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【DAY 5】自分の憧れの職業に就いているキャラクターが登場する映画 「4分間のピアニスト」

DAY 5
a film where a character has a job you want.
自分の憧れの職業に就いているキャラクターが登場する映画

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「4分間のピアニスト」(2006)
クリス・クラウス監督
モニカ・ブライプトロイ、ハンナー・ヘルツシュプルング

クリューガー(モニカ・ブライプトロイ)は、恩年80歳を超えるプロのピアニスト。刑務所に赴いて看守や受刑者にピアノを教えている。その中で、殺人罪で収監された女囚・ジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)の類まれなる才能を見出し、個別のレッスンを始める。しかし彼女はとんでもない問題児で、所内で暴力トラブルばかり起こしている。最初のレッスンでも、看守を半殺しにしてしまった。ただ、彼女の才能を信じて、妥協を許さない指導を続けるクリューガーの姿勢に、少しずつ心を開きはじめる彼女。ついにはピアノコンクールに出場、他を圧倒して勝ち進むことになる。

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憧れの職業、と言われてもあんまりぴんとこなくて、小さなころにピアノを習ってたのでこれにした。「ピアニスト」がタイトルに入る映画は、「海の上のピアニスト」(1998)や「戦場のピアニスト」(2002)などいろいろあるけれど、なんと言っても、「4分間のピアニスト」がいちばんだ。僕はこの映画を観るといつも、絶対に涙を流す。

この映画のキモは、タイトルの通り、最後の4分間にある。その核心は、予告編でも上手に隠されている。だから、今後この映画を観る予定がある人は、ここから先を読まない方がいいかもしれないけど、僕がなぜ泣くのか、を説明するためには、それについて触れなきゃいけない。

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「ふつう」の映画であれば、こんな筋書きになるであろう。ジェニーはクリューガーの真摯な指導のおかげで精神的に成長して心を開き、2人はわかりあい、ついにはクライマックスでは美しい音楽を奏で、大成功をする。
しかし、そんなことにはならない。

ストーリーは徐々に破滅へと向かう。半殺しにされた看守の陰謀により、またもや暴力事件を起こしたジェニーは、コンクールに出ることを禁じられる。しかしあきらめきれないクリューガーは、決勝の日の朝、彼女を脱走させるのだった。1年後だと、ユース・コンクールには出られなくなるし、クリューガー自身もさらに老いてしまって、指導ができないかもしれない。彼女が輝けるのは今しかない。

そしてコンクール会場。脱走犯を捕らえるために警官たちが殺到するが、クリューガーは「少しだけ時間をちょうだい、4分だけ」と懇願。ジェニーはシューマンのイ短調コンチェルトを弾き始める。しかし、突然立ち上がり、ダーン!と鋼鉄の弦を手で直接叩く。そこから、前衛的に振り切った怒涛の演奏が始まる・・!その鬼気迫る音楽は、クラシックでもなんでもなく、エレクトロニカなのか打楽器音楽と言えばいいのか、とにかく一度聞いて欲しい。

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このシーンにカタルシスを得られるのは、前フリがあるからだ。クリューガーは、ジャズやロックは低俗であり、古典派のクラシックこそが音楽だ、と言い続けてきた。だから、彼女がアシッドジャズのようなメロディを遊びで弾き始めると、「退化してしまうからやめなさい」と厳しく指導する。そして、ジェニーはそれを受け入れ始めていたところだった。なのにそれが最後の最後で台無しとなった。

何回観ても、このシーンに、何だか強い感銘を与えられてしまう。どう言ったらいいんだろう、「才能が持つ必然性」みたいなことなのかな。

実は、クリューガーは第二次世界大戦中、同性の恋人がナチスに処刑された、とか、ジェニーは犯された義父への恨みから無実の罪をかぶって服役してる、とか、いろんなサイドストーリーがあって、それらが全て複合されてラストに向かっていく。でも、最後の演奏シーンで、芸術の尊さ、みたいなものに触れてしまうと、そんなことはわりとどうでも良くなってしまうのだ。

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クリューガーは、この演奏を聞いてどう思ったのだろうか。最初は失望した顔を見せる。もともと飲酒はしないはずなのに、会場においてあったウェルカムドリンクのワインを何杯もガブ飲みする、そうだね、そりゃ飲まないとやってらんないよね。

けれど、演奏後、目をかわす2人。そのとき、クリューガーは不思議と微笑むのだ。そしてステージ上のジェニーは、初めて丁重にお辞儀をする。それは、ありがとう、でもあり、やってやったぜ、でもある。

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