符亀の「喰べたもの」 20211114~20211120

今週インプットしたものをまとめるnote、第六十一回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。

ゲムマのため、日曜日に更新しています。


漫画

葬送のフリーレン」(6巻) 山田鐘人(原作)、アベツカサ(作画)

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勇者パーティーの魔法使いだったエルフが、魔王討伐の「その後」の世界で生きる後日譚ファンタジー。第四十三回以来の登場です。

演出が静かな分、平均点は高いものの巻を通して無茶苦茶面白いのは少ない印象の漫画ですが、今回は超無茶苦茶面白かったですね。

その理由を考えていましたが、多分シンプルに、今回の「ダンジョン攻略」というテーマが本作の特長と噛み合っていたのでしょう。本作の静かな演出は設定説明や絶望感の強調に向いている分、カタルシスが小さいのが弱点だと思っています。その点本巻のエピソードでは、ダンジョン踏破という明確なクリア目標とラスボス撃破時のカタルシスが保証されており、ラスボスの絶望的な強さが一目でわかったり中ボスたちの突破方法が理論的に説明されたりすると突破時の気持ちよさも増す、と短所を補い長所を伸ばす形だったのだと思います。

また後日談についても、主人公パーティのエピソードを軸にしつつ他キャラも交えて1話に収める手腕が見事です。ここをだらだらやれば特に週刊連載において失速が避けられませんし、ですがないとキャラ立ちが微妙になる。これを濃縮してお出しできるのも、地味ながら見事な点に思います。


アンデッドアンラック」(8巻) 戸塚慶文

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届くの遅かったね。(10月9日発行)(積んでいたわけではない)

王道展開と予想外の筋書きとを「兼ねる」強さが存分に発揮された巻だったと思います。前巻が主人公以外の王道展開一本のみで終わったので正直失速が怖かったですが、見事に盛り返してくれたと思います。

その結果、能力の発動で説明セリフを引き出しやすくなり、よりテンポよく物語を進められるようにしているのも上手いですね。最初からこうだと「説明セリフを言わせるためのキャラ、能力」っぽくなりますが、(ネタバレのため書けない理由)により能力の対象が変化した結果として描けば「兼ねる」になるのが面白いです。

同じルビ(しんじつ)で違う字(真実、不真実)を使う、反撃の嚆矢に因縁の技を使う、ちょっとしたコマで地味な設定を拾う、急激な変化によるタイムリミットで進行を加速させるなど、細かいところや繋ぎ部分まで面白さが詰まっており、改めてレベルの高さを感じました。


今までで二番目に忙しいゲムマ前(一番は当然最後まで焼き印入れてた「アマロン」のとき)でしたので、とりあえず作品を考察する際のキーワードが私的に決まっていて正直考察が楽そうなの2冊だけ読ませてもらいました。不純な動機で選んだ2冊でしたが、両方非常に面白かったため満足です。


一般書籍

ELEMENT 01」 宮本アシタ、Studio Turbine

29名の同人ボードゲームデザイナーが、自作のビジュアルデザインについて語った本です。また、それとは別枠としてスペシャルゲストのインタビューも載っています。あと私のも載せてもらっています。きゃー。

まず、冒頭の長谷川登鯉さんのインタビューが濃いですね。デザインというのは、まず意図(またはクリアしたい課題)があって、その解決方法を考えるものなのですが、売りたい気があまりない私にとって、ボードゲームで解決したい課題として「見やすい」以外はあやふやでした。なので、「ルールを覚えづらい箇所(中略)そこを、どうしたらルールが記憶に残るのか、あるいは伝えやすくなるのかを考えて制作」するという長谷川さんの言葉は刺さりましたし、今後の指針にしたいと思います。

メインコンテンツである作者による自作紹介部分も、非常に読み応えがありました。こういうのはよくファン向けの身内ネタ自慢大会、または広報用のセールスポイント紹介になってしまうものですが、本書に寄稿された文章は全てそうなっていません。本書で初めてその作品を知った人も想定しつつ、自分のこだわりを広報的効率を考えずにわかりやすくまとめて叩きつける、素敵で濃厚な文章があふれています。

さてここで、あえてデザイン自体よりも文章部分に着目したいと思います。というのも、本書は「有能デザイナーだが文章のプロではない人たちが共通のテーマで書いた文を、(文の編集をしたのかは不明ですが)編集者が共通のフォーマットでまとめた本」という、ある種特異な本だからです。つまり、内容はどれも一級品でありながら、それを文に落とし込む力の差が読後感に影響しているはずで、さらに共通テーマとフォーマットによりその差を感じやすいと思われる本なのです。文章にする技の巧拙を比較し、いいところを盗むには、最適な本ではないでしょうか。

そういう下種な観点から読むと、読んだ後に学びを得たなと思う文章は、2つのどちらかを満たしているのではないかと思いました。このどちらかがあった文章では、読み終えたあとに内容が頭に残り、「すごかったねー」以上のものを得られました。寄稿者に宣伝の意識は強くないと思いますが、それでも何かを伝えたくて寄稿したはずであり、それが読後にも残るかどうかは大きいでしょう。

その「残った」文にあったもの、まず1つ目は、ストーリーです。まず本書は、左ページにキービジュアルとゲーム概要、右ページにコンセプト説明とこだわりポイント3点が並ぶ構成です。その右ページ部分、コンセプト説明とこだわりポイント3つの計4ブロックを通して1つのストーリーが貫かれているかどうかが、1点目のポイントだと思います。

この「ストーリー」とは、まさにデザインの「意図」にあたる「課題設定とその解決方法」にあたります。要するに、「○○をしたかったのでAとBとCをしました」という流れになっているかどうか、ということです。この形に右ページの内容がまとめられていると、各内容がそのストーリーの枠組みに整理されるため、そのまとまりとしてすっと頭に入ってきました。手前味噌ですが、私の記事はそのストーリーを先に伝えるのを強く意識しながら寄稿文を書きましたので、そこはクリアできていると思います。

もう1点は「驚き」です。「その手があったか!」と心が揺さぶられれば、ストーリーも何もなくとも、その部分が強烈に脳に焼き付きます。

ここで重要なのは、どの作者さんも悩みに悩んで至った策を共有してくださっているため、全内容が驚くべきものであるはずということです。なのに、「驚き」を感じるものと、そうでないものがある。これは、その「驚くべき情報」の鋭さといいますか密度といいますか、「驚くべき情報」をどれだけ短い時間に感じられたかの差だと思います。1段落を読んでなるほど感がじわじわやってくる文よりも、キーワードやビジュアルで一瞬のうちに殴られた方が、「驚き」がシャープで強くなる。驚きの総面積は変わらなくても、時間という底辺が短いほどに「驚き」は増し、印象が強くなって心に残る。こういうことかと思います。私の原稿を見返すと、ここへの意識は不十分であったと感じます。一応「東大の伊藤研究室が提唱した色覚の多様性に配慮したカラーセット」というキーワードっぽいものは入れていますが、「色覚多様性に配慮するため、東大の伊藤研究室が提唱したカラーセットを使いました」などの方がキーワード部分(東大の伊藤研究室)が短くなり、「驚き」を強められたなと思います。

最後に、本書は予約分以外は僅少であり完売絶版のはずでしたが、どうやら後日わずかながらワケアリ分の放出があるようですので、気になった方はそちらから入手していただければと思います。あと、キービジュアルが横長すぎてクソデカロゴで隙間埋めてもらう形になったの本当に反省しています。すみません。


Web記事

同人トリックテイキングゲームのルールにおける専門用語の使用について

トリックテイキングというジャンルのゲームについて、その説明書で専門用語を廃しすぎであるなどの注意喚起をまとめた記事です。

これを拝読したうえで拙作の説明書を見返すと、「トリックテイキングという語はあるが説明書内でこの語の定義をしていない(紙面の都合で抜いた)」「トリックでは○○ができます、式で書いており『○○を(本ゲームでは)トリックと呼びます』のようにちゃんと定義していない」のようにあやふやな点があったなと思いました。以後気をつけます。

一方、筆者さんが「トリックテイキング」に対し非常に狭義のイメージを持ってらっしゃる気もしました。断りなしでこの語を用いた瞬間に連想するイメージが具体的すぎて、まだ記載されていないだけの部分を決めつけすぎて裏切られているだけの部分もあるように思います。これがいわゆるトリテ愛好家の方々の一般的認識なのだとしたら、こちらも意識を変えなくてはいけませんが。


これまでやってきた事と、これからやっていきたい事について

うちばこやの経営者さんが、「アクアガーデン」プロジェクトを経て方針のまとめをなさったnoteです。

「トラブルへの対処のルール」の3つ(誠実にリカバリー対応する、助けを求める、反省する)が当たり前に見えて重要で、これを方針として公開なさる覚悟を感じました。「人間関係における『勝利点の一致』」というキーワードには「驚き」を感じますし、「商品の品質やエラーについて」の章はそれを明言してしまうことから逆に誠実さが伝わってきました。


社外秘?ヴィレヴァンPOPのガチ講座

ヴィレッジヴァンガードのPOPの書き方について、企業秘密を漏洩させた記事です。

商品の説明をするかどうかという視点が欠けていたと気づき、目から鱗でした。確かに、見て何かわからないものには必要ですね。正直それはPOPの仕事ではないとなぜか思っていたので、結構衝撃でした。その他も真面目に勉強になる内容が多く、ヴィレヴァンをなめていたなと反省させられました。


ついに今回のゲムマも終わりましたね。皆様のおかげで、私たち史上一二を争う盛況で幕を閉じさせていただきました。なお宣伝に力を割きすぎて私の人件費抜きでも利益0の模様。

準備で目を回しているうちに積読が20冊以上増えましたので、ここから年末までで一気に崩していきたいと思います。まずは取り戻せ体力と読書筋。

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