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Pete Rock & C. L. Smooth : All Souled Out

久し振りの音楽投稿は、私が敬愛する Hip-Hop レジェンド Pete Rock 先生(ジャマイカ移民の両親のもと5人兄弟の4番目として New York ブロンクスにて生誕、出生名は Peter O. Phillips) の最初期ユニット Pete Rock & C. L. Smooth のデビューEP『All Souled Out』(91年)を。
(これも過去にレビューしてますが、実に15年振りの聴き直しです)

何を隠そう(と言うか隠すどころか堂々と掲げていますが)当ブログの黒いアフロヘア・アイコンは Pete Rock's Soul Brother のロゴマークというのは言わずもがなのこと。
(このロゴ、アトランタを拠点に活動しているグラフィック・デザイナー Mark Hayes という人による作品らしいのですが、他にめぼしい作品は見当たりませんね…)

wiki によれば Pete Rock は1970年生まれ、最初のプロデュース作品は 89 年にリリースされた Heavy D & The Boyz の 2nd アルバム『Big Tyme』収録の4曲とのことで、若干19歳にしてプラチナ・アルバム(R&Bチャート 1位を記録)のプロデュース・ワークに携わっていたというのが凄いですね。

その後も Brand Nubian, EPMD などのトラックを手掛け、初めて自身の名前を冠するユニットを組んだ相手は高校時代に出会った C. L. Smooth (出生名 Corey Brent Penn)。
Discogs を見ると最初にリリースした作品は 90年の『Go With The Flow』らしい。その後立て続けに『Good Life』(91年),『The Creator』(91年)とリリースし、この3曲を含む全6曲入りデビューEPが『All Sould Out』(91年)。

どうやらこのジャケットは『Good Life』をそのまま流用したもよう

このアルバムは私が Hip-Hop を熱心に聴き始めた頃にリリースされたもので、そのカッコ良さにシビレると同時に、私が Hip-Hop におけるサンプリング・ソースを意識して聴き始めた頃でもあります。当時はまだインターネットは一般に普及しておらず、サンプリング・ソースを知ることが出来たのはごく僅かに限られた情報で、あの頃は元ネタが割れた時の楽しさは格別でした…

ちなみに私の手元にあるのは91年リリース時点の6曲盤と、2014年に5曲のリミックス・トラックを追加収録した全11曲のデラックス・エディション。
重度のマニア/コレクターでなければ6曲盤でも十二分にOKです。

全6トラック Pete Rock プロデュース、『The Creater』を除く5曲が Pete Rock & C. L. Smooth 名義、『The Creater』のみ Pete Rock のソロ・トラックですがクレジットをよく見てみると  Grand Puba の名前 (正確には本名 Maxwell Dixon 名義) がありました。

今聴くと音がこもっていて音質は悪いのですが、それが何故かソウルフルな Hip-Hop に聴こえちゃうのがなんとも不思議。
いざレビューへ。

(1)『Good Life』は、The Temptations のリードボーカルを務める Eddie Kendricks の 2nd ソロアルバム収録の『Girl You Need a Change of Mind』(72年)から何かやってくれそうなファンキーなカッティング・ギターをサンプリング。そこに Hip-Hop ドラム・サンプリングの定番 Young-Holt Unlimited から『Bumpin' on Young Street』(72年)でビート・メイク。

そして US Baltimore 生まれジャズ・ファンク・ギタリスト O'Donel Levy『I Wanna Be Where You Are』(73年)のイントロで鳴っている軽快なホーンをフリップ。実はコレもともとは The Jakson 5『I Wanna Be Where You Are』(72年)のカバー・バージョン。Michael Jackson の唄うオリジナル・バージョンのカッティング・ギターではなく、カバー・バージョンのホーンをループするセンスが素晴らしい。

差し込まれるスクラッチはテクニック云々よりも逸る気持ちが全面に出た勢いのあるグルーヴィーなスクラッチ。ゴキゲンです。
とにかく今聴いてもシンプルでストレートなカッコ良さは変わらない。

(2)『Mecca & the Soul Brother』は翌年にリリースされる 1st アルバムのタイトルにもなっていて少しややこしいですね。

ギターとベースによるメロウ&グルーヴィーなループは O'Donel Levy の『We've Only Just Begun』(73年)。どこかで聴いたことがあるような気がしますが、Carpenters 70年のヒット曲(邦題は『愛のプレリュード』)のカバーですね。

そこに O.C. Smith による The Beatles『Hey Jude』のカバー・ナンバー(68年)からイナタいドラムをサンプリングし、そしてまたもや O'Donel Levy の『People Make the World Go Round』(73年)からホーンをフリップしディレイ飛ばしループ。いや凄いですね。

フックでは "Mecca and the Soul Brother" のリリックにかぶせるように "Rock and C. L. Smooth" というフレーズが繰り返されてますが、これは Heavy D & The Boyz の『Gyrlz, They Love Me』(89年)からの一瞬のフリップ&ループ。

ソウルフルでメロウなループ・トラックに C. L. Smooth のスムーズなフロウと押しの強いサンプリング・ホーンと既に完全に Pete Rock のスタイルが出来てますよね。

(3)『Go With the Flow』は彼らの 1st リリース・シングルであり、本作品の My フェイバリット No.1。

Hip-Hop 界のウルトラ定番ビーツ James Brown『Funky Drummer』(70年)の乾いたドラム・ループと、US Cleveland で結成された5人組ソウル・グループ Sounds Of Unity and Love (S.O.U.L.) の『Burning Spear』(71年)から地を這う鬼グルーヴィーなベース・ラインとカッコ気持ちよすぎるフルートをまんま使ったもの。
そこに James Brown の声ネタ "Get on up" をこれでもかとばかりにコスリ捲るアゲアゲなナンバー。

この S.O.U.L. の元ネタは Organized Konfusion が同年91年に『Releasing Hypnotical Gases』でもサンプリングしていて、Organized Konfusion の方がベースをフリップして巧く使っているの対して、Pete Rock は恥かしいくらいに見事にそのまんま使い。若いというかよほどお気に入りのナンバーだったのかなと。
C. L. Smooth 君も初めまして的に "Me, the capital C, capital L, capital S, M-double o-t-h, yes" と自己紹介してる。

さらに言えば S.O.U.L. バージョンもオリジナルではなくて The Soulful Strings 71年のアルバム『Groovin' With The Soulful Strings』収録曲のカバー。
原曲も軽快なファンキー・チューンですが、S.O.U.L. 版のベースとフルート・ファンク・アレンジが秀抜ですね。

(4)『The Creator』はホーン使いの魔術師 Pete Rock の真骨頂ナンバー。

冒頭高らかに鳴るホーンは New Orleans 生まれの R&B シンガー&ピアノ弾き Eddie Bo のシングル曲『From This Day On』(66年)のイントロそのまんま。
その丸太ん棒のようなブッ太いベース・ラインの上に Texas 生まれのサキソフォニスト King Curtis の『Instant Groove』(69年)のサックスをかぶせてくるという驚異のホーン重ね。これは凄まじい!!
(久し振りに『Live at Fillmore West』(71年)を聴くかな…)

途中で聴こえるトレモロのようなオルガン音は James Brown の『I Can't Stand It』(74年)からサンプリングしていらしい。

ラップは C. L. Smooth ではなくて Pete Rock 自身。正直なところ MC としては際立ったところはなく、可もなく不可もなくとの印象。トラック・メーカーに徹するのが正解と思います。
一方、スクラッチは C. L. Smooth が演っていると書いてありますが、本当?(そう言われるとキレがないような気がするが…)

(5)『All Souled Out』はこのEP盤のタイトル・ナンバーになっていますが、全6曲のうち最も地味なトラックかな。

North Carolina 生まれファンキー・ソウル・ジャズの代表格 Lou Donaldson の『Turtle Walk』(69年)からのサンプリングですが、敢えて主役のアルトサックスではなく、サイドメンの Charles Earland が弾くハモンド・オルガンをループ。
(話がそれちゃいますが、原曲ドラムの Leo Morris が適度にモッサリしていてなかなかにグルーヴィー。 後半に出てくるドラム・ブレイクも良し)

そこに James Brown 37枚目のスタジオ・アルバム『Payback』(73年)収録の『Shoot Your Shot』から転調した瞬間のホーンをサンプリング。

う~ん、サンプリング・ソースは2曲ともグルーヴィーではあるのだけれどどことなくユルイ感じのナンバーで、その雰囲気がこのトラックにも反映されているかな。

(6)『Good Life (Group Home Mix)』は(1)のリミックスですが、まったく別のチューンと考えた方が良いですね(おそらくリリックは同じ)。

導入部はアフロ・キューバン・ジャズ畑のパーカッショニスト Ray Barretto の『Mercy, Mercy, Baby』(68年)から強引に引き込まれるようなベースをサンプリング・ループしてますが、やがて New Orleans ファンクの雄 The Meters の『Same Old Thing』(69年)から跳ねるベース・ラインとオルガンをフリップ。これは疾走感ありますね。

そしてブリッジ部では Kool & the Gang のライブ・アルバム『Live at the Sex Machine』(71年、何て凄いタイトル!!)収録の『Who's Gonna Take the Weight』からうねるベース・ラインとホーンをサンプリング。
この繋ぎ方は神技ですねぇ。

オリジナルリとミックスどちらも素敵ですが、個人的にはホーンが力強いオリジナルが好みです。

僅か6曲の全29分。アッという間に終わっちゃいますが、決して物足りないという意味ではなく、非常に濃密な時間。
Pete Rock のソウルフルなバック・トラックと C. L. Smooth のポジティブでソフトなライミングは、英語のリリックを聴き取れない私でも当時流行っていたギャングスタ・ラップとは異なるスタイルで彼らの世界観を呈示していることが理解できますね。

以下、ボーナス・トラックは軽く流す程度にしときます。

(7)『The Creator (Slide to The  Side mix)』では The Mar-Keys とかいう Stax Records のスタジオ・セッションバンドの『Honey Pot』(66年)からホーンをループ。
で The Mar-Keys を調べてみたら、何と Steve Cropper, Donald "Duck" Dunn, Booker T. Jones らが在籍してました!!

(8)『The Creator (Surfboard mix)』は全然サーフィンっぽく無い!!
何故に?と思ったらなんと、冒頭の荒々しいドラムは The Ventures『Sweet Pea』(66年)からのサンプリングでした。意外!!

(9)『The Creator (Instrumental)』はタイトルそのままのインスト版。

(10)『Mecca & the Soul Brother (Wig Out mix)』ではブッ太いベースラインに Mountain の『Long Red』(72年)から強烈なスネアを拝借し、Kool & the Gang の『N.T.』(71年)からホーンをサンプリング。

(11)『Mecca & the Soul Brother (Wig Out Instrumental』はタイトルそのままのインスト版。


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