シグナルを間違う怖さ

ミャンマーのクーデターに対しては、予想に違わずロシア・中国は不干渉、西欧諸国は反対の意向を示しました。この点は他の国で起きた場合でもほぼ同じなので特に驚きではありませんが、ミャンマーは中国と密接な関係が存在します。

何せベトナムや北朝鮮よりも長い国境で接していて、パイプラインも存在します。インド洋・ベンガル湾経由で運んできた原油・天然ガスをミャンマー国内を突っ切り、中国南部に到達するパイプラインによって、マラッカ海峡を通らずにエネルギー需要を一部満たすという点では、中国政府にとっては重要な生命線です。

中国がミャンマー国内での影響力が低下し続けると、パイプライン自体に何かあれば苦しむことになりますが、逆から見ればミャンマー経由のパイプラインが存在することによって、マラッカ海峡への固執の度合いが減ることにもなります。

もちろん、マラッカ海峡経由での原油輸入ルートはどうでもいいというほどではないので、南シナ海・東シナ海での中国の覇権獲得的行動は無くなるわけがありませんが、中国がミャンマーとの密接な関係を失ったら、マラッカ海峡〜南シナ海〜台湾海峡〜東シナ海というルートの絶対的確保のために、もっと過激な行動に出てくる可能性があります。

欧米各国や日本などの西側諸国がミャンマーにそれなりの圧力をかけるのは当然ですが、ミャンマー国軍の影響力が排除され、完全に西側よりの国家になってしまうほどの圧力をかけると、中国が必要以上の警戒心からどういう行動に出るか、ということも考えておくべきでしょう。

同じく反欧米の大国であるロシアでも、反体制派のナワリヌイ氏を巡って抗議行動が活発化しています。プーチン政権が超長期になることを認める法改正をしたばかりですが、経済の落ち込みもあって反プーチンの動きが目立ってきたように思います。

ロシアを強くした、という見方から英雄視もされるプーチン大統領ですが、そもそも2001年に就任後にロシア経済が強くなったのは、世界的な原油価格の高騰があったからです。その点は前任のエリツィンよりも幸運でした。もちろん、地位を固められた理由はそれだけではありませんでしたが、原油による収入が落ち込むとその分、権力のリソースが削がれることになります。

ロシアに対して他国、特に仮想敵国である国々が、ロシアの内紛に乗じようとするのは当然のことですが、そこでも結局ミャンマー・中国問題と同じことで、ロシアを完全に西側の言うがままになるようにしてしまおうとすると、どう考えても現行政権が強行に抵抗します。

ロシア国内でなくても、もともとロシアの影響が強かったウクライナでは実際にそうなりました。EU寄りになったウクライナに対して、クリミア半島を併合し、ウクライナ東部を独立させ不安定化させた状態にまで持っていきました。

先日のアルメニア・アゼルバイジャン間の紛争において、旧宗主国とも言えるロシアに各国が任せっきりだったのは、変に割り込むともっとややこしい結果になるかも知れないと判断したからとも思われます。あそこはトルコも絡んできますし。

ともかく、ウクライナでのロシアの動きは、ミャンマーにおける中国の動きのお手本になるかも知れません。国軍を粉砕してしまえば再度の民主化は容易でしょうけれど、その後には中国を止められなくなります。もちろん、このまま放置していても、ミャンマー国軍と中国政府が利権と援助を引き換えにWin-Winとなり、国際社会にそっぽを向くことになります。

まるで20世紀の東西冷戦時代のような話ですが、密接な関係を大国同士が築けていない以上、限られたメッセージが発するシグナルは間違って相手に受け取られると厄介な問題になりかねません。


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