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夢日記 - ペンションと家

(2022.06)

わたしは小学校の時の同級生たち十数人と
少し遠方へ旅行に来ていた。

宿はなだらかな山地の七合目ほどのところに建てられたペンションで、周りには草木や花が美しく茂っていた。

深夜になると満点の星空が見られるらしく、「真夜中になったら散歩しに出てみよう」と言う事になっていた。

私たちはお風呂も夕飯も済ませ、ペンションのリビングで昔話をしたりテレビを見たりして、その時間を待った。

すると、突然凄い音が鳴り始め、
それからは全てが一瞬の出来事だった。

吊るされたおしゃれな電球たちは互いにぶつかりガシャガシャと割れて降ってきた。
備え付けの食器棚やテレビ、その他の家具もかなりの勢いで揺れ、倒れる音が聞こえたし、外では地鳴りのような低い音が響き続けていた。

電球が割れた事に関わらず停電しているようで、
ペンション内はかなり暗く、多分7時くらいだったと思うが、時計を見る余裕もなかった。

なだらかな山とは思えない感覚で建物は地面を滑り落ちているようにも感じられ、転がらないよう必死に掴むところのない床にすがった。

揺れがおさまり朦朧とする頭を上げると、ペンション内にはあるはずのない月明かりが差し込んでいた。
何人かはすでに携帯のライトを付けて、まだ倒れたままの同級生達に声にかけていた。
私は割れた電球に触れてしまったらしく手ひらには真っ赤な血が滲んでいて、見てしまったために少し痛み出した気がした。

「..⁈」

友人の一人が悲鳴でもない変な声を上げたので
彼女が指差すキッチンの方を向くと、それぞれに気を取られて気付かなかったが、キッチン側の家半分が丸っと無くなっていた。

奇跡のような話だが、無くなったと言うよりも、
まるっきり別の家と半分づつ合体した、と言った方が正しいかも知れない。

丁度、私たちのいるリビング側が残っていて、もしあちら側にいたら…と恐ろしいことを考えて多分皆がゾッとしていた。

後から分かった事だが、
私たちのいたペンションは土砂崩れにあい
かなり斜面を下ったらしい。

そして、来る道中に皆で感動した大岩にペンションのキッチン側を綺麗に削り取られ、もっと下に建てられていた家の半分と奇跡的に同じ場所で止まり、ひとつの家のような形をとっている、と言う事のようだった。


目が暗闇に慣れはじめ、そちら側の家の床に転がるクッションのようなものが見えた。それは微かに動いていた。
ただ、まだとても動揺していたので動いたように見えただけかも知れなかった。

同じように感じた友人もいたようで、私を含め数人が立ち上がりそちらに駆け寄った。

近づくとそれはまだ小さな赤ちゃんで、鳴き声もあげず静かに布団の上に収まっていた。
怖がっている様子はなく、友人が抱き抱えると「あうぅ!」と何かを言ったが、当然何を指すのかは分からなかった。

一瞬静かな間があった時、「スースー」という寝息が聞こえてきた。暗い部屋の中を見渡すと倒れた棚の影のところに同じくらいの赤ちゃんが寝ていて一同が驚いた。
ひとりが「この子は大物だな」と言い、その一言はこんな状況の中でも皆の笑いを誘った。
双子のようにそっくりだが、何となくこっちの子は男の子のような気がした。

とりあえずこの中は危ないからという事で、2人の赤ちゃんも連れ外に出る事になった。
ペンションと家の境目は木がささくれていて出られそうになかったので他の出口を探した。
私達がいたペンションは、キッチン側に玄関があったため、出られそうな場所と言えば、高い所の窓しかなかった。
なので家側を探し、つぶれかけた玄関からやっとの思いで抜け出した。

外は湿度が高く霧に覆われ、ぬかるんでいて歩きづらく、ただならぬ雰囲気だった。
遠くでは橙色のモヤが高くまで上っていて、火事が起きているようだった。かなり距離があるにもかかわらず咳き込んでしまうほどの匂いがした。

やっと見つけた道路も土砂でギリギリ道が見えるような状況だった。それでも歩くしか無く、それぞれが離れ離れにならないよう細心の注意をはらいながら歩いた。
とりあえずペンションへ来た時の記憶を頼りに、途中にあったスーパーを目指すことで一致した。
大学で登山部をしている彼が先を歩いた。

友人に抱えられた女の子の赤ちゃんは途中から泣き出したがその内疲れて眠ってしまった。

私の背中にいる男の子の赤ちゃんは未だにスースーと寝息をたて眠っていたが、ジメッとした空気のせいで最初よりずっしりと重みを感じた。

友人達はそれぞれペンションや家から持ち出した食料やベビー用品の入ったリュックを背負ってくれていた。

道路を歩くうちに土砂は少なくなっていき、
歩きやすくなってはいたが、赤ちゃんと私の間には汗がじんわりと染みた。

まだ眠り続けている男の子の赤ちゃんを近くの友人に預け、背中に風を入れると、どこまでも飛べそうなほど体が軽く感じられた。

泣き声が聞こえたかと思うと友人に預けたその子は目を覚ましていて、出来る限りを尽くして手足を大胆に動かしていた。

よほど背中の居心地が良かったらしく、私の方へ向かって小さな手を精一杯伸ばした。
もう腰が砕けそうだったが、泣き止む気配のなさと可愛さに敵わず私も手を差し出した。
とりあえずその子を抱っこするとすぐに涙は止まったので、男の友人は「僕じゃダメでしたか…」と悲しそうに呟いていた。

まだ抱っこしたばかりだが腕が折れそうだった。
そのため私は、友人に返す言葉を思い付けないまま、数秒がたち、時効となった。

心の中でどんまい、と呟く。

赤ん坊はどうでも良さそうにわたしの肩の上に柔らかいほっぺを乗せ、また眠ろうとしていた。一歩踏み出すたびに肩の上で軽く弾むそれが心地良く面白かった。

それからまた歩きどれくらい経ったか、
先導していた友人達が「休もう」と声をかけたので皆一斉に地面に腰を下ろした。
足はなぜ動くのか不思議なほど重く脆いような感覚だった。
小さな街灯の下で友人の一人が「22時半か」と言った。歩き始めて2時間以上が経ったらしい。
どうやら私たちはいいところまで来ていたらしく、スーパーの灯が下の方にほんのうっすらと見えていた。

一度腰を下ろすと中々立ち上がれず、休憩の30分は恐ろしい程にあっという間だった。その間女の子の赤ん坊はまだ元気な友人達に顔芸を見せられたりして楽しそうに笑っていた。

男の子の赤ちゃんは相変わらず他の友人には無愛想で、初めて見たものを親だと思ってしまう鳥の雛のようだった。

今まで抱っこやおんぶで歩いてきたので気づかなかったが、女の子は自分で立つことはできたが歩くのはまだ難しいと言うようで、男の子はぎこちなくも自分で足を2、3歩進むことができた。

そう言えばこの歳の子はまだ人見知りをしないのだろうか。私は幼い時の記憶を思い出そうとしたが、同じ歳の頃の記憶といえば両親から聞いた話くらいしか思い出せなかった。

ただ確かに残っているのは父の大きな背中や母の優しい匂いだった。

またスーパーを目指し、歩き始めた。

それからスーパーに着くまで、赤ん坊の彼は一睡もせず私の顔面を興味深そうに探っていた。

お陰で気が紛れ何だかあっという間だった。
スーパーに着くと、中の様子がおかしいことを先頭の友人らが察した。

どうやらいくつかのグループが協力してスーパーに立て籠ってしまったらしい。
麓まではかなりあるため、いつまで続くかわからないこの状況に心がやられたみたい。

友人達も含め、トイレだけでも借りられないかと思ったが、どうやらそれも無理そうだった。

そんな時、
スーパーの電気もストッと消えて、辺りは本当の闇に包まれた。
しばらく続いた叫び声や鳴き声、話し声の後、
シンとあたりが静まり返る。

空には言葉にできないほどの星空が延々と広がっていた。

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