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Black Moon : Enta da Stage

Goodie Mob を聴いたら無性に90年代 Hip-Hop が懐かしくなり、N.Y. ブルックリンのハードコアな Hip-Hop クルー Boot Camp Clik のコア・コンピタンス、Black Moon の1stアルバム『Enta da Stage』(93年)を手に取る(過去レビュー)。

Black Moon は Buckshot と 5ft の2MC + トラックメーカー DJ Evil Dee の3名で構成される Hip-Hop グループ。Buckshot のやや甲高くシャープなんだけどどこかダルでヤサグれた感じのフロウでビシビシ斬り込んで来るのがとにかくカッコ良い(その一方で 5ft の存在感は薄いけど)。

そして何といっても最大の特徴は DJ Evil Dee が手掛けるトラック群。クレジット上のプロデューサーは Da Beatminerz となっているが、この Da Beatminerz は Mr. Walt(兄) と DJ Evil Dee(弟) を名乗る Dewgarde 兄弟が中心となって結成されたプロデュース・チームで、ほぼ実質的なセルフ・プロデュース作品(兄 3曲、弟 11曲のプロデュース)。

一言でいえば、ブッといベース・ラインとバランスなどまるで無視したような重低音、むせ返るようなスモーキーな雰囲気と rugged な作り、アンダーグラウンド臭プンプンで黒光りしまくりのドープなサウンド・プロダクション。今の耳にはビックリするくらい音質が悪いのだけれど、それがまた堪らんというアンダーグラウンド Hip-Hop の特権なり(Wu-Tang Clan の1stも同じ理屈ですね)。

ちなみに wiki によれば Brothers Lyrically Acting Combining Kicking Music Out On Nations というバクロニムがあるそうな。初めて知りました。まっどーでもいいけど。

アルバム・ジャケットがいかにも90年代でイカしてます(死語)。
左のグリーン・キャップが Backshot、右のフーディーが DJ Evil Dee、中央奥のワッチが 5ft です。

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アルバム前半は First Stage と呼ぶ 7曲、後半は Second Stage 7曲、の全14曲トータル57分弱。 Top R&B/Hip-Hop Albums チャート33位を記録。
ここから 4曲 シングル・カットされていて、秀抜なリミックスも多数存在しているので是非そちらもチェックください。

個人的には First Stage / Second Stage 甲乙つけ難しですが(強いて言えば前半の方がやや好きかも?)、とにかく全編通じて高音域をフィルターカットした地下室のようなデッドな音、ガシガシ・ハードなドラム、重くウネるベース・ライン、汚れたホーンアレンジ、とこれらキーワードにピンと来る人には絶対に病みつきになること受け合いの中毒性の高い1枚。

とにかくデカイ音で浴びるように聴いて欲しいです(というかいつも同じことばかり言ってるだけですやん)。

まずは前半の First Stage から。

(1)『Powaful Impak!』のっけから矢鱈と重たい重戦車のようなビートでスタート。元ネタは Baby Huey の『Hard Times』(71年)のドラム(このオリジナルの音どこかで聴いたことがあるなぁと思ったら Curtis Mayfield プロデュースでした。なるほど)。
そしてベース・ラインは Gang Starr『Just to Get a Rep』(90年)なのですが、そもそもこれにはサンプリング元があって Jean-Jacques Perrey の『E.V.A.』(70年)なのですね。メタ・サンプリングってヤツです。
フックは小刻みなスクラッチと Busta Rhymes を引用。途中で素っ頓狂なホーンを遠くで鳴らしたり、フツーの感性じゃできないトラックですな。

(2)『Niguz Talk Shit』ではリングベルに Eddie Harris の『Tryin' Ain't Dyin'』(76年)からベースをモッコモコに響かせて、Ike & Tina Turner 『Cussin', Cryin' and Carryin' On』(69年)のドラムに Dizzy Gillespie の『Matrix』(70年)エンディング寸前の一瞬のトランペットをチョップするという荒業。スゴイです!!
Buckshot のラップもカッコよくてフックの "Niggas talk shit but that ain't my steel'" では気合が入っちゃうし、とにかく My フェイバリット。

(3)『Who Got Da Props?』はアルバムに先駆けてリリースされた彼らの 1st シングル。US Hot Rap シングルチャート 28位。
白玉キーボードとフワフワ・エレピは Hip-Hop 界のド定番 Ronnie Laws『Tidal Wave』(75年)、ビートはこれまた Hip-Hop 界のウルトラ定番 Skull Snaps の『It's a New Day』(73年)、コーラスには伝説の Hip-Hop ムービー『Wild Style』のサウンドトラックから、と大ネタの大盤振る舞い。フックの "Who got the props? (come on!)" は耳に残るね。

(4)『Ack Like U Want It』の乾いた抜けの良いドラムは James Taylor and The Flying の『 MachineKnocking 'Round the Zoo』 (71年)、ベースは Lee Michaels『(Don't Want No) Woman』(69年)、カナカナカナと鳴り響くホーンは Tyrone Washington の『Submission』(73年)、からサンプリング。
ここに来て 2nd ヴァース と 4th ヴァースで 5ft が登場。悪くはないけどやはり Buckshot の方がカッコいいよね。

(5)『Buck Em Down』は4枚目のシングルにして傑作と称されるクラシック。ジャズ・トランぺッター Donald Byrd が後期にリリースしたジャズ・ファンク名盤『Places and Spaces』(76年)収録の『Wind Parade』をまんま使い、そこに Lafayette Afro Rock Band 『Hihache』(73年)のドラムを充てたもの。
元ネタ Bryd のメロウネスが素敵なので悪くなるワケがないけど、ソリッドなビートと気合の入ったフックによってドープな HipHop クラシックになっている。

ヘヴィなオリジナルに対して、シングル・リリースされたのは Da Beatminerz Remix と名付けられたリミックス・バージョンで、実はコレがさらに素敵なのですよ!! ブッ太いベースライン・ループとスクラッチで入ってきて、呟くような少しユルメのフロウ、気合ガッツリのフックを敢えてダルなコーラスに差し替えた上にオリジナルの女性コーラスをかぶせてきた。ドリーミーでありながらビートが効いたイルな Hip-Hop。リミックスとは斯くあるべし。

(6)『Black Smif-N-Wessun』はタイトル通り Black Moon に Smif-N-Wessun をフィーチャー。Smif-N-Wessun は Tek と Steele の2MCユニットで Boot Camp Clik 一派、2年後に Da Beatminerz プロデュースで1stアルバム『Dah Shinin'』をリリースするいわば弟分。

印象的なストリングス&ベースの元ネタである Ahmad Jamal『Misdemeanor』(74年) は Gang Starr『Soliloquy of Chaos』(12年)でも使われてますね。ブーガルーなドラムは Lonnie Smith の『Spinning Wheel』(70年)から(ちなみに私このドラム大好き)。

冒頭のヤーディーなダミ声サンプリング(Lyrics Born の『Send Them』(93年))のあとの 1st ヴァースは Smif-N-Wessun より Tek 、フックをはさんで Buckshot の 2nd ヴァース、フックの後の 3rd ヴァースは Smif-N-Wessun Steele、最後にフック&ダミ声。

(7)『Son Get Wrec』で印象に残るネジれた変態ベース・ラインはジャズ・オルガニスト Brother Jack McDuff の『Oblighetto』(70年)。そこに Mike Bloomfield, Al Kooper and Stephen Stills の『Season of the Witch』(68年)から妙なギター・パートをフリップしてくるという変態仮面。
このナンバーでようやく 5ft が全てのパートをライミング。決してヘタではないと思うのですが、Buckshot と比べると個性に欠ける気がするよね。

続いて後半 Second Stage。

(8)『Make Munne』はアブストラクトな雰囲気のナンバー。シンバルのビートは Jimi Hendrix の『Get Out of My Life Woman』(70年)から借用しているらしい。Alyson Williams の『I Need Your Lovin'』(89年)からもサンプリングしているとのことだがどうやらファーンと鳴り響く効果音がそうみたい。
全体的にメタリックで軍隊の行軍の如く突き進んでくるハード・チューン。

(9)『Slave』の狂ったようなベース・ラインは 9th Creation の『Rule of Mind』(75年)からループ。フィルター加工して凄まじい音圧で繰り返すこのサウンド・プロダクションにはやられますねぇ。Buckshot のラップも紫煙の中でライムしているようで、やたらとケムたいです。2分半ちょっとと短いですが強烈に残ります。

(10)『I Got Cha Opin』は 3rd シングル。丸太ん棒のようなズドーンとブッ太いベース・ラインは Ten Wheel Drive の『Come Live With Me』(70年)。そこにダブのように Art Ensemble of Chicago『Odwalla』(73年)のブ厚いホーンを鳴らすという荒芸。クゥ~ これはシビれます!! ソリッドなドラムは Iron Butterfly の『Get Out of My Life, Woman』(68年)。これぞ漢の Hip-Hop ですね。

そしてシングル・リリースされた際には (5) 以上にオリジナルとは別人となったのが Da Beatminerz Remix。Barry White の『Playing Your Game, Baby』(77年)がサンプリング・ソースで、リリックもフロウも別モノに変わっていてこれはリミックスではなくて全く別の楽曲ですね。
そしてどちらも Great!! US Billboard Hot100チャート 93位。

(11)『Shit Iz Real』の冒頭のホーンは John Klemmer の『Love Song to Katherine』(73年)。一転して Marvin Gaye and Tammi Terrell の『California Soul』(69年)のベース・ラインにサンプリング大ネタ Faze-O『Riding High』(77年)のコズミックなキーボードを重ねるという凄ワザ。さらには冒頭のホーンもかぶせてしまうという暴れっぷり。
Buckshot のフロウがカッコイイ。

(12)『Enta Da Stage』のグルーヴィーで地を這うようなベースは、ジャズ界の巨星 John Coltrane の嫁さんでもある Alice Coltrane の『Journey in Satchidananda』(70年)から、少しピッチを上げてループ。ドラムは (6) でも使われた Lonnie Smith の『Spinning Wheel』。
"Jump up !!" って血がタギりますねぇ。

(13)『How Many MC's...』は 2nd シングルで、Grover Washington, Jr. 『Hydra』(75年)の導入部のスラップ・ベースを延々とループ。
フックの "How many MC's must get dissed?" は Hip-Hop 好きなら絶対に判る KRS-One の声ネタで、Boogie Down Productions の『My Philosophy』(88年)ですね。

(14)『U Da Man』ラストはMC達によるハードコアなマイクリレー。
5ft --> Big Dru Ha --> (フック) --> Havoc --> Tek --> (フック) --> Steele --> Buckshot --> (フック)
ラフなドラムは Lee Dorsey の『Get Out of My Life, Woman』(66年) 、そして Keni Burke の『Risin' to the Top』(82年)からサンプリングしているのだけれど、あの超有名なベース・ラインを敢えて使わずに全くどーでもいい効果音を抜いてくるというヒネクレ技。

いやぁ~アルバム全編ケムたい Hip-Hop でとにかくタギります。
『仁義なき戦い』を見終わった後は自分が任侠の人になった気になりますが、この『Enta da Stage』も聴き終わった後は B-Boy 気取り必至。

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