符亀の「喰べたもの」 20230123~20230129

今週インプットしたものをまとめるnote、No. 123です。

各書影は「版元ドットコム」様より引用しております。



漫画

ビターコネクト」(1巻) 今井大輔

恋人も仕事も友達もセフレも、あらゆるつながりを求める人へのマッチングアプリ「ライコネ」で結ばれる人たちのオムニバスです。

むちゃくちゃ面白かったです。早くも今年の漫画10選の1つが決まったかもしれません。

本作はいわゆる人間ドラマ系の作品で、「ライコネ」でマッチングした2人の関係性の変化が主題として描かれています。こういう作品で鍵となるのが「表に出そうとしなかった本音の吐露」や「自分たちも気づいていなかった思い」なわけですが、これらは下手に書くと説得力がなくて薄っぺらくなるんですよね。なぜ出したくなかった気持ちを出せたのか、なぜ今になって本心に気づくのか。こういう疑問が浮かんでしまうと、展開のために演じさせられているだけの印象になってしまう。

本作は、この問題の解決が非常にうまいと思います。単に展開が面白いだけでなく、それを自然に見せている。違和感を覚えにくいぶん、より漫画として面白い不自然な展開も使えてより面白くなる。

私が感じた本作の「解決法」は、2つです。1つは、上記のことに気づかされる役が2人のうち片方だけということです。もう片方は、秘密を持っていたり裏の目的があったりして、気づき役を驚かせる立場です。これにより、物語が「気づき役にとっては意外な展開に」「驚かせ役にとっては自然な展開に」なります。結果、前者の意外性から来る面白さと、後者の自然さからくる納得感とのいいとこどりができていると思います。前者だけだと「そうはならんやろ」というツッコミが生じ、後者だけだと当然つまらないです。また、後者の驚かせ役がさも当然という態度で話を進めてくれるおかげで、気づき役の方が好きなだけ驚けるのも強いと思います。感情の動きが自然なら多少急展開でも納得しやすいですが、突飛な展開に全員が驚いているようでは画面がうるさくなってしまうので。

もう1つは、マッチングアプリという「神」の存在です。本作では「ライコネ」が与えられた情報から最適な相手とマッチングさせることは前提として正しいとされています。なので、もし本当に相手がこの人でいいのか、このマッチングで良かったのかという疑問が生じたとしても、その疑問は公理を疑うようなものとして棄却されます。こうした絶対的なルールによって展開の妥当さが保障されているところが、変な疑問を抱いて冷めてしまうリスクを下げているのだと思いました。余談ですが、この「ライコネ」という神により、驚かせ役が相手のことを完璧に手玉に取っている上位存在でなくなっているのもポイントでしょう。驚かせ役の方も、アプリに相手をゆだねている点で気づき役と同等の立場であり、だからこそ仕組まれた物語っぽさや片方へのヘイトを感じにくいのだと思います。


一般書籍の方に体力を吸われて漫画はあまり読めませんでしたが、その1冊が大当たりだったので満足です。とはいえ、次週はもう少しインプットがんばります。


一般書籍

とりあえず、1年半前に止まったところぐらいまでは戻ってきました。前よりスラスラ読めているのは内容をある程度覚えている証だという安心感と、それでもこのペースなら今後がヤバいのではという不安と戦いながら読んでいます。


Web記事

ボドゲのルール説明をするときに気を付けていること

ボードゲームショップのスタッフさんが、そのルール説明時に気を付けていることをまとめられたnoteです。

勝利条件を最初に話すのは意識していましたが、「勝利条件→ラウンドの流れ→アクションの説明→勝利条件」と最後にもう1回話すのはちゃんとやっていなかった気もします。というか、このフォーマットを前提に最初と最後で言い回しや説明の細かさを変えればいいということに書きながら気づきました。今度から意識してやります。


ゲーム開発未経験、たった4人のチームがなぜ全世界75万本のゲームを作り上げるに至ったのか?──病み系女子育成ADV『NEEDY GIRL OVERDOSE』のはじまりからおわりまで。

NEEDY GIRL OVERDOSE」のプロデューサーさんおよびディレクターさんへのインタビュー記事です。

私は本作をまだ遊んでいないのですが、それでもむちゃくちゃ面白い記事でした。というかこれを読んで購入を決めました。(セール待ちでまだ買ってないですが。) 7月追記:STEAMのサマーセールで買いました。

ポイントだけ抜き出しても、「開発規模が小さいのでヒロイン数と画面遷移を減らす」「ライターの強みが出る画面構成にする」「リスペクトしあえるような文化背景の近いメンバーで座組を作る」「足りなそうな素材のリストを作って、開発が難航している間もグラフィッカーが動けるようにする」「コアギミックに他の要素がつながっていて、そのうえ行動数に余裕があると余計なこともできて作業感がない」「UIや手触りに違和感を覚えたら参考にしている本物に戻る」「プロデューサーの仕事は人間を正気に戻すこと」「『工数最少・意味最高』が最高のアイデア」など、名言的な内容がところせましと並んでいました。書きだしたら本当にカロリーの高い記事だな。

あとこれは私なりの解釈ですが、世間一般のイメージではない「私小説的な」ものを表現するためのテクニックとして、その諸々を見たうえで自嘲的にまとめた一言があるとそれっぽく見えるのかなと思いました。本作の「インターネットやめろ」もそうですし、ボードゲームを「ただの紙」「高級なメンコ」って言うやつもそうですね。あとはその表現がどれだけ「自分も口ずさむだけで分かった気になれる」魅力的なフレーズなのか、という感じでしょうか。


なぜエンジニアが作る画面はダサいのか…?『理由』と『対策』を徹底解説【エンジニア向け画面デザイン講座】

エンジニア向けに、エンジニアとデザイナーの思考の違いをジムトレーナー向けアプリ開発を例にまとめられた記事です。

デザインの心得6ヶ条の4番「データの加工を厭わない」が、自分には抜けており勉強になりました。データベースの書き方そのままで実装しにいくのではなく、その情報の扱われ方を考えてどう表示するのかから考えるべきというのは、覚えておきたいと思いました。


『シャニマス』開発スタッフインタビューシナリオ編。アイドルたちの物語は“描く”というより、監督として“カメラで撮影する”感覚。実在性の高いシナリオを制作するためのこだわりに迫る

「アイドルマスターシャイニーカラーズ」シナリオ担当の方へのインタビュー記事です。

アイドルの実在性を感じさせるシナリオを書くポイントは、状況設定を細かく突き詰めている点なのかなと感じました。SNS企画において、本人が投稿するのかプロデューサーや周りのアイドルが代わりにやるのかを企画の設定として決めてしまわず、キャラクターに向き合いながら考えているところが強みなのだと思います。まあ正直、インタビュー的には「すっきりとした答え」というかガイドラインクラスのポイントを1つ2つ教えてほしかった気も、しなくはないですが。


『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について

原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義する国土交通省のガイドラインについて、ポイントをまとめられた記事です。

必要になった時に再読する予定で、とりあえず今はメモだけしておきます。


かぐや様とSLAM DUNKの映画を見ました。どちらもよかったです。

かぐや様の方は、かわいさと面白さが両立されていて、しっかり見たかったものを見せてくれた印象でした。終盤に尺の都合か大幅なカットもありましたが、それが映画全体のテーマをわかりやすくしていて、捨てることの重要さを感じました。

一方で、映画におけるご褒美シーンの必要性も感じました。これはお色気シーンという意味ではなく、テレビ画面でなくスクリーンで見る価値があったと感じさせてくれるものという意味です。具体的には、キレイな背景や勢いのあるアクションシーンのことです。本作は (学園ラブコメなので当然なのですが) ご褒美シーンがなかなか来ず、そこまでは正直映画に十分にノれていなかったと思います。ですが後半で逃走劇のアクションシーンが挟まってからは、絵的には地味な会話シーンでも楽しめたと思います。「劇場版らしいサービスシーンをやります」という制作態度を早めに表明してあげることで、観客の体験をより向上させられるのかなと感じました。

SLAM DUNKの方は、文句の付け所もないぐらいに楽しめました。(こう書くとかぐや様がイマイチだったみたいにみえるやろ物書きやめろ) 原作の方は山王戦の次の試合の結果、つまりある意味一番致命的なネタバレだけを食らいつつ文脈は知らないという最悪の状態で鑑賞したのですが、それでも終盤はずっと泣いていました。

思ったのは、バスケの「基本的には交互に点を取り合うが、その分相手の番に点を与えずに連続得点をするのが強い」という性質は、ドラマを演出しやすいなということです。試合展開にある程度影響しつつも一発でゲームが決まるほどではない絶妙な重要度の見せ場を何度も作れ、それが不自然ではない。さらに、得点が入りまくるので塩試合にもなりにくい。

本作の構成は、その小さな見せ場が来るごとに各キャラの回想シーンが入りまくるというものです。が、これは普通だとかなりの禁じ手というか、テンポは悪いわ何の話なのかわからなくなるわで無茶苦茶になりそうな手です。それでもこれだけ面白いものができているのがすごいと思うわけです。
もちろん、これが許された理由として、過去の名作の映画版を見に来る観客の「あの名シーンを見たい」という期待に応えたからというのはあるでしょう。また、バスケが前述の性質からどっちのチームが攻勢かだけわかれば展開が追えるスポーツであり、ゆえに試合の情報を回想シーンで追いにくくなってもついていきやすいというのもあると思います。

しかし、これらはやっていい理由であって、本作が面白い理由ではありません。その理由をつかめた時が真にインプットできたときだと思いますので、今後も機会があれば考えたいところです。

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