符亀の「喰べたもの」 20211226~20220101

今週インプットしたものをまとめるnote、第六十七回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。

あけましておめでとうございます。


漫画

にょろにょ〜ろ」 こおにたびらこ

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ヘビのような女の子・ニョロリンとちょっとおかしな仲間たちとの日常を描いた、少しシュールなファンタスティックファンタジーです。

1話の完成度がすごかったです。「トマトがしゃべるのを非現実的と笑って話す大根」のように、「ありえないことをありえないと否定するありえないものの話」というルールで1つの話が貫かれているおかげで、何の話かを見失うことがありません。おかげでシュールかつハイセンスなギャグでも意図はわかりやすく、作者さんのセンスだけをストレスを感じずに味わえました。1つ1つのコマは公式の記載通り予測不能ですが、展開自体はざっくり予想でき、だからこそ「予想外」の気持ちよさを味わえます。

それ以降は、テーマが定まっておらず何の話なのかわからなくなってしまう話や、展開が予想の範囲内で収束してしまった話などもありました。なので作者さんが意識的に上記の構造をとってはいないのかもしれませんが、このテンプレートにはまった体感半分ほどの回はどれも面白く、この手法の再現性と作品の打率の高さを感じました。


ジーンブライド」(1巻) 高野ひと深

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女というだけで生きづらさを感じなくてはいけないクソみたいな世界で生きる主人公を元同級生で変人の男が訪れたところから始まる物語。1巻が今後の展開の前フリのようなので、ジャンルは今後次第でしょうか。

セクハラに悩ませる主人公の相方が、独特の価値観で生きる変人男性というのが面白いですね。セクハラのような女性ならではの生きづらさはそれを感じていない人から見ると「そこまでヤバいのは盛ってるやろ」的に見えそうですし、そこの味付け次第で読者を狭めてしまう可能性のあるテーマだと思います。ですが、それより非現実的なこの変人のおかげで、セクハラ部分のリアリティーもあやふやになり、筆者の狙い以上の意味を過剰に感じられにくくなっているのではないかと思います。

こうして毒気を抜きつつもしっかりとしたテーマを扱っているおかげで、キャラが地に足のついている印象になり、厚みを感じる存在になっています。先述の通り、おそらくこの巻はラストの大仕掛け前の壮大な仕込みのような巻なのですが、それでもキャラのおかげで引き込まれてしまうのが見事です。


呪術廻戦」(18巻) 芥見下々

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第五十五回以来の登場。映画化おめでとうございます。

2人の重要な新キャラのうち、片方は能力を開示してそのモチーフや他キャラとの関係性で、もう片方は”熱”という当人にとってのキーワードを連呼しつつ能力自体は一瞬それらしいものを示すだけと、方向性を変えながらキャラ性を出しているのが上手いなと思います。この巻では念能力系のルールの複雑な能力を用いたバトルものにありがちな文字の多い話が多かったですが、とりあえず新しい能力と”熱”は覚えられるので、何もわからなかったとはなりにくいのではないかと思います。まあ私よりはるかに漫画読んでいる某インフルエンサーがこの巻は「粗の部分が目立ってしまっていた」とおっしゃっていたので、普通に分かりにくかったのかもしれませんが。


君のことが大大大大大好きな100人の彼女」(8巻) 中村力斗(原作)、野澤ゆき子(作画)

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イカれたハーレムもの。(第一回の記述より再再再利用)

ヒロインが100人になる(予定の)漫画なだけあり、キャラをアイコン化して誰が誰だかわからないようにしつつテンプレ化させすぎないバランスがうまいと思いました。キャラの特徴を覚えさせるためか、本作では各キャラにキャラ性を表した定番セリフ(この巻で出たキャラだと「○○だって生きてるんだど」など)を作り、それを持ちネタのように使わせてキャラ性を刷り込ませています。その上で、セリフで表されている属性とは異なる要素も組み合わせ、ある萌え属性の擬人化ではなく1人のキャラだと感じやすくしています。前者で作中のキャラ間の差別化を行い、後者で作品外の他キャラと差別化されているのだと思います。芸が細かいですね。


今制作中のゲームで分かりやすさについて悩まされているためか、そういう観点からの分析が多かった気がします。と書いたうえで再考しましたが、やっぱりいつものことだった気もしてきました。いつもと違う新たな視点でも味わえるようになりたいですね。


一般書籍

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会」 東浩紀

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「オタク系文化」をポストモダンなどの哲学的観点から述べた、現代日本文化研究において古典とも言える一冊です。

初版は2001年の発行ですが、未だに色あせていない名著でした。例えば、1980年代以降の作品が二次創作も含めた個々の作品である「シミュラークルが宿る表層と設定というデータベースが宿る深層」(P54)の二層構造から成るという指摘は、今ボードゲーム発のIPが根付かないという問題を考える際にも役立つ基礎知識の1つだと感じました。こうした「キャラ萌え」におけるデータベース的消費の性質は、そういう消費をさせる作品の作り方が理解できなかった私にとって、大きなヒントになったと思います。話を広げる際に意識的に論証を避けている節は感じました(というか一部はそれが明記されていました)が、本書の読みやすさがそれ由来なことを考えると、一概にそれが悪い点とも言えないでしょう。読むのが今更な感じはありましたが、読み終えてみると今読んでも十分間に合ったなと思います。

なおこの執筆中に2007年刊行の続編があったと知りましたので、それが古典になった頃に読もうかと思います。


Web記事

このジグソーパズルが本当に最高だったのでみんな遊んで欲しい

Magic Puzzle Companyという会社のジグソーパズルの良さについて語られたツイート群です。

「楽しませるためのプレイ体験がしっかりとデザインされたジグソーパズル」というのがどういうものなのか分かりやすい、さすがのレビューです。


おしまいインターネット歌会 vs. 趣味最悪エロゲーマー

一年の終わりにカスみたいな和歌を詠み合う「歌会終」にて、筆者さんがどのような考えで作品を書いたのかをまとめられた記事です。

いかにすれば素材の良さを技巧で活かした搦め手ができるかを端的にまとめた記事として、参考になりました。ここで紹介されている「カスのプレバト〜俳句の才能査定ランキング〜」も、知力の無駄遣いという感じでオススメです。ただし他人に勧めるような内容でないのも確かです。


2022年の冒頭からギリギリ土曜日に投稿できないという体たらくでしたが、広義土曜日に書けたというだけで許してください。

今年もよろしくお願いします。

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