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アプリ開発プロジェクトの歴史

誰でも「アプリ」が開発できるようになったのは、2007年にiPhoneが発売され2008年に開発環境が公開されて以降のことである。名古屋文理大学では2009年に学生らによるアプリ開発の研究会が始まっている。2021年現在の「アプリ開発プロジェクト」につながる歴史を振り返る。

1980年代にパーソナルコンピューターが普及した当時は、「PCを使う=プログラミング」であった。NECのパソコンはN88-BASIC、富士通のパソコンはF-BASICというように、どのPCも、PCを「使う」ことは「プログラミングする」ことを意味した。しかし、1990年代に発売されて熱狂的に受け入れられたWindowsは、ユーザーによるアプリケーション開発の扉を閉じてしまった。以降、多くのPCユーザーはプログラム開発者ではなく単なるアプリケーション利用者となってしまった。家庭用ゲーム機としてはニンテンドーのファミリーコンピュータが一世を風靡したが、カセットに内蔵されたゲームソフトは、一般のユーザーが「開発」できるものではなかった。2000年代を迎えても、コンピュータの一般ユーザーはアプリケーションの利用者として、ワープロや表計算ソフトの使い方を学習するといった立場に甘んじていた。

一方、「携帯電話」は,1999年に日本のiモード(NTTドコモ)によって多機能情報端末となり「ケータイ」などと呼ばれるようになっていた。名古屋文理大学でも新しい情報端末であるケータイを、教育や栄養指導や防災などに利用する研究を始めていた。2007年のWWDC (Worldwide Developers Conference) でスティーブ・ジョブズが印象的なプレゼンテーションとともに新しい情報端末iPhoneのコンセプトを発表し「スマートフォン」が登場した。2008年7月にiPhone 3G発売とともにAppStoreのサービスが開始されXcodeによるiPhoneアプリが可能になると、モバイル端末で誰でもアプリを開発する道が開かれた。直後の2009年に名古屋文理大学では教員(佐原理(現徳島大学))と学生らによるアプリ開発の研究会「iPhone道場」が立ち上がった。学生らは、日本でのアプリ開発の第一人者である赤松正行(情報科学芸術大学院大学教授)らの研究会に参加したり,佐原の指導により2010年にはApple Store Nagoya SAKAEでアプリコンテストの公開イベントを開催したりした。

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「iPhone道場」のメンバーは、様々なiOSアプリを開発して公開した。メンバーのひとり(神谷典孝)は伝説のアプリ「勝訴」などを公開するだけでなく、大学生のうちにサンフランシスコで開催のWWDC2011(生前のスティーブ・ジョブズが参加した最後の回)に参加したり,iPhoneアプリ開発のバイブルであった赤松の著書「iPhoneSDKの教科書」の新訂版(電子版・製本版)「iOSの教科書」を連名で出版するなどした。他のメンバーも、NTTドコモと名古屋大学などが主催する「NEXT COMMUNICATION AWARD 2012」をはじめ学外のコンテストへアプリ作品を応募して入選を果たしたりテレビ番組の取材に応じて全国向け報道番組に出演するなど、目覚ましい活躍を残した。佐原らの先進的な活動は、やがてiPhoneを宇宙まで飛ばす「スペースバルーンプロジェクト」をも成功させた。

名古屋文理大学における学生らによるアプリ開発は、その後も学内のいくつかのグループや、卒業研究、通常の授業などで扱われ、その間に、名古屋大学や企業と共同で開発した「多言語医療コミュニケーションアプリ」やNPO法人にわとりの会と「外国人生徒向けの漢字学習アプリ」を開発し、名古屋港水族館と共同の「エリアTweetアプリ」、カラクリBOOKSの1つ「カラクリBOOKS『都築弥厚物語』」を高校生らの作画をデジタル化しアプリ化するなど、外部の機関との共同開発や実用製品の開発を手がけた。また、これらの活動は、学会での発表(下記参照)や展示会への出典(たとえば「デジタルコンテンツ博覧会NAGOYA(栄ナディアパーク)」に2014、15、16年出展)などを通して、学外からも評価を得て、情報誌などにも取り上げられた。こうした活動は、やがて現在の「学生プロジェクト」にも受け継がれた。

2016年度入学生からの新カリキュラムにおいて正規科目「情報メディア特別演習I・II」が設定されて学生プロジェクトが正式な授業科目となった。この授業では1〜2年次から継続してプロジェクトに参加して担当教員の指導によって受講登録の上3年次に自らの活動成果を学内発表会で報告すると単位認定の対象となる。これまでに「アプリ開発プロジェクト」で単位を取得した学生は、2018年度(2019年2月報告) 鈴木菜月,田添詩奈、2019年度(2020年2月報告) 梶田康介、2020年度(2021年2月報告) 黒瀬晋吾,竹川岳の5人であり、2021年度(2022年2月頃報告)も近藤佑樹,雲龍由璃の2人が予定している。

学生らのアプリ開発は、ひきつづき学内外のイベント(Ogaki Mini Maker Faire など)への参加、学内外のコンテストへの応募と入選、稲沢こどもフェスティバル、高大連携提携高校の文化祭、大学祭「稲友祭」などへの出展、そして、大学見学に訪れる高校生やオープンキャンパスでの「学生プロジェクト」の説明役を果たしてきた。

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この間に、「アプリ開発」をとりまく環境は大きく変化してきた。iOSネイティブアプリの他に,iOS端末に限らずAndroid端末など複数の環境で動作するアプリを同時に開発するクロスプラットフォーム開発、そして、オンライン環境でWebブラウザ上で動作するWebアプリがスマホ・タブレット・パソコンなどの複数の画面デザインに同時に対応するレスポンシブデザインも普及し、多様な開発手法や動作環境が一般的になった。また、通信回線やインターネットの速度化によりアプリのマルチメディア化が実現し、高解像度の動画や3D-CGを含むアプリや、VR/ARコンテンツなども作成可能になった。ディープラーニングによる画像認識などのAI(人工知能)機能も利用可能になった。

現在の「アプリ開発プロジェクト」は、こうしたアプリ開発の環境の多様化を反映して、1〜4年生の20人余りのメンバーが、Webアプリ,ネイティブアプリ,ハイブリッドアプリなどの開発とその周辺技術の研究を、Webシステム・Webデザイン(Web班),Google社の開発ツールFlutterを使ったマルチプラットフォームアプリの開発(アプリ班),Unityを使った3D空間の構築(GameVR班),Blenderを使った3D-CGの作成(CG 班)の4班に分かれて進めている。2020年以降急速に広まったオンラインイベントにも積極的に参加し、CGなどのオンラインコンテストでの入賞や学会等での発表も行なっている。このように、アプリ開発プロジェクトのメンバー学生は、世代を超えて先進技術の開拓者を目指す精神を受け継ぎ、変化を遂げる情報メディア環境の中で常に新たな挑戦を続けている。

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以下、これまでの【学会発表や発表文献】:

1) 平林泰, 長谷川旭, 長谷川聡: ケータイ向けキャンパス避難経路情報の提供, 名古屋文理大学紀要, 7, 57-64, (2007).
2) 長谷川聡, 吉田友敬, 江上いすず, 横田正恵, 村上洋子: ケータイ栄養管理システムによる食育と栄養教育, コンピュータ&エデュケーション, 21, 107-113, (2006).
3) 神谷典孝, 長谷川旭, 佐原理, 長谷川聡: iPhoneを通したモバイルプログラミング学習, シンポジウム「モバイル’10」研究論文集, 157-160, (2010).
4)九野友宏, 杉田奈未穂, 長谷川旭, 長谷川聡, 宮尾克: シンポジウム「モバイル'10」研究論文集, (2010).
5) 長谷川聡, 佐原理, 長谷川旭, 田川隆博, 尾崎志津子: タブレット端末の教育利用−名古屋文理大学におけるiPad導入, ヒューマンインタフェース, 12(4), 245-252, (2010).
6) 長谷川旭, 小橋一秀, 山住富也, 長谷川聡: タブレット端末の教育利用と情報インフラ:名古屋文理大のiPad無償配布と大学図書館,医学図書館, 59(3), 186-191, (2012).
7) CNET Japan: 「WWDCに日本から参加した開発者11人の刺激」(オンライン記事), https://japan.cnet.com/article/35004039/ (2011.6.14掲載)
8) 赤松正行,神谷典孝: 「iOSの教科書」,(2010).
9) 佐原理, 大橋平和, 長谷川旭, 長谷川聡, KAISER Meagan: タブレット端末による学校教育現場向け多言語情報配信システム, 名古屋文理大学紀要, 12, 105-112, (2012).
10) 前田恵美, 鈴木菜月, 伊東順也, 附柴賢司, 長谷川聡: 大学生によるスマートフォン/タブレットアプリ開発と応用, モバイル学会シンポジウム「モバイル'13」研究論文集, 49-52, (2013).
11) 前田恵美, 長谷川聡: タブレット端末向けARアプリの開発と応用, モバイル学会シンポジウム「モバイル'14」研究論文集, 113-118, (2014).
12) 鈴木菜月, 忠内稚加, 杉山茜音, 長谷川聡, 柴田謙一, 宮尾克: ピクトグラムによるコミュニケーションアプリの開発と可能性, シンポジウム「モバイル'14」研究論文集, 123-128, (2014).
13) 附柴賢司, 伊東順也, 長谷川旭, 長谷川聡, 赤座 仁司, 古畑 秀樹: 特定エリアTwitterアプリの開発と利用, シンポジウム「モバイル'14」研究論文集, 119-122, (2014).
14) 附柴賢司, 生田一真, 浅井香澄, 伊東順也, 長谷川聡, 宮尾克, 丹羽智子, 丹羽典子, 武藤悠貴, 平野雄二: 外国人生徒むけ「にわとり式かんじカード」のアプリ化と利用, モバイル学会シンポジウム「モバイル'15」研究論文集, 49-52, (2015).
15) 伊東順也, 長谷川聡: 学生のアプリ開発による地域貢献の可能性, モバイル学会シンポジウム「モバイル'15」研究論文集, 191-194, (2015).
16) 長谷川聡, 長谷川旭, 岩佐麻紀, R.Paul Lege, 宮尾克, 高須拳斗, 坂井由紀, 杉田奈未穂, 加藤啓介: 多言語医療コミュニケーションアプリとヘルスケア, ITヘルスケア学会モバイルヘルスシンポジウム2015 , ITヘルスケア, 10(1), 165-168, (2015).
17) 長谷川聡,小橋一秀, 本多一彦, 横田正恵, 山住富也,田近一郎, 吉田友敬, 木村亮介, 青山太郎, 吉川遼,森博: 情報メディア学科におけるiPadの教育利用―日本の大学初のタブレット端末導入から8年―, 名古屋文理大学紀要, 19, 63-70, (2019).
18) 小橋一秀, 杉山立志, 長谷川聡: VR/ARによる高大連携イベント―実施報告とVR/ARの効果, 名古屋文理大学紀要 20, 31-38, (2020).
19) 黒瀬晋吾, 長谷川聡: 追加学習型のAI画像認識モバイルアプリの開発―食事習慣を反映した食事画像の判定アプリを例に―, シンポジウム「モバイル'21」研究論文集, 37-40, (2021).
20) 吉田友敬: 情報文化における学生主体の新しい学びの試み ―名古屋文理大学情報メディア学部における学生プロジェクト活動報告―,情報文化学会誌, 27-2, 19-26 (2021).

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