符亀の「喰べたもの」 20220320~20220326
今週インプットしたものをまとめるnote、第七十九回です。
各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。
漫画
「女子には歴史がありまして 平尾アウリ短編集」 平尾アウリ
「推しが武道館いってくれたら死ぬ」の平尾アウリさんの短編集です。
2013年以降の作品が、狂気にあふれていて好きです。試し読みの話とこの巻最後の話は特に、1コマで「そうはならんやろ」の渋滞が起きているせいでひとしきり笑ってから頭を抱えてしまいました。
というわけで狂気を生む方法について考察しましたが、たぶん「その結果が導き出された方程式はわかるが、なぜその結果を出すための変数をそこにぶち込んだのかはわからない」ときに、人は(ネタとして消費できる)狂気を感じるのだと思います。もっとかみ砕くと、「それとそれを組み合わせたらそうなるのは理解できるけど、そもそもなんでそれとそれを組み合わせようと思ったんだよ」というとき、と言えるでしょうか。
狂気じみたモノを語るときは「わからない」の部分に注目されがちですが、それが面白いものだと思われるにはむしろ「わかる」の部分が重要なのだと思います。本当に何もわからないものは、気持ち悪いか怖いので。
私はこういう狂気じみたモノが好きなので、どうやればボードゲームで狂気を表現できるかを考えていました。ボードゲームはプレイヤーがゲームの進行をしなくてはいけない、つまり展開がそのプレイヤーの理性に依存するため、狂気を味わってもらうのは難しいのではないかと思っていました。ですがこの考察に基づくと、むしろ謎の変数(マニアックなフレーバーや変態じみたギミック)が「ちゃんとマトモに動く」のが一番狂気じみた面白さを感じさせてくれるのではないかという気がしてきました。だとすると、ボードゲームで狂気、いけるかもしれませんね。
「その着せ替え人形は恋をする」(9巻) 福田晋一
高校生かつ雛人形職人でもある主人公と、彼とは真逆の世界で生きているギャルのヒロイン。そんな彼らが、コスプレ衣装と「好きを否定しない」ことをテーマに繋がるラブコメです。第三十六回以来の登場です。
「カメラを買ったから撮ってみて」という展開により、カメラ目線のコマが並んでも違和感がなくなりカワイイの暴力のようなコマでひたすら殴れる。言われてみればそりゃそうですし多分先駆者もいると思いますが、それでもすさまじい火力でした。カメラは前から出ていたアイテムなのでこの展開のために無理やり持ってきた感もないですし、「太ってきたのでコスプレ衣装が入らないから」と素のヒロインを撮る流れも見事です。目線ください的なよそよそしさも感じるコス撮影でなく、ただはしゃいでいる同級生を撮っているからこその破壊力だったと思います。これでカァードキドキで済む五条くんすごいな。
「創作2コマ漫画 その1073」 なをををををを
作者さんがtwitterなどで連載されている漫画「不器用ビンボーダンス」の1本です。
この作品は言葉遊び系のギャグを中心とした2コマ漫画であり、コマ数が少ないうえにボケが頭おかしい系なため、読者がついていけなくなるリスクが高いです。しかし本作はぶっ飛びながらも読みやすい回が多く、その理由を探っていたのですが、この回は工夫がわかりやすかったので紹介します。
この回では、ツッコミ側のセリフ全てに二段のフキダシが使われています。そして1段目はボケの解説的なツッコミ、2段目は次のボケを引き出すフリの役割を果たしています。特に2段目が上手く、これで話の流れ、ボケを導くための「方程式」が示されるからこそ、ボケを「そうはならんやろ」と笑える構成になっているのだと思います。
この構成、変則的にこの回(めっちゃ好き)でも使われていましたが、見返すと思ったよりテンプレ化はしていなかったようでした。となると他の回は別の方法で読みやすさを担保しているということですので、また分析して見つけたら書きたいと思います。
「スーパーの裏でヤニ吸う話 。」(1~3話) 地主
スーパー店員の山田さんの笑顔に癒されているサラリーマンと、彼を喫煙所にさそった店員田山さんとの物語。
「狼陛下の花嫁」を読んでいた頃から、物語を動かす力として、「読者には提示されているがキャラは気づいていない情報」が大きいのではないかと考えていました。その視点で見ると、本作はその情報の読者への察させ方がうまいように感じました。サラリーマンは疲弊しきっていて山田さんと田山の関係に気づけないのに説得力があり、読者には答え合わせ前に気づけるよう情報を出すフェアな進行をしながら最大のヒント(田山という名前)をオチ部分にかぶせて一瞬見逃すようにするのも、読者が「自分で気づいた」感を得やすくする工夫として利いていると思います。
狂気について、「方程式はわかる」という重要なポイントを見つけられたのは大きかったと思います。ただこの言い方は用語としてスマートさに欠けているので、上手い表現を見つけて用語化したいですね。
一般書籍
「測りすぎ なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?」ジェリー・Z・ミュラー(著)、松本裕(訳)
なにが起きているのかデータを集め、それを分析する数値評価について、それがもてはやされるようになった背景や期待外れな実態についてまとめた本です。
「測定自体がコストになる」「測りやすいもののみを追いかけてしまう」「不正を促進し挑戦を抑制する」など、多様な観点から数値評価の問題をケーススタディを踏まえて論じている、面白い本です。ただ数値評価を非難しているわけではなく、測定に基づく行動評価が上手く機能した例も挙げており、フェアな印象を受けました。特に、医療行為に伴う院内感染をチェックリストを用いて減らした例の「感染が避けられないものではなく、制御できるものだと見せることで、医師や看護師としての彼らのプロ意識に訴えかけた」(P112)という利用方法は興味深かったです。「不正を促進し挑戦を抑制する」こともあるように、行動評価が使い方次第でモチベーションの向上にも低下にもつながるというのは面白いです。
ですが、ケーススタディの章では基本「数値測定は意外とダメです」が結論であり、読書体験が単調になってしまったのは残念でした。評価自体を放棄するのは現実的でないですが、いい数値評価をするためのノウハウが上記の例以外であまり学べず、有効な時は有効ぐらいのざっくりした印象になってしまうのも物足りない点でした。
と締めるつもりが、最終数ページでいきなり効果的な測定のためのチェックリストが示されました。引用の範囲で収まるように各項目の説明は省きますが、今後の私のためにリストは転載させていただきます。最終章の前に一回これを示してくれれば、体験はだいぶ変わったと思うのですがね。
1 どういう種類の情報を測定しようと思っているのか?
2 情報はどのくらい有益なのか?
3 測定を増やすことはどれほど有益か?
4 標準化された測定に依存しないことで生じるコストはどんなものか?
実績についてほかの情報源があるか?
5 測定はどのような目的のためにつかわれるのか?
その情報は誰に公開されるのか?
6 測定実績を得る際にかかるコストは?
7 組織のトップがなぜ実績測定を求めるのかきいてみる。
8 実績の測定方法は、誰が、どのようにして開発したのか?
9 もっともすぐれた測定でさえ、汚職や目標のずれを生む恐れがある。
10 何が可能化の限界を認識する。
(傍点を削除し、一部表現を変更した。)
Web記事
「ダブルダイヤモンドで整理するボードゲームデザインのプロセス」
「アイデアの発散と収束を繰り返し、サービスや製品の完成に至るというモデル」であるダブルダイヤモンドを、テーマの決定とゲームの具体化という2つの観点のダイヤモンドを作りボードゲームデザインに応用する方法について述べられたnoteです。
私はシステム先行で製作を行っていますが、それでも応用可能な内容が多く勉強になりました。
「『エルデンリング』はなぜ1200万本売れたのか。「難しさ」もシェアするSNS時代のゲーム論【連載】ゲームジャーナル・クロッシング(13)」
「ELDEN RING」が売れた理由について、SNS次代との相性の良さを軸に述べられた記事です。
共通の敵に対して自分だけの方法で立ち向かえるのが、SNSでのシェアを呼んだという解説にうならされました。ゲーム中にSNS的なメッセージ機能を付けた点についても、作者さんの先見の明と筆者さんの分析力に驚かされました。
いつもの宣伝枠です。
ゲームマーケット2022春まで1ヶ月を切り、広報もその他作業も忙しくなってきました。仕事の方は修羅場を超えましたので、年度末の来週は頑張りたいところです。
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