符亀の「喰べたもの」 20210711~20210717

今週インプットしたものをまとめるnote、第四十三回です。

各書影は、「版元ドットコム」様より引用しております。


漫画

君は冥土様。」(3巻) しょたん

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元伝説の殺し屋、今はポンコツメイドさん。そんな学園コメディー。第二十一回以来の紹介です。

「あの殺人兵器だった彼女が、今はこんなに日常を楽しんでいます。かわいいね。」という作品のため、メイドさん含むキャラ達が楽しそうにしている様子を全力で書けばそれでストーリー的にもOKなのが強いですね。こういう作品は「あの殺人兵器」部分が設定だけのお飾りになることも多いですが、アクション面での画力でその設定にリアリティを与えつつ、他の日常系コメディー作品との差別化がされているのも上手いです。

この巻収録の話についてですと、メイドさんの好物を「地元で愛されている総菜屋さんのソース」にすることで、学園祭に好物のソースを登場させやすくしているのが話を作りやすくしており、上手い点だと思いました。このソースは同時に地元という日常に馴染んでいる様を表現するアイコンとしても作用しており、作品テーマにも合っています。よかったただのソースジャンキーなメイドさんじゃなかったんだね。


葬送のフリーレン」(5巻) 山田鐘人(原作)、アベツカサ(作画)

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勇者パーティーの魔法使いだったエルフが、魔王討伐の「その後」の世界で生きる後日譚ファンタジー。第二十六回以来の登場です。

この巻は魔法使い試験編に当たり、主人公組以外の多くの魔法使い達が登場します。故に多様な魔法が出てくるわけですが、逆に言えば、ここまでの巻ではわずかな魔法しか登場せず、魔術的設定のお披露目までかなりじらされた形になっています。魔法使いを主人公としたファンタジーなのにあえてここまで魔法系の設定を小出しにしていたのは一見異例に思えますが、確かにこういう設定の羅列になりがちなものを出せるまで世界観を固め、読者がそれを許容できるほどこの世界に馴染んでから一気に見せるのは有効な開示の仕方に思えます。逆に一気に開示したことで、一系統の魔法しか使えない術師と多様な魔法が使える者とがどの程度のレベル帯にあたるのかなどもわかるという副次効果すら生んでいます。本当によくできています。


首吊り気球」 伊藤潤二

トレンド入りにより日曜まで無料公開ということで、読みました。思っていたよりは怖くなかったですね(当社比)。

発想とビジュアル面の凄さは当然として、「倒してもダメ」「引きこもれば生存は可能」というパワー面での絶妙さが上手いと思います。前者は絶望感を高め、後者が無ければ惨劇すぎて逆にコントっぽくなっていたでしょう。このバランス感覚が痺れます。


余白の世界」 山原中

元高校生お笑いキングながら芽が出ず、バイトに明け暮れていたある日、元相方がお笑いグランプリで優勝したことを知った男を描いた読み切りです。

終盤のシーンで、主人公の闇のシーンが想定より1ページ早く切られたのに驚きました。これにより「軽!!」感が増しており、ここで主人公が凹むであろうというのは読者全員が予想できている分ダラダラやる必要もないという判断かと思いますが、とても効果的に感じました。


マジメサキュバス柊さん」(1話) ちると

性欲などに現を抜かさない、堅物男性の主人公。そんな彼がほぼ恋しかけている隣人は、実はサキュバスであり、しかし寝込みを襲えない真面目な女性だった。恋心により破滅しないよう、主人公は誘惑を避けられるのか、というラブコメです。

冒頭4枚に強めのページを連発しながら山場を作り、その後一番重要な4枚目を補強しながらトーンダウンさせる5ページ目で一旦落ち着かせる。このテンポ作りが上手いです。掴みを成功させつつ空回りしないようにテンションを戻し、その際に一番強調したいところを補強しておく方法は、他のメディアでも使えそうないい方法だと思います。


忙しいはずだったのですが、Web漫画も含め結構読んでましたね。なお進捗は生めておりません。


一般書籍

IPのつくりかたとひろげかた」 イシイジロウ

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「サクラ大戦」「文豪とアルケミスト」などのIPに関った著者が、その経験と著名な作品の分析からIPについての知見をまとめた新書です。

IPについて体系的にまとめた1章が非常に面白く、特にIPを作品単位の弱い「ストーリーIP」、それよりも強いが演者への属人性が残る「キャラクターIP」、そしてそうした属人性から離れて強固たる持続性を得た「世界観IP」という分類大系はIPを語るうえで今後引用必須になる概念に思えました。本書はあくまでも「IPに作者すら交代しても大丈夫な持続性を与えること」をIP戦略の最終目標としているため、我々個人かつ同人のクリエイターの活動とは噛み合わないところも多いかと思いますが、それでも面白いことには変わりありません。また、5章のイシイジロウ氏自らが手掛けられたIPについて、その戦略と結果をまとめてらっしゃるところもとても面白く、勉強になりました。

一方で、2章から4章の他社によるIP戦略の分析については、やや首をかしげる部分もありました。分析自体に(少なくとも素人の私がとやかく言えるような)誤りはないかと思うのですが、1つの事例から1つの結論を出す部分が続くため、「他の要因はないのか」「そもそもうまくいった(いかなかった)のは偶然なところも大きいのではないか」という印象がぬぐえなかったのがその理由です。逆に5章ではこの疑問を感じなかったのですが、これは先に仮説としての理論が語られてから実際の行動と結果が述べられているため、より実験としての強度が担保されているためかと思います。

ここから、文章術として「事例→理論という帰納的な書き方をする場合、事例は複数挙げないと論理性が弱く感じやすい」「逆に理論→事例という演繹的な書き方なら、事例が1つでもそれっぽく感じやすい」という言い方ができるかもしれません。この文の流れは帰納的ですが、先に2章から4章の例を挙げ、その後反例として5章の例を挙げているので、論理性は高く見えているのでしょうか。それとも、実質上の2つの理論について1つずつ例を挙げているにすぎないので、両方とも首をかしげられているのでしょうか。コメントお待ちしております。


Web記事

バンソウが信じるボードゲームの可能性と、世界ゲーム化計画へのお誘い

サラダマスター」などの一般向けボードゲームを販売されている株式会社バンソウさんが、もう一つの事業として法人向けにメディアとしてのゲームを作る理由についてまとめたnoteです。

伝えるメディアとして、受け手のコストに対する情報量や伝えやすさとして最も優秀なのは漫画かと思っていたのですが、確かに「体験できるメディアの中で最も資金的コストが安い」というのはボードゲームの大きなメリットですね。盲点でした。


『紳助さんが冷水をぶっかけるんです』笑い飯がいま明かす初期M-1の“殺気”…スリムクラブには『お前らの勝ちや』

結成20周年を迎えた笑い飯の特別インタビュー全3回、その2回目です。

ここの和牛の漫才(3ページ目冒頭)への考察が面白く、勉強になりました。言われてみれば、確かにコント風漫才でもツッコむ際は設定から出るシーンが多く、そこが純粋なコントとの違いだというのは流石の指摘だと思います。これ以外の回も面白かったので、興味のある方は第一回から続けてどうぞ。


週刊連載の進行速度の話

「『読者が容易に予想できる地点』にまで辿り着かずその回を終えてしまった場合に『遅い』と感じてしまう」という仮説に基づいた、漫画の進行速度に関する考察のツイート群です。

この仮説は私の体感とも合っており、その回避策も理にかなっていると思います。というかその回避策を既作や新作で取り入れているので、どれのことか探したり、新作をお待ちいただけたりされますと幸いです。


インプットの深さは戻ってきた感じがありますが、その分アウトプットが全然できていない気がします。一応少しずつ制作は進んでおりますし、脳内では色々と動いておりますので、続報をお待ちください。

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