定期的に挟まるはずです。サボらなければ。


一般書籍

ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論」 千葉雅也、山内朋樹、読書猿、瀬下翔太

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「書けない」悩みを抱えた4人が、執筆ツールの使い方を公開しあう座談会を経てその悩みや「書くこと」を話し合い、数年後各自の「書き方の変化」を書きつつ再度話し合った結果をまとめた新書です。

前半はツールの使い方という具体的な話と「書く」にまつわる抽象的な話が入り交じっていて掴みにくいところもありましたが、著者の方々が何らかの解を得てから話し合った後半には突き刺さる内容が多かったと感じます。前半の全員が苦しみをさらけだしてまとまらずに進むさまをそのまま残すのも構成上大事なのはわかりますし、むしろ前書きで本書の3部構成を先に提示している分本書における前半の立ち位置をあらかじめ示そうという配慮すら感じます。しかし、やはりこういうカオスで軸が乱立した議論からいい部分をかいつまんで読むというのは難しく、混沌をまとめるという作業の困難さを再認識しています。

さて本書のキーワードの一つが、もっといいものができるはずだという自分への「諦め」ですが、これはかなり突き刺さりました。この文章が日曜日に書かれているのも、直接の理由は土曜日に二度寝から起きたら25時半だったことですが、書きあがっている部分のみで更新せずに今日に回しているのはそれで文章量や内容をブラッシュアップできると「諦め」られなかったからであり、大いに反省すべきだと思っています。

その反面、フリーライティング的に間投詞や執筆時の迷いもそのまま書いてしまうやり方は丁度これを読み始めるぐらいにじわじわやり始めていたことで、その効果を認めて「赦して」くれたのには助けられた気持ちがします。まだ見栄を「諦め」られていないのでそれらはほぼ消してしまうのですが、著者の方々の原稿からはそれを乗り越えた先の世界のようなものも感じ、本書内の例えをお借りすると「殻が破れた」気になりました。

自分のものを書くスタンスに大きな一石を投じていただいた本であり、定期的に読み直したい一冊です。


Web記事

ゲーム規制とゲーム依存について

ボードゲーム製作者のドロッセルマイヤーズさんが、自身が出演された番組での発言を補足する形で書かれたnoteです。

「ゲームはアルコールやギャンブルの依存と異なり、それ自体が直ちに健康や経済を破綻させるものではありません」(なので急いで取り上げる必要性が薄い)という観点は恥ずかしながら持っておらず、目から鱗でした。杖の例えや問題の切り分けなど、この問題についての考えを整理させてもらえるありがたいnoteでした。


星野源さん、自身の写真をファンがSNSアイコンに使用していることを『申し訳ないですけど、嫌です』と告白

星野源さんが、ラジオに寄せられた自身の写真をファンがSNSのアイコンに使用していることをどう思うかという質問について発言した内容や、その後の顛末をまとめた記事です。

上記発言の前後でファンを守り、その上で自分の感情の問題として答えているのがすごいですね。こういう問題は法などの正義で武装して話してしまいがちですが、あくまで自分がどう思うかを前面に出して攻撃感を抑えているのが見事ですし、ファンの方々のことを真剣に考えてらっしゃるのだなと思います。


ダチョウってどんな鳥?そのすごさとアホさ
ダチョウを5年ながめた僕が絶望したワケ

ダチョウはアホだが役に立つ」の一部を抜粋し、今年3月から4月にかけて5回連載された記事の第1、2回です。

第1回にあたる前者では、ダチョウがとても頭が悪く、いかに研究者である筆者の想定を下回る行動をとるかがまとめられています。本文中にも出てきますが、こうした奇怪な行動になんらかの(「進化学」的)意味があるのか、単に頭が悪いなどの理由で生じた偶然なのか、どのように生物学者の方々が結論づけているのか気になるところです。

第2回にあたる後者では、5年間ダチョウを動物行動学的に観察してなんの成果も得られなかった話と、そこから抗体の研究に進むまでが述べられています。5年間論文0でもやっていけた当時の日本の余裕と、それでも観察は続けていたからこその大発見が面白い記事です。


難解な本やら逆転裁判5やらに時間を取られて思ったよりページ数は読めませんでしたが、休息とインプットはしっかりとれたと思います。最優先の課題だった蔵書の整理はほぼ終えましたので、その成果を存分に発揮していきたいですね。

あ、あと発表があった通りVRシュピールZEROに出展いたします。それ用のアバターも作らないといけないのでまた忙しくなりそうですが、ご興味のある方は是非お越しください。

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