「魔法のカルト」 幸福の科学の元幹部・あえば浩明が海外で波紋 ネットニュースの誤報が拡散 (あえば関連その①)
(United States)アメリカで、ある日本人が話題となっている。彼はかつて、”あの教祖”の側近だった―――
去る2月25日から28日、アメリカで政治集会「CPAC 2021」(シーパック、保守政治行動会議)が行われた。これは毎年行われる大規模なイベントで、数多くの保守系の大物政治家がスピーチをする。
そして、ここで登壇したあえば浩明(直道)という人物が、現地で波紋を呼んでいる。
何が起きたかというと、彼がかつて幹部職員を務めていた宗教団体「幸福の科学」のあまりのぶっ飛び具合が、ツイッターで話題となったのだ。やがてこれは、複数のネットニュースが報じ、米国民に驚きをもたらした。中には「ドナルド・トランプの幽霊と交信する魔法のカルト」などの、強烈でセンセーショナルな見出しの記事も登場した。
一連の報道は有益な新情報もあった一方で、既に幸福の科学を退職したあえばを、現役の幹部かのように誤報するメディアもあった。更には、彼を「カルトの救世主」としてしまった新聞も!
今回はそのうち、Twitter上での話題の広まりと、”ヴァイス”社の誤報に言及する。
見出し画像:CPAC 2016で講演するあえば。https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Jikido_Aeba_(25007278834).jpg より。 Gage Skidmore from Peoria, AZ, United States of America, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons)
あえば氏のプロフィール
そもそも、あえばって誰?という方もいるだろう。なので彼の経歴を紹介しよう。長いプロフィールを読むのはやや退屈だという方も、ざっと目を通してほしい。
彼の公式サイトによれば、饗庭(あえば)浩明氏は1964年生まれ。慶應大法学部を卒業後、”宗教法人に入会”したという。名前を伏せているが、この宗教とはまさしく幸福の科学。しかも単なる入会(入信)ではなく、有給の職員として教団で働き始めたのだ。やがて教祖・大川隆法から「直道(じきどう)」という法名(ニックネーム)を授かるなど、若手のホープとみなされていた。
1992年には、東京ドームで5万人の信者らを前に、幸福の科学の講演会が行われた。その際あえばは、前座の宗教的ミュージカルで、三蔵法師ならぬ”ミラクル法師”を演じた=写真 Algorab archivesより
2009年には「饗庭直道」を名乗り、教団の政治部門「幸福実現党」初代党首に就任。その後も党の要職につき、2010年に渡米。2011年には初めてCPACを訪れたという。
彼はJikido "Jay" Aebaを名乗り、共和党関係者や保守主義者らと交流を深めて行った。2014年には産経新聞にシャロン・デイ氏との対談が掲載。デイ氏は「共和党全国委員会 共同議長」を務める。
これは幸福実現党の出資と思しき広告記事であり、党の公式サイトでも紹介された(アーカイブ)。
このように彼は、幸福実現党の役員として米国保守派の人々と親しくなり、パイプを築き上げて行ったのだ。
しかし何を思ったか、2015年に突如、幸福の科学を退職(幸福実現党を離党)する*1。同年2月に保守系団体「一般社団法人 JCU」を設立。
JCUは、2017年から毎年、日本版CPAC「CPAC Japan」を事実上主催しているとみられる。
*1 CPAC Japan 2019 公式サイトのアーカイブより。あくまで『退職し、職員で無くなった』のであり、『大川隆法への信仰を捨て、信者で無くなった』とは書いていない。ただ、筆者の見立てでは、現在のあえばは大川隆法のためではなく、あくまで自分のために生き、活動していると考える。この点は後日の続報で触れる。
幸福の科学を離れてからは、教団での経歴についてほとんど説明せず、「全米共和党顧問」「JCU議長」等を名乗る。2016年には大統領選関連のコメンテーターとしてテレビ出演もしたが、地位詐称疑惑が報じられた。
以来、現在に至るまで独自の保守活動を続ける。
なお「CPAC Japan」にはスティーブ・バノン、百田尚樹、佐藤正久など有名人や外務副大臣(当時)も登壇した事がある。
事態の背景
さて、前置きが長くなったが、今回の”騒ぎ”に話を戻そう。筆者が知る限り、本件の発端は、あえばが英語圏のTwitter上で話題となったことだ。
しかし彼は、例の政治集会「CPAC」には過去何度も登壇している。ではなぜ、今年急に注目を集めたのか。
その”バズり”の背景には、現在のアメリカの政治状況がある。トランプ前大統領が去年唱えた”不正選挙論”をきっかけに、アメリカの保守界隈は「バイデン・民主党が選挙を盗んだ」という陰謀論に汚染されている。
そんな中、今年の「CPAC」では、相変わらず”不正選挙”があったとするトランプ前大統領と支持者、日本刀を振り回しながらトランプを「リアル・アメリカン・サムライ」と持ち上げてみせるハーバード大学院卒の自称サムライ未来学者(藤井厳喜氏)、反ユダヤ主義とされる陰謀論者(出演取りやめ)、果ては金ピカトランプ像など、さまざまな”ヤバい人たち”が集った。そういった流れの中で、あえばも注目を集めたのだ。
(不正選挙論に加担してしまった自称サムライ氏:)
(人ではないが、金のトランプ像もインパクト大:)
まずTwitterで話題沸騰
先述した、Twitterで波紋を呼んだツイート。それは、「今年も幸福の科学/幸福実現党/JCPACがCPACに出るので、大川によるドナルド・トランプの霊言を見てみよう」とし、”トランプの守護霊霊言”の動画を貼り付けたものだ。
これが話題となり、一般人のみならず報道関係者・ライターもリツイートした。そののち、一連のネットニュースでの報道が始まる。
先行報道はヴァイス
今回取り上げるのは、あえばについて先駆けて報じたVice(ヴァイス)社だ。同社はカナダ発のwebメディアで、現在は世界35都市に拠点を構えている。
記事は現地時間2月26日、あえばが登壇する当日未明に公開。タイトルは「教祖が金星から来たエイリアンだと信じる日本のカルトが、CPACで講演へ」。なんとも珍妙な見出しだ。
内容としては、あえばの経歴紹介から幸福の科学、幸福実現党、そして大川隆法にまで及んでいる。
あえばについては後述。
幸福の科学の教祖・大川隆法については「元ウォール街の商人で自称ブッダ、さらに金星出身で数百万年前に地球に生命を作った”エル・カンターレ”の生まれ変わり」と言及。また、彼は超国家主義の右翼で反韓反中、従軍慰安婦を否定し、お金集めに熱心な富者だと紹介した。
幸福の科学については、外国人を嫌悪していると述べたほか、最近では、新型コロナ感染症の”魔法のような治療薬”を400ドルで販売しているが、「本質的には単なるお祈りでしかない」とした。
生死を問わずあらゆる霊を呼び出すことができる「霊言」にも言及した他、「大川の著書はUFO、悪魔との闘争、コロナウイルスがいかに地球外からもたらされたか、等の奇妙な主張に満ちている」と説明した。
なお、ヴァイスはCPACに対し、あえばと幸福の科学の関係性を糺したが、反応はなかったという。加えて、あえばにインタビューを申し込んだが、やはり無反応。
誤報
本記事は、一見するとさまざまなソースを引用しながら、あえばと幸福の科学について詳しく記述しているように見える。
だが、実際には幸福の科学の教義や実態についてわずかに不正確な記載があったほか、サブタイトルであえばの名を「ホルカイ・アエバ Horkai "Jay" Aeba」とした(現在は訂正済み)
そして一番の問題は、肝心のあえばについて、誤って伝えていることだ。
記事の見出しは「日本のカルトが講演」となっている。また、本文では「(今年の)CPACの顔ぶれの中には、日本のカルト宗教の政治部門のトップがいる」「あえばは幸福の科学というジャパニーズ・カルトで主要な役割を担う」との記述がある。過去形ではなく、現在形でだ。
これではまるで、あえばが現役の幸福実現党の党首かのような言い方であり、誤報と言えるだろう。
また、記事後半には「2015年まで幸福の科学の役員だったあえばは、大川の政治的野心の中心的役割を果たすようになり、2011年にはCPACに派遣され、大川が見習う米の保守系議員と深い関係を築こうとした」との記述がある。
この記事の筆者は、2015年に彼が役員ではなくなったことを知りながら、現在党首を務めていると勘違いしているようだ。
もちろん実際は、「役員ではなくなった」どころか、党及び幸福の科学そのものを離れたのだが。
...それにしても、「大川が見習う(emulate)米の保守系議員」って誰だろう。そんな話は初耳だが。
そして、この記事のあらゆる記述は、あえばが幸福の科学グループの現役の中心的メンバーであるという前提で書かれてしまっている。
なので、他にもこんな一節がある。
「あえばを登壇させることで、CPACと共和党は再び、Qアノンや大紀元のような危険で過激なムーヴメントを、受け入れ擁護する姿勢を示した」
危険で過激なムーヴメントとは、幸福の科学の事だろう。
さらに「立党から12年、幸福実現党の候補は一度も国政選挙で当選できていない。しかし近年ではあえばのリーダーシップのもと、同党はスティーブ・バノンやマット・シュラップのような米の保守系と手を結ぶことで、政治的正当性を獲得している」とも。
あえばは幸福実現党の初代党首を務めたが、結党発表からわずか10日で党首交代している。おまけに、既に教団を離れているのだから、「近年」「リーダーシップ」という言い方はおかしいだろう。
また、確かにバノン氏やシュラップ氏は、あえばとの接点はある。
記事の筆者が、あえばが現役の教団職員との誤解ゆえに、あえばと関係があると言う事は即、幸福の科学と関係があるのだと思い込んでいるのが伺える。
一応、あえばや幸福の科学について、ある程度調べた跡は認められるものの、現在の彼の立ち位置を誤って伝え、及びそれに基づいた論評をしている点で、大いに間違った記事だと言わざるを得ない。ヴァイスはいますぐに誤報を修正するべきだ。
あえば側の反応は
あえばの団体・JCUのTwitterアカウントは、この記事について反論。「あえばが現在、幸福の科学で働いていると書いている。ジャーナリズムとしての過ち(malpractice)だ。あえばは公式に幸福の科学との関係性を否定しているし、教団もあえばとの関係を否定している。ヴァイスよ、どうか出来事を実際に調査して記事を載せる、本物のジャーナリストを雇ってください」とツイートした。
また、「フェイクニュースだ。あなたたちは明らかに、最新の日本語文献に接していないだろう。それでもジャーナリストづらをし続けるつもりか?
」などともツイート。
ずいぶんお怒りのようだ。誤報したヴァイスが悪いとは言え、幸福の科学の現役職員だと誤解される事が、そんなに嫌なのだろうか?
なお、いずれのツイートも、あえば本人がいいね・RTしている。
ところで、あえばが幸福の科学との関係性を否定したとする資料が見つけられなかったのだが、どこにあるのだろう。情報提供求む。
教団側はというと、去年4月に声明で、JCUと仮想通貨「リバティ」との関係性は否定しているものの、あえばの名前には触れていない。
ある人物
ところでこの記事には、ある人物のコメントが多く掲載されている。該当箇所の一つを引用しよう。
「研究者であり日本のカルトのエキスパートであるセアラ・ハイタワーは、ヴァイスに対し次のように語った:”幸福の科学は日本のカルトだ。これを経営する男は、複数の神の生まれ変わりを自称しながら、ケツァルコアトル(アステカ神話の神)からアサド大統領、ナタリー・ポートマン(ハリウッド女優)に至るまで、あらゆる人物の霊と交信するふりをしている”」
勇敢にも霊言を「ふり」と表現してみせた。聞き慣れない名前だが、ハイタワー氏とは一体何者か。
Twitterのプロフィールには「オウム真理教エキスパート」と書かれている。また、筆者もお世話になっている、著名な幸福の科学批判者らとも交流があるようだ。
何を隠そう、実はハイタワー氏は、記事の前半で触れた「今年も幸福の科学/幸福実現党/JCPACがCPACに出る」というツイートをした本人。あえばの話題に火をつけた”震源地”なのだ。
しかしこのツイートは、彼が現役の幸福の科学の”手先”であるとの誤解を生むものだ。
さらに、ヴァイスの記事については「私が広範にわたり引用された」とのこと。
実際にヴァイスの記事は、ハイタワー氏のコメントを多く紹介し、記事の構成の主な軸としている。例えばこんな記述がある。
「”大川が少しでも、自身の国家主義的な信条と野望をためらった事はない”、とハイタワー氏は言う。”彼は支配したいのだ。世界政治の舞台で、中心的なプレーヤーになりたがっている。そのためには、これらの(米への)進出をしなければ意味がない。それに、日本にいる大川は、政治的正当性のために幸福実現党がアメリカで行っている、あらゆる行為を指示できる”」
この記事の文脈において、「あらゆる行為を指示」という言葉は、まるであえばが、大川の指図を受けて今年もCPACで講演するかのような、間違った印象を読者に与える。
ただし、
・ハイタワー氏自身が、あえばを現役党首だと思っており、(もしかすると、記者にそう告げた上で)このようなコメントをしている
のか、
あるいは
・ハイタワー氏はあえばが現役党首と思っておらず、記事の筆者が勝手にそう思い込んでいるだけ。ハイタワー氏は何も悪くない
のかは、定かではない。
ただ、これだけは言える。
幸福実現党を退職して6年。今や教団とは疎遠と言われ、仮想通貨をめぐる巨額の金銭トラブルが報じられ、その直後に大川から授かったニックネーム「直道」を捨てたあえばが、いまだに大川の指示を受けているとは思えないのである。
何はともあれ、女史がミスリードなツイートをしたのは事実だ。そんな彼女のコメントを多く引用しながら、事実関係を誤認したジャーナリストが生み出したのが、今回の記事だった。
ハイタワー氏は、筆者より以前から、HS批判者の方々と交流があり、教団について英語で発信できる貴重なインフルエンサーであられるようだ。なので、あまり悪く言いたくはない。しかし、あえばが現役の教団の人間かのようにツイートするなど、正しく事実関係を認識しているどうか疑わざるを得ない。
普通なら、多少言動が間違っていても、そこまで目くじらをたてる必要もないのかもしれないが、今回は誤報が広まっているという事態なので、言うべきことは書かせて頂いたつもりだ。
筆者はどんな人
今回の記事を書いたのはデヴィッド・ギルバート氏。
リンクトインによれば、「経験豊富なジャーナリストであり編集者、ライターです」とのこと。
仮想通貨を含む技術系分野に詳しいというが、最近ヴァイスではQアノン=米大統領選の陰謀論や、それに関する誤報に関する記事をたくさん書いている。
そのくせ、あえばの巨額仮想通貨詐欺の疑惑や、彼が大統領選の”不正選挙”論者であることにはノータッチな上、自ら誤報を撒き散らしてしまった格好だ。
SNSで拡散
Viceの記事は、同社の公式Twitterアカウントで紹介され、300以上のいいねを獲得した。
さらに”バズった”投稿がこちら。一般人と思しき人が、明らかに”ヴァイス”報道を基にした内容のツイートをし、1000件近い”いいね”が。「日本のカルトがCPACで講演」とし、あえばの写真を添付したもの。
ここまで来ると、あえばの特異な衣装も相まって、もはや彼が幸福の科学の教祖かのようではないか。かくして、ネット上で誤情報が連鎖していく。その根源となったの”ヴァイス”の記事にも、責任の一端がある。「日本のカルトが講演」などという、ミスリードな文言を発信した張本人なのだから。
(ただ、そうは言っても1000いいね。大きくバズったと言うほどではない。悲しいくらい、アメリカでは注目されない幸福の科学...)
最後に
幸福の科学関係の情報は、確かに手に入りづらい。英語ならなおさらだろう。それでも、北米では無名であろう斜陽の新興宗教に興味を持ち、あえば本人にも取材を試みつつ、報じてくれたことには感謝したい。
だが、誤情報を広めるのはあってはならない事。ヴァイスは速やかに記事の訂正をすべきだ。
(文:これってどうなの 英語記事からの引用は、全て拙訳です)
なお筆者は近日中に、あえばの報道について更なる記事を公開する予定だ。今回ほとんど触れられなかった、仮想通貨にまつわる”消えた9億円”金銭トラブルや、「デイリービースト」の記事、そしてヴァイスを”超えた”記事などについてお伝えする。
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