江戸川乱歩『十字路 / 死の十字路 / 魅せられた美女』
※ネタバレあり。記憶違いや間違いもあるかも。
子供の頃、ポプラ社の明智小五郎・少年探偵シリーズが大好きだった。
中でも『死の十字路( https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/5030039.html )』は、シリーズ内でもちょっと異色で大人っぽいテイストに妙に惹かれて、一番お気に入りで何度も読んでいた。増えた死体やくつがない!に毎回ハラハラ、そして哀しいラスト。
序盤のドライブシーン、お弁当や魔法瓶のコーヒーなども子供心をくすぐった。
そういえばこの物語で「キャディラック」「チッキ」「ネームタグを切り取る細工」等を知った笑。
また、当時やっていた『土曜ワイド劇場』という番組で、天知茂主演の明智シリーズドラマが放送される回があり、遅めの放送時間&お色気シーンにより普段は我が家では子供NGだったけど、これは少年探偵シリーズだからと強引に主張して明智回は見てもいいことになった笑。
残念ながらあまり記憶に残ってないけど、明智が変装を解く恒例シーンや、『黒蜥蜴』の回は印象的だった。そしてドラマ版は助手・文代も小林少年も、子供だった自分には想像以上におばさんおじさんでがっかりしたような笑。
そして先日、BSで原作『十字路』をドラマ化した『魅せられた美女』が放送され見たので、自分用にメモ。
●あらすじ:ドラマ『魅せられた美女』
ヒロイン晴美は人気アイドル。
事務所社長・省吾が、ヒットのご褒美という名目で、買ってくれたマンションで話す二人。
晴美は単に社長として慕っているが、省吾のほうは下心ありありで二人は愛人関係との噂も。
そこへ省吾の妻・友子が浮気を疑い刃物を持って訪れ、晴美に襲いかかる。揉みあいになり友子が誤って自ら肩を刺してしまい、晴美はショックで気絶する。
目覚めた晴美に省吾は「友子が死んだ、ばれたら有名天才棋士である晴美の兄・良介にも迷惑かかるぞ、君の罪は黙っててやるから」等と言いくるめ、友子の自殺偽装作戦開始。
晴美は、友子に成り済まし伊東のホテルにチェックインのち、自殺の名所・佛が浦に帽子等を置いて立ち去る。
偶然、伊東に釣りに来ていた明智・助手文代・小林少年が、帽子等を見つけ警察に届ける。将棋好きの警察署長を偶々訪れていた天才棋士・良介と明智が遭遇し、互いのそっくりぶりに驚きつつ会話を交わす。
晴美が戻り、省吾は友子の死体を部屋から車に運ぶ。途中で友子の靴が脱げるが省吾は気づかず、その後落ちてた靴を拾うマンション管理人。
死体運搬中の省吾は十字路でトラックと事故ってしまい、相手と交番で示談だなんだともめる。
同じ頃、事故現場近くにあるバー桃子に、晴美の兄・良介と晴美のマネージャー・幸彦の姿が。
元彫刻家で実家がマネキン工場の幸彦は、今度は生きた人形(=晴美)を育てたい等と言い、シスコン良介は激怒し口論。
幸彦に突き飛ばされ頭を強打するも店を出た良介は、近くに止まっていた省吾の車をタクシーと思ったか後部座席に乗って寝てしまう。
そんなことは知らずに交番から戻った省吾。
そして良介の後を追ってきた幸彦が、事務所社長である省吾の姿を見て不審に思い尾行。
到着した自社所有地の沼で、友子の死体を始末すべく慣れない手つきで奮闘する省吾。
そこに目覚めた良介がやってきて、驚愕する省吾。
省吾は良介に「殺したのは君の妹だ」等と説明するも、友子の刃物で結局良介を刺し殺してしまい、死体が二つに!
そして友子の靴がないことに気づき、パニくって探すが見つからないので、そのまま二人を沼に沈め立ち去る。
…が、追ってきたマネージャー幸彦は一部始終を見ていた!!
その後、幸彦は目撃した旨、現場の沼で拾ったと靴を見せ省吾を恐喝。
省吾は幸彦の条件(晴美と一緒に独立、実家のマネキン工場を5000万で買取)をのむ。
一方晴美は、良介のアパートで行方知れずの兄を思う。そこに省吾がやってきて晴美を手ごめにしようと襲い掛かる。危機一髪の所で玄関ベルが鳴り、出るとそこには友子の自殺を怪しんで調査している明智の姿が。
良介そっくりの明智を見て驚く晴美に、明智は「お兄さんのようにお役に立てますよ」と優しく伝える。
助手文代が晴美のマンションで聞き込み&管理人から靴ゲット、小林少年が伊東で聞き込み。探偵事務所で情報整理していると、自首を覚悟した晴美がやってくる。
だが晴美から詳細を聞くと、友子の刃物が刺さったのは肩なのに死因は心臓一突き等、どうもおかしい。
明智は「あなたの犯罪ではない」と晴美に告げ、しばらく文代の所にで晴美をかくまうことにし、証拠の死体を探すべく事件を引き受ける。
明智が省吾の会社を訪れ、管理人が拾った友子の靴を突き付け、友子殺しや省吾が過去に犯した先代殺しなどを指摘する。幸彦に靴で騙されたことを悟った省吾は内心の動揺を隠しつつ、明智にはただの推測だ証拠もないと言い放つ。
明智が帰るやいなや、省吾は車を走らせる。例の沼に着くと、死体が浮いてこないようにする為か、大きい石を放り込む。尾行してきた文代と小林少年はしっかり目撃、更にもう片方の友子の靴も見つける。
晴美のマンションで飲み交わす省吾と幸彦。酔った幸彦を送る車中で、幸彦は靴の嘘を認める。幸彦は万一に備え桃子に手紙を預けていると言うが、省吾はかまわず、酒と睡眠薬で朦朧とする幸彦を乗せた車を海に飛び込ませる。
省吾は桃子の部屋に侵入し手紙を探すが、入浴中の桃子に見つかってしまい、桃子を浴槽に沈め殺してしまう。
幸彦の車が引き上げられたが、死体は発見されず。警察との立ち合いに「会社の金を使い込んでたから自殺したのでは」としれっと語る省吾。
友子の靴が見つかった為、浪越警部が令状を取り、省吾立ち合いのもと沼を捜索するが死体は見つからず、折れた刃物の柄だけが出てきた。
勝ち誇った顔で省吾は、「名探偵とは名ばかりで 我慢できないほど傲慢で あきれ返るばかりの無知で はなもちならない気取り屋」と明智に言い放つ。
明智に勝利し満足気な省吾のもとに、死んだと思っていた幸彦から電話が入り、マネキン工場で会うことに。
実は幸彦の案で、友子と良介の死体は一旦沼から引き上げ、石膏で固めマネキン工場に隠してあった。省吾は警察の裏をかいて再度沼に沈め、完全犯罪をもくろむ。
省吾は口止め料を渡すふりをして幸彦をナイフで刺そうとするが、浪越警部が現れ幸彦の死体があがったと告げる。
じゃあ、ここにいるのは…?!?!?!
変装をときながら「名探偵とは名ばかりで 我慢できないほど傲慢で あきれ返るばかりの無知で はなもちならない気取り屋 の明智小五郎だ」と省吾の台詞を引用し名乗る明智!
負けたと見せかけ、天才棋士良介から学んだ相手の出方を見てから自分の出方を決める明智の作戦だったのだ。
己の敗北を認め、あっさり逮捕される省吾。
明智が二体の石膏像を砕くと、友子と良介が現れた。良介に刺さったままの刃物は、沼で見つかった柄と一致した。
やってきた晴美が良介に駆け寄ろうとするが、明智が遮り「見てはいけない。見たければ私の顔を見なさい。お兄さんとの思い出を美しくしておくために」と優しく立ちはだかるのだった…。
晴美は罪に問われることなく、世間の同情もあり更に人気者となる。
涙を浮かべながら歌う晴美を、事務所のテレビで見ている明智・文代・小林少年。晴美の歌唱シーンが流れ物語が終わる。
●感想
ドラマのオリジナリティ部分もわりと面白かったけど、小説の肝やとてもいい所が削られていて、そこはがっかり。
残念1:幸彦が下衆い悪者
ドラマは芳江が登場しないからとはいえ、せめて晴美の真の味方であって欲しかった。
残念2:省吾が殺し過ぎ非道過ぎ
過去に先代社長、そして今回は友子・良介・幸彦・桃子と、自分の野心や目的の為躊躇なくやってて、小説での巻き込まれ的キャラとは違ってただの酷い極悪人。
残念3:桃子の扱い
お色気(入浴・裸体)要員なのか、幸彦が大事な手紙預ける程の関係性でもなかろうに殺されてしまうし気の毒。
残念4:良介の死因
小説では、省吾は遺棄はしたけど死には関与しておらず、知らない男が自分の車で知らないうちに死んでてめちゃめちゃ驚愕する、というのがこの物語の絶妙で面白いとこなのに~!
残念5:ラスト
小説版では、省吾と晴美は恋愛関係にあり、互いを守る為に罪をおかしてしまう。そして最期は逃げきれないと観念した省吾が晴美に電話で別れを告げ、銃を自分のこめかみに…。その電話で思いを受け止めた晴美は、省吾のあとを追う為、マンションから投身…。という哀しい名シーン。
ドラマ版のキャラ設定だと、小説版のラストにはどうやってもならないので仕方ないけど、上記4とこのラストが、この作品を名作にしている所以なのに~!
でも、ドラマ版の良介と明智がそっくりというオリジナル設定をいかしたラスト(石膏シーン)も、天知茂ならではの明智の優しさとダンディズムが出ていて、これはこれで良かった。
そうそう、小説(十字路)版は、幸彦と芳江によるエピローグがある。
現場のダムから友子と良介の遺体が引き上げられ、良介の葬儀を幸彦と芳江が行った。
そして省吾側の親族が情死した二人の気持ちを酌み、省吾・友子と晴美の合同葬にしたと語られる。
省吾と晴美が電話でそれとなく意志を通じた上での遠隔情死というのが人々の同情をひいたとか、犯罪者であっても悪人ではなかったからとか、世間は存外好意的な模様。
そして芳江の提案で、悲劇を弔う為花束投げに行こうと芳江と幸彦は現場に向かうのだった。
…というような、意外にもロマンティックな後日談。
友子にしたら夫に殺された上に夫の愛人と合同なんて浮かばれないだろうけど…。
友子は、小説(十字路)版・ドラマ版では省吾の妻、小説(死の十字路)版は大学時代の知人。いずれも省吾に殺されてしまう気の毒な役だけど、自分の夫に…というよりも、関係性が薄い『死の十字路』版の友子がまだマシのような。
三國連太郎主演の映画版『死の十字路』は未見なので、こちらも見たら追記したい笑。
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