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ハードウェアとソフトウェアのデザインの共通点と相違点について

この記事は、freee Designers Advent Calendar 2021 の17日目です。

こんにちは、freee株式会社でDesign Leadをしているhiroといいます。freee会計、freee開業、freee会社設立などのプロダクトデザイン業務を担当しています。2021年7月にfreeeに中途入社して、UIデザイン一年生です。

プロダクトデザインやってます

私は新卒のときからプロダクトデザイン業務に携わってきました。と言っても、新卒だったのは15年以上前の話です。学生時代は、デザインの勉強してますと言ったら、建築かグラフィックかファッションか、それともプロダクトデザインというくらいの分類しかなかったと記憶しています。今では「○△□デザイン」(またはデザイナー)の分類は無限にあると言っても過言ではありません。

さらに言うと、「私はずっとプロダクトデザインに携わっています」それはウソではありませんが、当初はプロダクトと言ったら大抵カタチ(というか質量)のあるものだったと思います。ちなみに、私の最初の仕事は住宅設備機器、つまりハードウェアのプロダクトデザインでした。それが今ではソフトウェアのプロダクトデザインをしていて、業務についている名称が同じなだけで、その中身は全然違う!と思ったり、案外似ている!と思ったり・・・それに出会うのが日々面白いです。

デザインが世の中的に盛り上がっていく中で、「デザイン」という言葉が人や場合によっていろいろな含意で使われるようになったと感じます。せっかくいろんな仕事をしたし、仕事が変わったりアドベントカレンダーを書くことになったりしていい機会なので、その共通点と相違点について書いてみたくなりました。ハードウェアとソフトウェアという全然違う世界のデザイン業務を通じて一貫して共通する部分は「最大公約数としてのデザイン」、逆に異なる部分は「ハードウェア/ソフトウェアそれぞれの、専門領域としてのデザイン」と言っていいのでは・・・とは言え、そもそも主観的に得た情報を基に書いているので、数ある事例の一つと認識してもらえれば幸いです。

デザインプロセスについて

デザインというと「与えられた問題を解決するための制作の作業」と捉えられがちですが、ちょっと引いた目で見ると「そもそもそれってどういう問題なの?」を定義するのもデザインの一部であり、デザイナーはそこから関わる必要があります。それを概念的に表すと以下の図のようになり、これは「ダブルダイヤモンド」と呼ばれています。

ダブルダイヤモンドの概念図
出典:https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/doublediamond/

私は、デザインプロセスをダブルダイヤモンド的に理解するのが最もしっくりきます。このレベルの理解は、ハードソフト問わず共通する概念だと思いますが、その詳細は当然異なっています。デザインする対象が異なる場合、問題定義(上図中「正しい問題を見つける」)に於いては求められる知識が大きく異なると感じます。それは対象物の産業としての業界が違うので当然と言えば当然なのですが、異なる業界の中に共通する構造を発見すると、理解の助けになることもあります。例えば、住宅設備機器が機能するためには、設置工事をしてくれる水道工事店の協力が必要不可欠であり、そのような関係者をサブユーザー(含意は「ユーザーだがエンドユーザーと異なる」)と呼んでいました。freee会計に於いては、税理士などの専門家の方々の立場がそれと似ている、と私は理解しています。freee会計を税理士の方にも気に入って欲しい、ということは、住宅設備の施工性を高めたり重量を低減したりするのに似ている・・・かもしれん、と妄想したりします。

問題解決(上図中「正しい解決を見つける」)に於いては、求められるスキルが大きく異なります。特に、デザイン業務の一つの中核を成すプロトタイピングの技術は、作っているモノが違うので全く違います。ハードウェアのデザインをする時には、3D CADやレンダリングソフトを使っていましたが、今はfigmaやsketchを使っています。UIデザイン業務も部分的にはありましたが、Adobe Illustratorで完結する程度だったので、デザインシステムに沿って正しくコンポーネントを選択して、という部分に悪戦苦闘しています。私は立体造形をする時は自分がフロー状態にあるなぁ、と実感していました。figmaやsketchでそういう感覚が得られるようになるには、まだまだ鍛錬が必要です。しかし、齢40を過ぎてそのようなチャレンジをする機会があるのは、ハッピーでラッキーな気もします。

「人間を中心にして考える」について

上記のように、作業上は内容の異なる活動をすることになりますが、頭の中で考えるべきことは「人間中心」という言葉で繋がっていると感じます。

ハードウェア

  • その製品が使われる状況(住宅/商業施設/大浴場・・・)

  • 人体に関係する寸法(身長や手の大きさなど)

  • 製品表面の表示の視認性、など

ソフトウェア

  • 使われる状況(事務所/調理場/出先・・・)

  • 情報の構造に対するユーザーの理解

  • 画面表示の視認性、など

私にとって、古くはユニバーサルデザイン、最近だとインクルーシブデザインと言う(たぶん)、平たく言えば「誰でも使える」ためのデザインは、気持ちに馴染む部分でした。それは率直に言えば「トイレを使わない人はいないよ」と「会計をやらない人はいないよ」(←現状ではコレは明らかに言い過ぎですが、freeeはそれを目指していると理解しています)ということになります。「だったら、目が見えない人でも使えるようになっていないとダメでしょ?」「確かにそうだ!」という理解をしています。もちろん、全てのdisabilityを完全にカバーできている!とはまだまだ言えないわけですが、それを目指して頑張ろう!という精神性に共通するものを感じたわけです。

大きく異なると思われる点は、プロダクトに対するユーザーの理解を作る部分です。ハードウェアのプロダクトデザインの対象のほとんどは、広い意味では「自分を含めたみんなが知ってるモノ」です。「シャワー?シャワーってなに?見たことも聞いたこともない!水が出る?水ってなに!?」という人を想定してシャワーのデザインをすることは、ありません。それと比べると、freeeで作っているプロダクトは「それ、聞いたことないんだけど、そもそもなんなんですか?」率が高いです。想像するに、例えばカメラのように、ある時期は専門家でないと扱えなかったモノが、広く一般に普及してゆく感じに近いのかもしれません。きっと昔は「絞りってなんですか?f値ってなんですか?シャッタースピードって・・・」という人がたくさんいました。(もしかしたら今でもたくさんいるかも)freeeでの具体例を挙げるときりがないのでしませんが、それを丁寧に説明してみるとか、わかんなくてもとにかく使えるようにしてみるとか、そういう過程が必要不可欠です。それを考えながらデザインをするのはなかなか大変ですが、面白い部分だとも思います。

時間の流れる速さについて

時間感覚については、圧倒的に大きな違いがあると言わざるを得ません。ハードウェアの新製品開発には、もちろん規模によりますが2〜3年かかるのは普通だと思います。自動車のモデルチェンジサイクルは5〜7年が標準的です。このハードウェア製品は1年で作ったんですよ!と言ったら、それは速いですね!大変だったでしょう?と言われます。freeeでは、小変更も含めれば1〜3ヶ月でリリースになります。ソフトウェア業界では普通だよ、と言われるのかもしれませんが、私は新参者なので驚きを隠せません。

これは、ハードウェアの下記の特質に起因するものが大きいと思われます。プロダクトデザイン業務が関係するのは、全開発工程の前半の三分の一程度で、残りの期間は生産設計・品質保証の検討・実生産の実施のための時間になります。外装部品、機械部品、電子回路など、物理的なモノを製造すると、基本的にはやり直しがきかない(やり直すと数千万〜数億円の追加出費になる)ため、それを避けるための事前のチェック工程が膨大になります。ソフトウェアの場合、特にfreeeのような SaaS (Software as a Service) の場合は、それに比べればはるかに容易に変更が可能です。だからって事前のチェックが甘くていい、というわけではないですが、現実的に可能か不可能かの差はやはり大きいのだと思います。

自由度と資源配分のダイヤグラム。実行に近づくにつれてリソースが割かれていく
出典:https://www.1101.com/hamaguchihideshi/2018-02-13.html#main

上図はコンセプトクリエイターの濱口秀司氏が「自由度の高いコンセプト設計の部分にもっとリソースを突っ込むべきだ(私の解釈含む)」という話をする時に用いる図です。私は濱口氏の言うことに賛同する反面、ハードウェアの作り込みに時間がかかるのは実際仕方ないよね、と思ってもいました。ソフトウェアのプロダクトデザインでは、相対的に上流工程に時間やパワーをかけられるようになったなぁ、と感じていて、私としては一歩理想に近づいたように感じています。

終わりに

最後に、私が極めて主観的に感じている住宅設備機器とfreeeのプロダクトデザインの共通点を書いて終わろうと思います。それは、どちらも社会性の高いインフラストラクチャーに関わるデザインだということです。住宅設備機器は上下水道というインフラシステムのインターフェースとして存在しています。freeeはfreee会計というソフトウェアで、経営者がそれぞれの企業の健康状態を把握すること、それを通じて正しく税申告できることを実現可能にするインターフェースを提供しています。そういうインフラって地味だけど超大事で、そういうものを作ることに関わる緊張感というかやり甲斐というか、そういう部分が似ている気がしています。何度も転職してそういう会社に行き着いたということは、自分は根本的にそういう性分なんだろうか・・・というのが、この記事を書いた感想です。

というわけで、私からは以上です。18日目の明日は、同じチームで一緒に働いているプロダクトデザイナーの fkady さんです。バトン(この部分)のために内容を聞いたら「type-scaleについて考えた話を書こうとしてます」と言われたのですが、ナニソレワカラン・・・私も勉強のために読みます!明日もよろしくお願いいたします。

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