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「広葉樹のまちづくり」 飛騨高山での取り組み

広葉樹と針葉樹の樹形は明らかに違う。

針葉樹は、頂端(リーダー)が天に向かって伸びてゆき、他の頂芽もリーダーに倣って伸びており、円錐形の樹冠を示すことが多い(頂芽優勢)。それに対して広葉樹は、頂端が放射方向に拡がり、受光面積を稼ごうと半球状〜円筒状の樹冠を示すことが多い。全体としては枝が重ならないように調和が取れている。

飛騨高山は岐阜県の北部に在って、周囲を1000mを越す山々に囲まれる。広葉樹の森林面積率が高く、主要樹種はブナとナラである。ブナは木片に無と書く「橅」、裏日本から東北地方にかけて標高の高いところに分布する高木である。木材の比重は大きいが、乾燥で狂いやすいために用の無い木と扱われた可哀想な命名である。ところがある時、飛騨高山を群然訪れたヨーロッパ人が、曲木という技術を用いた家具作りを紹介したことから、曲木に適するブナがたくさんあることで、飛騨高山の家具作りが始まった。元来「飛騨の匠」と称される木工技能職人が大勢いて、都での寺社仏閣の建築技術を伝承していたため、家具や木工産業は瞬く間に当地の主要産業となり、今日を迎えているそうだ。ところが、アクセスの問題からか、地域の現状は過疎問題などが顕在化している。

国の林業政策は、針葉樹を向いている。林野庁が掲げる「国産材利用・自給率向上」の旗頭のもと、各地方自治体の方向性は、さながら針葉樹の樹形のようである。一方、飛騨高山地域で国産材といえば広葉樹だ。広葉樹を扱う多種多様な木材関係者が営みを続けている、我が国でも稀有な地域と言える。飛騨市は、地域の現状を素直に受け止めている。決して針葉樹の未利用材を利用したバイオマス発電誘致などと「無いもの強請り」せず、「広葉樹のまちづくり」と素朴なスローガンで連携している。行政と地域の事業者がそれぞれの役割・業態でリーディングを目指しながら、それでいて同じ言葉で語り、自然と互いを補完する取り組みとなっている。筆者も「広葉樹の木材乾燥」で微力ながら参画している。決定の速さと実行力の高さ、はたまた環境へのしなやかな適応力は、さながら早生広葉樹がごとしである。

広葉樹の樹形は、針葉樹と比べてばらけているように見える。しかしながら、それぞれの頂芽は互いにコミュニケーションを取り、全体として調和がとれていることがごく自然となっている。それぞれの立ち位置での知識と経験が活かされ、各プレーヤーが連携を取りながら発展を目指している飛騨市の「広葉樹のまちづくり」が似てやいないか?私には重なっているように見えてきたから不思議である。

このような広葉樹的組織化や取り組みが地方にもっと増えてもよいのではないか?そのことは、戦後の針葉樹拡大一斉造林を目指した我が国の林業政策が、広葉樹林業に立ち還る分岐点にあることを暗示しているようにも感じられる。

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