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Smif-N-Wessun : Dah Shinin'

Black Moon とくればやはり Smif-N-Wessun でしょ、ということで彼らの 1st アルバム『Dah Shinin'』(95年)をレビュー(過去レビュー)。

Smif-N-Wessun は N.Y. ブルックリン出身の Tek と Steele による 2MC スタイルの Hip-Hop デュオ。
93年、先に紹介した Black Moon の 1st アルバム収録の2曲でシーンに登場、翌94年にデビュー・シングル『Bucktown / Let's Git It On』をリリース。これが US Billboard Hot 100 で93位、Hot Rap Songs で14位を記録し、メインストリームに躍り出る。

Black Moon の Buckshot をファウンダーとする Boot Camp Clik の構成要員であり、アルバムのバックトラックは Da Beatminerz が製作、Boot Camp Clik一派の Buckshot, Heltah Skeltah, Originoo Gunn Clappaz らが客演している。

重低音と煙たいスモーキーな雰囲気という点では Black Moon の『Enta da Stage』と同じ系譜だが、全体的によりソリッド&シャープな仕上り。
基本的に音数は少なめ、ウネるベース・ラインにガシガシ鳴るドラム、浮遊感のある上モノ、沈み込むようなダークなトラックにジャジー&メロウなサンプリング・ネタ、と完全に私のツボを押さえた音。

『Enta da Stage』から2年、より進化し深化したサウンド・プロダクションが聴きモノ。個人的には『Enta da Stage』よりも好きかな。ジャケットはジャズ・ヴィブラフォニスト Roy Ayers が Ubiquity 名義でリリースした『He's Coming』(72年)のアートワークを拝借したモノ。

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Black Moon 1st 収録の『Black Smif-N-Wessun』はヤーディーなレゲエマナー・トラックでした。Smif-N-Wessun の特徴は Da Beatminerz トラックにあるのは当然のことですが、ラガ Hip-Hop にも通じるネチッこくて粘りのある Tek & Steele のフロウも重要な構成要素。
私は英語はもちろんのことパトワも判りませんが、クセのある発音やイントネーションが独特のグルーヴ感を生んでるかと。

アルバムは Sonrise と表記される前半の8曲と、Sonset と呼ぶ後半8曲、合計16曲 1時間7分。Billboard 200 では 59位 を記録。

このアルバムから3枚(5曲)がシングル・カットされていて、90年代の東海岸ハードコア Hip-Hop を代表するウルトラ・クラシックな1枚。
とにかくデカイ音で浴びるように聴いて欲しいです(またか)。

まずは前半戦 Sonrise の8曲。

(1)『Timz n Hood Chek』の高い青空から爆撃機が真っすぐ一直線に飛んでくるようなベースラインは、Hip-Hop シーンでこぞってサンプリングされたカナダ系アメリカ人のコンポーザー、Galt MacDermot の『Bedroom』(71年)。そこに Power of Zeus の『The Sorcerer of Isis (The Ritual of the Mole)』(70年) からビシバシど真ん中のドラムを充て込んでいて超カッコ良し。
DJ Evil Dee のスクラッチもキレが良くて言うことなし!! Great!!
フックでは自身も参加した Black Moon の『U da Man』をサンプリング、1st ヴァースが Steele、2nd ヴァースが Tek。

(2)『Wrektime』の色気のあるベースラインは Barbara & Ernie の『Somebody to Love』(71年)、埃っぽいドラムは The Mad Lads の『Get Out of My Life, Woman』(66年)、フックのところで遠く鳴っている警報音はギタリスト Eric Gale『Forecast』(73年)から敢えてギターでなくてホーンをフリップ。プリモ先生も得意としていた rugged なトラックですね。
クレジットを見るとプロデューサーは Mr.Walt (お兄さんの方)。

(3)『Wontime』では Heltah Skeltah の Rock をフィーチャー。ビートはド定番 James Brown の『Funky President (People It's Bad)』(74年)で、元々小気味よいドラムだがここではさらにデッドにフィルター加工していて布団を叩いているかのよう。(ちなみに J.B. はこの曲が収録されている『Reality』(74年)あたりからピークアウトしはじめたと言われてる)

声ネタのループは Hip-Hop 黎明期のアーティストの一人 Spoonie Gee の 1st シングル『Spoonin' Rap』(79年)からサンプリング。
このトラックは 3rd シングルとしてリリース、US Rap チャート 48 位。

(4)『Wrekonize』は 2nd シングル(カップリングB面は (5)『Sound Bwoy Bureill』)で、US Rap チャート 29 位。艶っぽいベースは New York Port Authority の『Home on a Rainy Day』(77年)、乾いたドラムは Iron Butterfly『Get Out of My Life, Woman』(68年)、ややユッタリ目のビートが心地よい。Tek と Steele のフロウもゆるやかに交錯し、ビートとフロウがネットリと絡んでメッチャ気持ち良し。

シングル・リリースされた Remix Vocal では、Grover Washington Jr. feat. Bill Withers のメロウな名曲『Just The Two of Us』(81年)をサンプリングして全く別のチューンとして再構築したドリーミー・ナンバー。名曲まんま使いなので悪いワケがない。コーラス・パートでは Foul Play と Heltah Skeltah が客演しているらしい。

(5)『Sound Bwoy Bureill』はガンジャ臭いラガ Hip-Hop、Originoo Gunn Clappaz の Top Dog と Starang Wondah をフィーチャー。
元ネタの The Waters『My Heart Just Won't Let You Go』(75年)のベースはレゲエっぽくないけれど、冒頭の雄叫びにレゲエ・コンピレーション・アルバム『Reggae Sound War Electrocutioner Vol. 1』からサンプリング、その後も乾いたドラムに上述のアルバムから次々とラガ・ボイスをサンプリングしまくったスモーキー・チューン。それにしてもPVが怖すぎ!!

Verse 1 : Top Dog --> Verse 2 :Tek --> Verse 3 : Steele --> (interlude) --> Verse 4 : Steele --> Verse 5 : Tek --> (interlude) --> Verse 6 : Tek --> Verse 7 : Starang Wondah --> Verse 8 : Steele

当初は (4) のB面でリリースされたが、後に12インチA面としてリリースされたときの Vocal Clean Remix では En Vogue の『Hold On』(90年)から妙なプープー音をサンプリング。

(6)『K.I.M.』の意味はどうやらフックの "keep it moving" のようですね。このローファイで凄まじい音圧の肉厚ドラムは Paul McCartney ソロ 1st アルバム収録の『Momma Miss America』(70年)からサンプリング(これは格好のドラム・ネタだよね。当時、Paul は The Beatles の洗練された音を回避したくて意識的にルーズで太いスタイルを選んだそうな)。

落ちてゆく(堕ちてゆく)ベースラインにこのヘヴィネスは堪りませんねぇ。Steele と Tek のフロウもイイ感じだし。
The J.B.'s の『Gimme Some More』(72年)からもサンプリングしているらしいけどよく判りません。おそらくホーンだと思うのだけれど。

(7)『Bucktown』は彼らのデビュー・シングル。印象的なホーンは Cream のベーシスト Jack Bruce のインスト・ジャズ・アルバム『Things We Like』(70年)収録の『Born to be Blue』から(タイトルが素敵過ぎる)。ジャジーでユル目のホーン・ループにサクサク rugged でスモーキーな埃っぽいドラムは The Whatnauts『Why Can't People Be Colors Too?』(72年)。

ラップは、Steele の余裕のあるスムーズなフロウに対して、Tek はレゲエ色を押し出したネバりのあるフロウ。この対比もなかなか。
フックの "(Bucktown!) Home of the original gun-clappers" は忘れられない。私の中では90年代イースト・コースト Hip-Hop の象徴のような存在。

(8)『Stand Strong』の遠くで鳴ってるフルートは Isaac Hayes の『The Look of Love』(70年)から。よくこんなトコロから持ってきたよね。ドラムは定番ネタ Lightnin' Rod feat. Kool & the Gang の『Sport』(73年)で、オリジナルは軽快なドラムなんだけど、重量感のあるタメの効いたビートにしているのが流石。シヴイ。

ここからは後半戦 Sonset の8曲。

(9)『Shinin.... Next Shit』冒頭40秒ほどは、Graham Central Station 『The Jam』(75年)のパーカッションと The Waters『You Are Lost in My Dreams』(75年)のお水チョロチョロ。

一転してジャズ・ピアニスト Roland Hanna のトリオ編成によるリリカル&メロウな『So You'll Know My Name』(71年)のピアノ・ループに、再登場 Power of Zeus『The Sorcerer of Isis (The Ritual of the Mole)』(70年)のビシバシ・ドラムがまさにシットなチューン。
最後のフック "Stoned is the way of the walk" のリリック・ネタは Cypress Hill で、唄っているのは Buckshot。
Weather Report の『Orange Lady』(71年)からもサンプリングされているとあるけど効果音みたいなヤツかな?

(10)『Cession At Da Doghillee』は Buckshot, Heltah Skeltah, Originoo Gunn Clappaz の Boot Camp Clik 一派が勢揃いのマイクリレー。
James Taylor and The Flying Machine の『Knocking 'Round the Zoo』(71年)によるタイトなドラムとジャズ・フルート奏者 Bobbi Humphrey の『Harlem River Drive』(73年)からフルートをループ。浮遊感があって本来はキモチ良い筈なのだけれど、妙なベースラインを繰り返すことで不安定な感じがドープなり。

Verse 1 : Ruck (Heltah Skeltah) --> Verse 2 : Starang Wondah (O.G.C.) --> Hook : Buckshot --> Verse 3 : Louieville Sluggah (O.G.C.) --> Verse 4 : Rock  (Heltah Skeltah) --> Verse 5 : Tek --> Hook : Buckshot --> Verse 6 : Top Dog (O.G.C.) --> Verse 7 : Steele --> Hook : Buckshot の順。

(11)『Hellucination』ドラムはまたしても The Whatnauts の『Why Can't People Be Colors Too?』(72年)に Minnie Riperton『Only When I'm Dreaming』(70年)から切ないメロディーをループ。
Tek と Steele は良い意味で力の抜けたフロウで颯爽とライミング。二人の絡み具合がナカナカ良いです。

楽曲が似ているということではないけれども、Wu-Tang Clan の『Can It Be All So Simple』(93年)を想起させるね。

(12)『Home Sweet Home』はタイトルとは裏腹なダークサイド。Bo Diddley『Hit or Miss』(74年)のドラム(残念ながらBo Diddley ビートではない)に、アルバム・ジャケットのヒントにもなっている Roy Ayers Ubiquity のアルバム『He's Coming』(72年)に収録されている『We Live in Brooklyn, Baby』から不穏なキーボードをサンプリング。
Tek と Steele のラップもダークな音に溶け込むように醒めたニュアンスで、フックでも Roy Ayers の曲そのままに "We live in Brooklyn, baby" をダウナーに繰り返してます。

(13)『Wipe Ya Mouf』の太くいなたいドラムは Stanley Clarke の『Slow Dance』(78年)、そこに Hip-Hop 界ではサンプリング・ネタの宝庫と言われるジャズ・ピアニスト Ahmad Jamal の『You're Welcome, Stop on By』(80年)のキーボードをループ。敢えて王道のピアノではなく、後期のフュージョンっぽい頃のナンバーからチョイスしてきたところがヒネクレ者。
フックのリリックの無意味さは Hip-Hop の真骨頂でもある。

(14)『Let's Git It On』では Heltah Skeltah の Rock をフィーチャー、デビュー・シングル (7)『Bucktown』のB面としてカップリングされたナンバー。ファンク・バンド Mandrill の『After the Race』(74年)から目の前を駆け抜けるスポーツカーのようなベース・ループと Les McCann『North Carolina』(72年)のドラムだけというシンプルなバックトラックに、Steele と Tek が男臭く気合の入ったラップを披露してます。
Malcolm McLaren の『Buffalo Gals』(82年)からもサンプリングしているとのことですが、単なる効果音ですね。

(15)『P.N.C. Intro』はタイトル通りラスト・ナンバーの導入部。
どうも P.N.C. とは partners-in-crime の意味らしい。

(16)『P.N.C.』では R&B/ファンク・バンド One Way feat. Al Hudson の『Get It Over』(81年)から印象的なキーボード・フレーズをサンプリングし哀愁を帯びたメロウなトラックに仕立てています。ドラムは Mighty Tom Cats の『Love Potion-Cheeba-Cheeba』(73年)から。
(「チーバ、チーバ」って「千葉県千葉市」かと思ったら違うんだね)。

最後の最後になって Monte Croft の『Vibe Riffs 1』(93年)からヴァイブをサンプリングしてきて the end。

この 1st アルバムをリリースした直後にアメリカのガン・メーカー Smith & Wesson 社から名称の使用停止が訴えられ(知的財産侵害行為などの停止/中止通告)、Cocoa Bravaz と改名。まさかそれが原因ではないと思うが、2nd アルバムは今ひとつ。その後 Tek & Steele とも名乗り、やがては Smif-N-Wessun に戻ることができたが時すでに遅し。

90年代 Hip-Hop 黄金期にあってその他のアルバムを凌駕する「Hip-Hop の金字塔」とでも言うべき傑作。是非お試しください。

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