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普通になりたかった

また小説っぽいもの


※薬の過剰服薬の描写がありますが、推奨する意図は一切ございません
絶対におやめください。



ぷち、ぷち、ぷち、
単純作業。
シートに入った錠剤を1つずつ押し出していく。
カンッ、カンッ、カンッ、カッ、カ、カ、
押し出された錠剤が小皿に落ちる。
陶器に落ちる音が、錠剤と錠剤の重なる音へ変わっていく。
小皿に小盛になっているそれらを躊躇なくジャラッと口の中に押し込んで水で流し込む。
ごくん
明らかに決められた量を超えている。
空になったシートを雑にゴミ箱に放り投げる。
大きく息を吐いて、ぼーっと空中に視線を泳がせる。

好きでこんなことをしているわけじゃない
ただ無駄なだけだ。
薬も、お金も、時間も、体にも、無駄どころか毒だ。
目まぐるしく、嫌なことが頭を駆け巡る。
ああ、ああ、ああ、はやく、はやく、効いてきてくれ
頭を静かにしたくてたまらない。
誰にも向けられない情けなさや寂しさ、苛立ちを一気に飲み下して、
頭の中の雑音を静かにさせたいのだ。

そうこうしているうちに、体は薬を受け入れ始めたようだった。
受け入れ始めた、というより、過剰な薬物に拒否反応を示した、が正しいだろうか。
吐き気が私を襲う。
それを無理やり我慢して、水を飲んで誤魔化す。
ひどく喉が渇く。
喉だけではない、体中が痒い。
がりがりがりがりがりがり
ひたすら痒い
それを我慢する気もなく、肌をひっかく。
血が滲んでいるけれどそんなものどうでもいい。
脳がどろどろ溶けてくるような感覚。
何かを思いつくけど、その続きまでは思い出せない
また何かを思いついて、別のこと思いついて、
あれ、なにかんがえてたっけ
なにもわからない、記憶がぬけおちる

ふと部屋を見渡す
ただのカーテンの影が人の顔に見えて
ヒッ、と声にならない声が喉奥で鳴る
睨んでいるように見える。
バッと顔を背ける。
ひらひらと蝶々が目の前を飛んで、
きらきらしたものが視界を覆う
頭の中で何やら楽し気な音楽が流れて、
ぱちぱち、小さい可愛い生物が踊っている
まるでパレードだ

部屋に落ちている髪の毛が、うねうね動いて、虫に見える
虫は嫌い。だからそれは見ないようにする
壁を見るときらきら、ふわふわ、しゅわしゅわ
楽しい光景だ
目をつむると、ぐわんぐわんする、幻覚が見える
万華鏡のような模様がぐるぐる動いて、ケミカルだ
ざわざわ、と風が木を揺らしている
その音も、人の話し声に聞こえてビクリと体を揺らす
五感が過敏になっているんだろうなあ
なんてぼんやり思って、だけど今は心地よさにただ身をゆだねる
頭がしゅわしゅわぱちぱちする
脳内麻薬かなんかだろう、とにかく心地よい

ねむい。
うとうとする
だけど、ねむれない
それすらもどかしいというより先に心地よいという感想を抱く
きもちいい
何も考えなくていい
ずっと皮膚をかきむしり、水を飲み、幻覚や幻聴を愉しむ
異常なことはわかっていても、やめられない

わたしは、薬物依存症なのだ


普通の人はこんなことしない
じゃあ、どうやって日々のストレスを解放させるんだろう
とか考えても、無駄なことだった
どうせ私には出来ないことだろうから
普通になりたいくせに、どんどん普通から遠ざかることをしている
馬鹿げている
だけどやめられない
それが依存症ってものだ

気付けば時計はめちゃくちゃ進んでいて、びっくりする
時間が飛んでいる
なにをしてたかの記憶もない
気付けばノートに何かを書いているけど、何書いてるのか解読できない
まあ、どうでもいい
とりあえず何か書きたいらしい私は、ひたすらペンをノートに走らせる。
罫線の意味はまったくない。
文字と呼んで良いかも怪しいけど、脳が覚醒しているのか、なにかをずっと書く。

外はいつの間にか明るい
鳥が鳴いている
突如、猛烈な吐き気が襲ってきて、ふらふらの足取りでトイレに向かう。
今更吐き出したところで、もう手遅れなのだが。

過去の亡霊が飛びまわっては呪いの言葉を吐き続ける
散々、聞かされてきた言葉
そして、私を責める声
ああ、楽しい時間が、終わってしまう
寂寞感に苛まれる。

スマホでSNSを開くけど、文字がうまく読めない
ピントが合わない
あーあ、とスマホを布団に投げ捨てて
ごろりと横になる
少しずつ現実が入り込んでくる感覚が気持ち悪い

そして私はまた、シートから薬をぷちぷち取り出す。
悪循環。
良いことなんて何一つないのに、わかっているけど、
これしか私を救えないのだ。
私はどうしようもないのだ。

煙草に火をつけるけれど、ひどくまずい。
あはははは、乾いた笑いが出る
本当に、どうしようもない

カンッ、カンッ、カンッ、カ、カ、カ

また小盛になっていく錠剤



いつから、わたしは、こうなってしまったのだろう



このまま、何も考えず、楽しいままで死ねたらいいのに







ごくん






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