符亀の「喰べたもの」 20210926~20211002

今週インプットしたものをまとめるnote、第五十四回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。

寝落ちのため、日曜日に更新しています。


漫画

チ。―地球の運動について―」(1~5巻) 魚豊

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「C教」に背く異端思想が弾圧されていた中世ヨーロッパでは、神が宇宙の中心に据えたのは地球だと考えられていた。そんな時代で、異端である地動説を唱え真理を求める人たちの歩みを描いた物語です。そして今週の積読枠(ただし5巻は今週発売)です。

話題の作品だけあって、無茶苦茶よかったです。知、そして好奇心の熱さ、それがダイレクトに伝わってくる作品です。その理由の1つが、歴史というつながりの重さを感じさせてくれる点にあるのだと思います。

私は以前からボードゲームにストーリーを持ち込む方法について考えていたのですが、最近はそれに限界を感じていました。長大なストーリーにはそれ相応の時間の流れ、つまり歴史が必要ですが、それをボードゲームで表現するにはプレイ時間を伸ばすか進行をセーブ(保存)して何度もプレイさせるかしかなく、それらはビデオゲームですべきだと思っていたからです。ですが本作を読み、それを解決できるかもしれない策が浮かびました。

本作では、主人公の少年が異端者として捕まっていた学者から、その生涯を賭けて練ってきた地動説という仮説と研究資料を受け取るところから物語が始まります。その後、その資料はさらに別の人物へと渡り、受け継いだ者たちは地動説完成のためさらなる資料、天動説を証明しようとしていた人々の積み重ねた観測記録を手に入れようとします。作中では(5巻までで)10数年しか描かれていませんが、この引継ぎによって2000年分もの人生が主人公の物語に厚みを与えているのです。この際、主人公たちと同じように苦しんでようやく何かを遺してきたのだと伝わる描写が挟まることで、過去の積み重ねが単なる設定や情報になっていないのもポイントでしょう。

プレイヤーが大きな歴史の流れの一部であり、先人たちもプレイヤーと同じ苦難を乗り越えたから今プレイヤーがいる。そう感じさせる仕組みが、ボードゲームにストーリーを持ち込むための解決策になるかもしれません。


上京生活録イチジョウ」(2巻) 福本伸行(協力)、萩原天晴(原作)、三好智樹、瀬戸義明(漫画)

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「沼」編(原作「カイジ」第2部に相当)のラスボスである一条聖也の上京直後時代を描いた、「カイジ」スピンオフの3本目です。第四十四回以来の登場です。

「成りあがろうとする若者の貧乏上京生活」という設定が上手く、給料日前のやりくりのような些細な日常からマルチ勧誘のような意識高い系話まで、広いジャンルの話題をネタにできるのが強いです。主人公と同年代の若者にとって、自分と同レベルの話が来たときは「あるある」として、そうでないときもいわば「いるいる」ネタとして消化できるラインから好きなだけネタが拾えるため、うまく作話コストが下げられていると思います。


大きくなったら女の子」 御厨稔

「人間が最初は全員男として生まれて思春期に体格の大きい人だけが女性化する」という世界の中で、女性化しないようもがく男性が主人公の読み切りです。

性と愛を常にテーマに据えながら、かつ読者の「この世界における性愛」への考えを揺さぶりながら物語を進めているおかげで、軸をしっかりさせつつも起伏のある展開を生んでいて面白い作品です。ジェンダー的な思考実験の要素もありながら、作中世界でのジェンダーへの見方が目まぐるしく変化させられるため、現実世界のそれに意識が向きすぎてノイズになりにくいのも上手いと思います。


ねぇねぇ、ねねさん。」 天色ちゆ

生活力皆無のOLと、通い妻状態になりながら彼女にご飯をふるまう大学生とを描いた読み切りです。

ネタバレになるので書けないのですが、52ページのセリフがもう本当に良いんですよ。これ書くために読み返して3回泣きましたもん。って書いた後に4回目泣きました。

技巧面では、謎の答え合わせの仕方に感心しました。なるほどこうすれば、説明台詞でも嫌らしくなく読めるんですね。これ以上ネタバレしたくないのでリンクからお読みください。


大好きな妻だった」 武田登竜門

結婚直後にガンが見つかり変わってしまった妻と、夫とを描いた読み切りです。

また書けないよ。ネタバレダメじゃんこういうの。また泣いたし。もう今日は店じまいです。


物理的な積読だけでなくtwitterのブックマークに残していた「積読」も整理しましたが、その分良い読み切りが多くて涙腺に来ました。でも読み切りって「転」が大事な分ここで扱いにくいんですよね。やめていただきたい。


一般書籍

やっぱ4冊同時並行は無理がありましたね。うん。


Web記事

研究とエンターテインメントの相互作用|アイヌ語研究者 中川裕
『心に埋めたものが流れ出す』小説だからできること|翻訳家 斎藤真理子

「作品作りに欠かせない、しかし表からは見えにくい職種の人々に話を聞」く連載「物書きの隣人」から、2本です。

両方とも、インタビュアーの方が適宜取材相手の方のお話をまとめたり具体例を挙げたりしてらっしゃり、読みやすくなっています。内容も、監修や翻訳の方がどう作品に関わっているのかがうかがえる、面白いものです。


【漫画】今日は蕎麦屋でラーメンを|いつか中華屋でチャーハンを

なぜラーメンを扱う蕎麦屋が多いのか、実際に食べ回りながら取材した結果を漫画にまとめた記事です。

食べたラーメンの特徴から話を進める構成により、ラーメン一杯毎に章が変わって読みやすくなっているのが面白いですね。最後にもう一度頭から読み返したくなる工夫がされているのもオシャレです。


書評 飯山陽著『イスラム教の論理』

イスラム国とイスラム教との関連を説いた新書に対し、筆者のイスラム教への理解の甘さを指摘し本書の危険性を述べた書評です。

専門家の査読の重要性がよくわかる書評であり、勉強になります。


最近悩んでいた問題の解決策になりうる仮説が思いつくなど、今週はいい感じのインプットができたのではないかと思います。あとは最近毎週日曜に更新している問題、というか週5で寝落ちしてまともな生活ができていない問題の解決策を思いつけば完璧ですね。

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