符亀の「喰べたもの」 20210307~20210313

今週インプットしたものをまとめるnote、第二十五回です。


漫画

怪物事変」(1~4巻) 藍本松

人に見つからぬようにこの世に潜んで生きる怪物(けもの)たち。その一つである屍鬼と人との間に生まれた半妖である主人公が、化け狸に拾われて怪物事件専門の探偵社で働く物語。

アニメ化を受けてか、いつもの本屋さんに急にほぼ全巻入荷したので購入。「保健室の死神」は全巻持っているのですが、それと同じ作者さんの本作は買った日まで存在すら知りませんでした。

流石にジャンプ連載経験のある方のアニメ化決定作とあって、面白いです。「保健室の死神」の時から、喜怒哀楽の表情描写やスパイス程度ながら適格に働く恐怖シーン、モンスター系のキャラデザが上手い作者さんでしたが、これらにより噛み合ったテーマのおかげでさらに強みが活かされている気がします。特に、子供たちを中心にしたおかげでオーバーな感情表現も違和感なくできるようになったのが大きく、面白さがわかりやすくなっているように感じました。やりすぎで上っ面な印象にならないように、主人公は感情がほぼ0のキャラとし、保護者的役割にも昼行燈な化け狸を採用してバランスをとっているのも上手いですね。

一方1巻ではその感情の山が小さい2人が中心のため、面白さの初速は弱い印象を受けました。世界観は面白そうですし、1巻のラストには強いヒキが用意されていますが、勧める際に「〇巻からもっと面白くなるからそこまで買ってね」と言いたくなる構成はやや不親切な気もします。主人公の痛覚や負の感情を持たないという特徴も他キャラの豊かなリアクションとの対比で輝くものであり、キャラの少ない最序盤では魅力を感じにくいのもマイナスかと思います。

とはいえ2巻までいけば十分面白いので、10巻一気に買わないとダメとかいうのではないのはいいところだと思います。2巻に出てくる紺さんがキャラとしてストライクど真ん中なので、それ以降の判定が激甘になっているだけな説はあります。なお最初3巻までを試しに買いましたが、2巻読んだ次の日には置いてた全巻(~12巻)買いました。


フラレガール」(1巻) 堤翔

色気があふれすぎて裏で「愛人」と呼ばれているヒロインと、「俺の愛人になってください!」と失礼すぎる告白をしてしまった子犬系ヒーローとのラブコメ。

1ページ目は色気のせいで受けた仕打ちをテキストで述べ、2ページ目は「これは愛人ですわ」なご尊顔を叩きつけ、3ページ目では上記のド失礼な告白でぶん殴る。この3ページの初速がすごい。その他ギャグ描写かと思いきや後々しっかり使われるシーンやセリフもあるなど、一粒で何度もおいしいようにして密度を上げている作品です。

最初こそヒロインの色気が話の中心ですが、それだけでは一発ネタになってしまいます。逆に、ヒーローの魅力はその純粋な可愛さなのですが、これを表現するにはある程度の描写を重ねる必要があります。そこでつかみをヒロインの色気が担当し、それとの対比をしつつヒーローの掘り下げをして、読者が飽きる前にカップル2人の魅力を叩き込んでいるのがいいですね。しかしその切り替えが不自然というか中盤色気ネタが急に無くなる瞬間があり、色気ネタを期待している分どう読めばいいのか混乱してしまった自分にも気づかされました。私がゲームを作る際、こういうつかみとその後の面白さを担う要因が違うパターンはよくやるのですが、その切り替え時に片方を急に無くすとプレイヤーがつまづいてしまう。これは重要な示唆であり、今後に活かしたいと思います。

なおそう楽しむものだとわかってからは面白く読めたので、たぶん既刊全巻買うと思います。


ミステリと言う勿れ」(8巻) 田村由美
主人公が雑学や気になったことをしゃべっているうちに事件が解決できてる系ミステリ―の8巻。第一回で書いた説明のコピペです。

その際は面白さの分析はできていませんでしたが、この巻を読むにあたって再考いたしました。その雑学や主人公の意見に対する読者のハッとする感じが、ミステリーに求めている気持ちよさに近いのが、その魅力なのかなと思います。ミステリーでは謎が解けたときやその解説を聞いているときのなるほど感が面白さを担っているのではと思うのですが、それと近い心地よさがこの主人公のしゃべりにはある。だから、一見関係のないうんちくや思ったことをしゃべっているだけなのに、それが邪魔にならず面白さにつながっているのかと思います。


ナガサレール イエタテール 完全版」 ニコ・ニコルソン

3/11コーナーで購入。東日本大震災で家が流され、祖母の認知症が悪化し、故郷に帰りたいと泣かれ、その他いろいろとやってきた問題に立ち向かいながらも家を再建した漫画家さんのエッセイ漫画。

泣きっ面にオオスズメバチとハブとマングースが襲ってきたような状況のエッセイなのですが、作者さんが誰かを悪者にしないように描いているのが伝わってきてすごいと思います。私も身内に認知症の者がおり、その経験的にもっと認知症の祖母を悪く描いたり、逆に可哀想に描いたり、ネタにしたりできると思うのですが、本作品ではかわいいトラブルメーカー程度の描写に留まっています。もちろん本人にしかわからない思いがあり、そこに土足で踏み込むのは無礼なことだと思うのですが、こうしたやさしい描き方だからこそ、これほど奮闘した道程を読んでも胸焼けしないのかなと思いました。


今週は読んだ作品の種類は多くなかったものの、読んだことのない作品や当たりのものの割合が高く、質の高いインプットができたと思っております。ところでなんでゲムマの準備で一番忙しいときに漫画読んでるの?



一般書籍

じわじわと読んでいます。

作業が順調に進めば、来週末ぐらいに今読んでいる本を読破したいです。



Web記事

ジャンプの漫画学校講義録⑥ 作家編 松井優征先生『防御力をつければ勝率も上がる』

アホみたいにバズってたやつ。この連載は終わってからまとめて読むつもりだったのですが、あまりにバズってたので読みました。

「防御力」に近い考えは既に持っていましたが、その実践法としての「兼ねる」には思い至っておらず、勉強になりました。

この連載は他の回も面白く勉強になりますので、是非読んでいただければと思います。漫画家志望の方以外でも第二回と第五回は十分得るものがあると思いますし、個人的には第三回が漫画の見方として参考になりました。


私は一ヶ月後、この牛を殺します。〜私がヴィーガンにならないと決めるまで〜

ヴィーガンについて勉強すべきタイミングがきたと感じた筆者が、実際に畜産を体験し専門家に話を聞いて、自分なりの答えを出す。その過程をまとめた記事です。

冒頭に述べられている通りとんでもなく長い記事で、しかも6セクションが均等な長さではない(3と5が他の2倍以上長い)ため今自分がどこにいるのかわかりにくいのは辛いところです。しかし、それでもヴィーガンについてまだ専門知識がなく、かつ長文耐性がある人なら、立場に関わらず目を通すべき文だと思います。

筆者さんはこのテーマに本当に真摯に向き合っており、可能な限りフラットな立場からそれぞれの意見を聞こうとされています。ヴィーガン食の当事者さんへのインタビュー中に「今察してこれ以上聞かないことにしたな」感が明らかなシーンが数回あるのはあまりよくない気がしますし、そこを踏み込んだ方がこの記事の意図に沿っている(聞いたうえで掲載を断られた可能性もある)と思います。ですがそれ以外についてはジャーナリズムの鑑といった手の込んだ取材をされており、本人のバイアスを極力排除しようとされているのが感じられます。結論部でもこれが正しいとは言わず、どの立場をとるかは読者にゆだねているのも、一貫しています。

それはさておき、このサイトでこの筆者さん担当の記事を調べて出てくるのがこれとこれなのはどうかと思います。その上でそっちもいい記事なのが、なんか腹立ちます。



ゲムマまで1ヶ月を切り、いよいよ準備で忙しくなってまいりました。特に今作は手間がかかる作品で、かつゲムマ大阪組の邪魔にならないようにという言い訳で広報を遅らせていたため、今から必死で動かなくてはならなそうです。そんなわけで、「怪物事変」の既刊読んだら作業始めます。

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