自然を意識しすぎるという不自然

健康を意識するがために、食品の添加物や農作物への農薬を忌避する人は結構います。それは個人でされている分には大変結構でしょうし、他人に迷惑をかけないレベルであれば他人も気にしないでしょうけれど、人工添加物や農薬の危険性をことさらアピールして大騒ぎするようになると、評価が二分されるというか、むしろマイナスにもなりかねません。

添加物は理由があって添加されています。もちろん単なる見た目の色づけのための合成着色料なんかは別になくても良いとは思いますが、保存料のように食品の腐敗を防ぐためのものは理由があってこそ添加されています。

保存料も身体に悪いとよく言われますが、「身体に悪い」とはどういう意味か、人によっても違います。保存料が入った食品を食べ続けると将来どんな健康被害が出るか分からない、という考えもあれば、保存料が含有されていないがためにすぐに腐ってしまったモノを食べるのも「身体に悪い」はずです。

高度に資本主義化した飲食品の流通のために保存料は存在します。加工して保存料を加えているからこそ、原産地→加工場→倉庫→小売店舗を経て、人々の口に入るまで腐らないのです。

保存料抜きで遠隔地や長期保存をするには、食品が腐敗しないレベルにまで水分を抜いて塩分濃度を高めるために、大量の塩をぶち込むしかありません。かつての保存食はそういうものでした。

湿度が高い日本での伝統的食材が塩分多目になっているのはそのためです。味噌や醤油も同様です。つまり、保存料抜きで「新鮮ではない」食べ物を口にするには、高濃度塩分による高血圧との戦いが待っているのです。

そして保存料が無く、塩分も高くない食品ばかり食べられるのは、かなり恵まれた立場ということになります。そんな食品はまず高価なものになります。ブルジョアかセレブしかそんな食事は出来ないのです。

保存料も塩分もない食品を選択的に摂取するためには、新鮮なものを選ぶしかなく、またそれが出来るのは時間と財布に余裕がある人だけです。

保存料入りが身体に悪いとしても、保存料がない食品による食中毒リスク(あるいは高血圧リスク)とどちらがより危険かを、一般人は天秤に掛けるしかありません。

自然を尊んで人工物を否定する向きは、衣食住のうちの食だけではなく衣にもあります。ポリエステルやフリースといった合成繊維よりも、綿や麻などの天然繊維の方が身体に優しい、という人も結構います。

これにしても、今の時代では合成繊維の方が天然繊維よりも安く売られています。どちらにも良い面と悪い面があるはずですが、「自然」「天然」の方が良いというイメージが世間一般に存在します。合成繊維、特に原油由来のものは地球環境に悪い!という理屈もありますけれど、天然繊維たる綿が新疆で大量にウイグル族を強制労働させて生産されているのは良いのですかね。あと綿栽培には大量の水も使いますし。

もちろん、合成繊維の方が無条件で環境に優しいわけでもないのですが、天然物>人工物という式を何でも当てはめるとどこかで矛盾します。

衣食住のうち残る「住」は、さすがに天然物だけで家を作ることは出来ないですし、逆に貧しいからと言って人工物だけの家に住んでいるわけでもありませんが、突き詰めていくとセレブがツリーハウスに住み出すんじゃないでしょうか?

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