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高校eスポーツ部の現状と課題(大会を中心に)

前提

全日制私立高校のeスポーツ部の顧問が書いています。特にエビデンスがあるわけではなく,顧問としてeスポーツに携わる者の肌感覚に近いです。ですが全く憶測で語っているわけでもないので,そのあたりを斟酌してお読みください。

概要

現在の高校eスポーツ部のモチベーションは,メディアの主催する大会にかなり依存してしまっている。これらの大会においてeスポーツの教育的な側面は軽視されがちだ。部活動としてeスポーツを継続していくためには教育的意義を重視した顧問会や,そこが主催する新規の大会・リーグなどを立ち上げる必要性を感じる。

高校eスポーツ部が出場する主な大会

現在の高校のeスポーツ部は黎明期が過ぎ,各学校単位でさまざまな工夫を凝らして継続的な部活動のあり方を模索しているフェーズが始まりつつある。
上記記事に書かれている「分かりやすい目標」とはすなわち大会であり,現在高校eスポーツ部で知名度・参加者数の高い大会は以下の2大会である。

STAGE:0 主催:STAGE:0 実行委員会(テレビ東京と電通)
全国高校eスポーツ選手権(高e) 主催:全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)(毎日新聞社とサードウェーブ)

その他にも群馬県が主催するU19eスポーツ選手権,不定期で開催されるNASEF JAPAN MAJORなどがあるが,歴史や参加者数などを考えると上記の2大大会が強い。
ゲーム大会なぞ,それこそどんな団体,なんなら個人であっても開催可能だが,上記2大大会が他の大会と比較しても特徴的なのは
・参加資格が「同一校に所属する高校生のみ」「ソロ出場不可」
・後援に公的教育団体がある(あった)

の2点である。

前者の参加資格については明らかに甲子園的な,学校間対抗のチームプレイを意識した参加基準である。
参加生徒からしてみれば,年齢制限なく誰でもウェルカムな一般大会よりも上位を狙いやすいし,同一年代の中での自分たちの立ち位置もわかりやすい。
教育機関からすると,1人で黙々とやるゲームよりも仲間との協調性が重視されるタイトルの方が教育的意義を見いだしやすいのでソロ不可はむしろありがたかったりする。

後者については両大会とも,かつては文部科学省や市教委が後援に入っていた。(STAGE:0は2022まで。2023年から外れている)
どこの誰がやってるか分からない野良大会では教育活動として参加しにくいが,文科省が後援しているなら話は別だ。

こうした背景から,教育機関としてのeスポーツ部が参加する大会として,上記2大会は採用がしやすかったと思われる。

教育現場と相性の悪い大会

しかし何年か上記の大会に参加してみて感じたことだが,残念ながらこれらの大会に部活動として参加するにはかなり無理がある。
参加できないことはないのだが,スケジュールなどについて教育的配慮がほとんどないので,部として参加を推奨できないのである。
我々以外の他校のeスポーツ部からも運営に対する不満の声が上がっているようで,私も事あるごとに改善要望を訴えているが,聞き入れられる兆しはない。

これについて具体例を書くとかなり多くなるが,今年のSTAGE:0のLoL部門で一例を挙げる。
そもそも毎年200チーム・1000人以上が参加する規模の大会で,5/24にエントリーを締め切って学生証などを精査し,予選が10日後の6/3という時点でまともな大会が開催できるはずがない。
今年ももちろん参加者への連絡は遅れまくり,予選2日前の夜10時に発表されたタイムテーブルにはミスがあり,大会20時間前になってもトーナメントが発表されない。もちろん発表されたトーナメント(初稿)は間違っていた。現場がどれだけ自転車操業なのかが手に取るように分かる。

実働部隊の運営も可哀想だが,一番可哀想なのは参加する生徒だ。全く予定の計画が立てられない。予選を土曜日にやるのは良いが,多くの私立高は土曜日に授業があるのを知らないのだろうか。午前開催か午後開催かすら2日前まで告知されないのだから異常だ。運営が生徒のこと,学校のことなど何とも思ってないことが如実にわかる。

ここからは完全に憶測だが,STAGE:0運営は参加者数の増加だけを求めているのかもしれない。だから毎年演出のようにエントリー締切を延長するのだ。
参加者の「数」だけを求め,実際に参加した生徒に対しての配慮をほとんどしない。教育に携わる者としてはこうした態度は全く信じられないのだが,これがSTAGE:0に何年か参加した顧問としての運営に対する率直な感想だ。

全国高校eスポーツ選手権はまだましだが,やはりスケジュールの発表が直前である点は変わらない。こういった文化は前年度に来年度1年間の日程を大体決めてから動き始める高等学校文化と根本的に相性が悪い。

JHSEFが主催する「全国高校eスポーツ選手権」はともかく,「STAGE:0」はメディア企業、営利団体が主催するものであり,この運営者たちに「何か教育的配慮をしてくれ」と言っても響かないだろうな、と最近は思うようになった。配慮する義理もないし。
もしかしたら「参加費も取らずに開催してやってんだからありがたく思え」くらい考えてるかもしれない。それも含めて大会運営サイドには諦めに近い感情を持ち始めている。 

他部活の状況

さて,高体連などの全国的な連盟・協会を持っている競技は,4月頃に部員登録をして,年度でスケジューリングされた日程に沿って運営されていることが多い。では,そうした組織をもたない競技はどうやって活動しているのか。「クイズ研究会」を例にとってみたい。
高校生向けクイズ大会でもっとも有名なのは,おそらく日本テレビ主催の「高校生クイズ」であろう。

ではそれだけなのかというと,高校生クイズより知名度は劣るが「全日本クイズリーグ」というものがあり,各都道府県の教育委員会の後援を受けながら,加入団体どうしが有志でクイズを持ち寄って運営をしているようだ。スポンサー企業もついている。

部活顧問の視点から見れば,煌びやかな「高校生クイズ」よりもこうした地味だが自分たちの力で運営するリーグのほうが教育的にはるかに価値が高いと感じる。

生徒の日々の教育活動をサポートできる団体づくり

今のeスポーツ部に足りないのはこういった組織ではないだろうか。いまでもDiscordのサーバーやTwitterのDMで高校間でスクリム(練習試合)の募集を掛けたりする動きはあるが,どうしても散発的になってしまう。ここに組織があれば情報が効率よく伝わる。
学校単体・個人単位でやっていることを押し広げていくためには、有志であってもよいので統括団体が存在した方が良いことは多い。
本校でも校内大会を何回か開催したが,その運営で得られた知見などを他のeスポーツ部に対して共有したいと思っている。しかしその場がない。

組織が各学校の事情にある程度配慮しつつ、大会やリーグ戦の年間スケジュールをあらかじめしっかりと定め,それに向けて練習をするというのが部活動として本来あるべき姿だろう。

高校eスポーツ界隈は,先にメディアが耳目を集める大会を,すんごい広告費をかけてやってしまった。確かにそれ自体は良い一面もあった。各高校でeスポーツ部開設の気運が高まったのは、これらの大会のおかげといえる。
しかし,あまりにも高校eスポーツ部の視線がそれに引っ張られ続けている節がある。そして次の弾がないから,もがいている。

ちょっと部活顧問としては一旦立ち止まってみたい。確かにSTAGE:0や高eは注目度が高く,出てみたいという生徒が多いのも分かる。どうぞどうぞ。
しかし部活はあくまで教育活動だ。これらの大会だけを部員たちの目標としてはならない。
日々の練習、気づきの共有、大会そのものの運営など,地味でメディアが絶対取り上げない,でも教育的にもっとも意義深いことを年間通して継続できるシステム作りの方が,敵のネクサスを破壊したりスパイクを解除することよりもはるかに大切だ。
それらをサポートできるような学校現場目線・教育者目線の組織の必要性を強く感じている。

今のところそれができるのは,現状を理解しているeスポーツ部の部活顧問たちだけだと思う。もしそういう高校eスポーツ部顧問どうしが繋がる組織がすでに存在するなら是非教えて欲しい。(もしかしたら県レベル・地方レベルなら既にあるかもしれない。)
今のところ私が加盟しているNASEF JAPANのDiscord顧問交流サーバーがそれに近いのだが、NASEFにはNASEFのミッションがあるだろうから、そこは分けて考えた方が良いだろう。

存在しないのなら、来年度くらいまでには賛同する顧問のみなさんを中心として「全国eスポーツ部顧問会」的なものを,Discordなどを通してはじめていきたい。高校eスポーツ部を持続可能にするために,現場から動き始めたい。

本当はもうちょっとJHSEFに期待しているのだが,最近HP更新されてないからなー。

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