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CRBSI(カテーテル関連血流感染症)

集中治療室での発熱では常に鑑別に挙がるのがCRBSIとVAPです。疑われる頻度の割に本当に診断に行き着く割合は少なく感じます。実際にカテの替えすぎも問題になっているようです。
IDSAガイドライン2019(PMID: 19891568)、up to date、Johns Hopkins ABX Guide、レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版より

【ポイント】
・身体所見、臨床所見で感度の高いものはない(疑わしい所見がなくても除外できない)
・カテ先培養陽性+末梢血液培養陽性もしくは、CV逆血培養陽性+末梢血液培養陽性+DTPを満たすと確定診断(もちろん同じ菌種)
・治療は、基本的に感染カテーテルの抜去と抗菌薬(VCM ± GNRカバー ± カンジダカバー)
・治療期間は菌種、合併症に応じて決める
・長期留置カテーテル、CNSのCRBSIなどでは抗菌薬ロック療法と抗菌薬投与を併用してカテーテル温存を検討することも可能

<臨床所見>

カテーテル刺入部の炎症所見、膿の所見は特異度は高い(94~99%)が、感度は低い(<5%)
・血液培養で黄色ブドウ球菌、CNS、カンジダ属が陽性となった場合、その他に感染源を認めない場合はCRBSIの疑いが強まる
・カテーテル抜去から24時間以内に臨床症状が改善した場合はカテーテルが感染源であったことを示唆する

<検査>

○カテーテル培養
・中心静脈カテーテルに関しては、皮下留置部ではなく、カテーテル先端を提出する
・カテーテル先端5cmの半定量培養(ロールプレート法)で15コロニー形成単位(cfu)よりも多い菌発育を認めた場合、カテーテルへの菌定着を示している
・CRBSIの疑いで静脈アクセス皮下ポートを抜去した場合、カテーテル先端培養に加えて、ポートリザーバー内容部を定量培養に提出する(ポートリザーバー内容物の方が感度が高い)

○血液培養
・皮膚消毒は、ポビドンヨードよりもアルコール or ヨードチンキ(アルコール入りヨード)or クロルヘキシジンアルコール(0.5%以上)を用いて、コンタミを防ぐために十分な皮膚への接触時間および乾燥時間をとる
・CRBSIを疑った際は、感染が疑われるカテーテルと末梢静脈から1セットずつ計2セット検体を採取し、どこから採取したかわかるようにしておく

<診断>

以下、いずれかを満たす場合にCRBSIの確定診断となる
①少なくとも1セットの経皮的に採取した血液培養とカテーテル先端培養から同じ微生物が検出されること
②2つの血液培養検体(1つはカテーテルハブ、もう1つは末梢静脈から採血)で、CRBSIの基準を満たすこと

※CRBSIの基準
・カテーテルから採取した血液から検出される微生物のコロニー数が、末梢から採取されたもののコロニー数の3倍以上
DTP(differential time to positivity)を満たす(カテーテルから採取した血液検体の方が、末梢から採取された血液検体よりも少なくとも2時間以上早く陽性になる)
※いずれもボトルあたりの血液量を同じにすることが必要

up to dateによると
「陽性適中率が低いため、カテーテル先端培養はCRBSIの診断に推奨されなくなった」という報告もなされている

※似ている病名:CLABSI(Central line-associated bloodstream infection)
・サーベイランスでの定義であり、CVC留置中に他の原因のない血流感染症と定義される
・診断としての感度は高いが、特異度はあまり高くない

・DTPは、ICU患者および担癌患者において定量血液培養に匹敵する精度を持ち、より優れた費用対効果があることが示されている
・微生物の発育時間には、血液培養ボトルに採取された微生物の量が多いほど短くなる
・大半の微生物検査室は定量血液培養を行っていないが、DTPは計測可能なことが多い

<原因微生物>

CNS 37%
Staphylococcus aureus 13%
Enterococcus 13%
GNR 14%
Candida species 8%
Johns Hopkins ABX Guideより)

<治療>

empirical therapy(経験的治療)
➔ VCM
GNRカバー(CTRX、CFPM、PIPC/TAZ、MEPM、CPFX、GMなど)
 :ルーチンには不要(全身状態不良、敗血症、好中球減少、鼠径部にカテーテル留置例などで追加
Candidaカバー(基本的にはエキノキャンディン系:MCFGなど)
 :ルーチンには不要(TPN(中心静脈栄養療法)、広域抗菌薬の長期使用、血液悪性腫瘍、造血幹細胞移植後、鼠径部のカテーテル、複数部位でのカンジダ属を保菌している場合などで追加

・MRSAの中でVCMのMIC(最小発育阻止濃度)が>2μg/mLを超えるものが多い施設ではダプトマイシンのような代替薬が推奨される
・リネゾリドは経験的治療で使用すべきではない
・GNRの経験的治療は、各地域や施設での抗菌薬感受性の状況や重症度による
・好中球減少患者や重症敗血症患者、あるいは多剤耐性菌を保菌していることがわかっている患者では、感受性結果が判明し抗菌薬のde-escalationができるまでは、緑膿菌のような多剤耐性GNRに対し経験的に抗菌薬併用療法を行うべき

TPN(中心静脈栄養療法)、広域抗菌薬の長期使用、血液悪性腫瘍、造血幹細胞移植後、鼠径部のカテーテル、複数部位でのカンジダ属を保菌している場合などのリスクファクターを有する敗血症患者に対しては、カテーテル関連カンジダ血症を疑って経験的に治療をすべきである
・カテーテル関連カンジダ血症を疑って経験的に治療を行う場合は、エキノキャンディンを用いる(3ヶ月以内にアゾール系薬剤の使用がなく、Candida kruseiまたはgrablataのリスクが非常に低い医療機関の場合はフルコナゾールでもよい)

・カテーテル抜去後も72時間以上菌血症が持続する場合4~6週間の治療が推奨される
・感染性心内膜炎や化膿性血栓性静脈炎の合併が判明した場合や小児の骨髄炎でも4~6週間の治療が推奨される
・成人の骨髄炎合併では6~8週間の治療が推奨される

・短期留置型カテーテルはGNR、黄色ブドウ球菌、腸球菌、真菌、抗酸菌によるCRBSIの場合に抜去すべき
・長期留置型カテーテルのCRBSI患者では、以下では抜去すべき
①重症敗血症、化膿性血栓性静脈炎、感染性心内膜炎の合併
②有効な抗菌薬を使用しても72時間以上血流感染が持続する場合
③黄色ブドウ球菌、緑膿菌、真菌、抗酸菌による感染

<非トンネル型CVCと動脈カテーテルに関連した感染症>

・カテーテル関連感染症が疑われる症例から抜去されたカテーテルの大部分の培養結果は陰性であることから、発熱があっても症状が軽度から中等度であれば中心静脈カテーテルをルーチンで抜去する必要はない
・集中治療室の患者で新規の発熱が見られると血管内カテーテルはしばしば抜去され、再挿入される
・しかし、このような症例のうちCRBSIを来しているのはわずかである
・血行動態が安定している患者で、菌血症が確認されておらず人工弁やペースメーカー、最近埋め込まれた人工血管がない場合には、新規の発熱の際にカテーテルを抜去する必要性は必ずしもないかもしれない
・カテーテル抜去を血流感染が確認された場合血行動態が不安定な場合に限ることで、不必要なカテーテル抜去をへらすことができる
動脈カテーテル関連CRBSIの頻度は、短期留置中心静脈カテーテルの頻度に迫るものと推測されている

<抗菌薬ロック療法>

・抗菌薬ロック療法はカテーテル挿入部やトンネル感染のない長期留置型カテーテルのCRBSI患者でカテーテルを温存する目的に適応となる
・CRBSIでは抗菌薬ロック療法のみで加療すべきではない
・抗菌薬全身投与を組み合わせ、両方を7-14日間行うべきである
・抗菌薬ロック療法は一般的に再注入まで48時間を超えるべきではなく、鼠径部カテーテル留置中の歩行可能な患者の場合は24時間毎が望ましい
黄色ブドウ球菌やカンジダの場合は例外を除いて、抗菌薬ロック療法やカテーテル温存ではなく、カテーテル抜去が望ましい
・カテーテルからの逆血培養でCNSやGNRなどが複数回検出されるものの、末梢血液培養が陰性の場合、抗菌薬全身投与は行わずに抗菌薬ロック療法10-14日のみでもよい
・バンコマイシンの場合、少なくとも微生物学的MICの1000倍(例:5mg/mL)の濃度とすべきである

菌株別

<CNS>

・非複雑性CRBSIでは、カテーテルが抜去されている場合は5−7日間の抗菌薬治療
・カテーテルを温存する場合は抗菌薬ロック療法を併用し、10-14日間の抗菌薬治療
Staphylococcus lugdunensisのCRBSIでは黄色ブドウ球菌の場合と同様な管理を行う

CNSはカテーテル関連感染で最も一般的な原因菌である
・ほとんどの症例では良好な経過をたどるが、稀に敗血症となり、予後不良な経過となる
・最も一般的なコンタミネーションの菌であると同時に最も一般的なCRBSIの原因菌であるため、CNSが血液培養で陽性となった場合の解釈は悩ましい
・複数箇所から採取された血液培養が高率にCNS陽性となった場合は、CNSによる真のCRBSIを示唆する可能性が高い
・CNSによるCRBSIの治療を評価したRCTはない
・抗菌薬を投与しなくても、カテーテルを抜去することで改善する場合もある(血管内異物がなく、カテーテル抜去後に発熱や菌血症が遷延しなければ、抗菌薬投与は必要ないと考える専門家もいる)

<黄色ブドウ球菌>

・黄色ブドウ球菌によるCRBSIでは、感染しているデバイスを抜去し、4-6週間の抗菌薬投与を行うべき
・治療期間を短縮する場合は、経食道心エコーが必要である
・以下にすべて該当する場合は治療期間の短縮(最低14日間)も考慮できる
①糖尿病の合併なし
②免疫抑制状態なし
③感染カテーテルは抜去済み
④血管内に人工デバイス留置なし
⑤経食道心エコーで心内膜炎なし
⑥超音波検査で化膿性血栓性静脈炎なし
⑦適切な抗菌薬投与後72時間以内に発熱と菌血症が軽快
⑧臨床的な症状、徴候、関連検査で転移性感染巣を認めない

・経食道心エコーを施行する場合、偽陰性となる可能性を極力抑えるために、菌血症が生じてから少なくとも5-7日後に施行すべきである
・カテーテル先端の培養で黄色ブドウ球菌が陽性であるものの、末梢血液培養は陰性である場合は5-7日間の抗菌薬治療を行う
・その上で、状況に応じて追加の血液培養や感染症状のモニタリングが必要
・黄色ブドウ球菌のCRBSIでカテーテルを抜去した後、追加の血液培養が陰性であれば新しいカテーテルの留置を行うことができる

・黄色ブドウ球菌のCRBSIの適切な治療期間を決定するために十分な症例数を検討したRCTはない
・血行性合併症の堅実な予測因子としては、カテーテルを留置したままであることと適切な抗菌薬投与後72時間以降も血液培養陽性であること
・他の予測因子としては、市中発症例敗血症性塞栓症による皮膚所見が挙げられる
人工物温存例、透析症例、AIDS症例、糖尿病症例、免疫抑制剤使用例では血行性合併症のリスクが有意に増加するため、免疫抑制症例ではより長期の治療を行うことが賢明
経食道心エコーの感度が最もよくなる時期は菌血症発症5-7日後である

<腸球菌>

・短期留置型血管内カテーテルは抜去することを推奨
・長期留置型血管内カテーテルは、刺入部やポケット感染徴候がある場合や化膿性血栓性静脈炎、敗血症、感染性心内膜炎、持続性菌血症、転移感染がある場合に抜去すべき
・非複雑性CRBSIの場合は治療期間は7-14日間(長期留置型カテーテルの温存をする場合は抗菌薬ロック療法を併用)
・腸球菌によるCRBSIでは、心内膜炎を示唆する徴候(適切な抗菌薬開始後72時間以降も続く発熱や菌血症)、敗血症性塞栓症の所見、人工弁や他の血管内異物の存在がある場合は経食道心エコーを施行すべき
・アンピシリンとバンコマイシンに耐性を持つ腸球菌によるCRBSIでは、感受性に基づきリネゾリドやダプトマイシンの使用を検討する

・腸球菌は、院内発症の血流感染症の10%を占め、多くの原因は血管内カテーテルの感染
・院内発症血流感染症において、Enterococcus faeciumの60%、Enterococcus faecalisの2%がバンコマイシン耐性
・腸球菌によるCRBSIによる感染性心内膜炎のリスクは比較的低い

<GNR>

・CRBSIが疑われる症例において、全身状態不良、敗血症、好中球減少、鼠径部にカテーテル留置例、GNR感染症のフォーカスを認める場合においては、GNRをカバーする経験的な抗菌薬治療を開始すべき
・カテーテルを抜去し、治療期間は7-14日間
・GNRが原因となる場合は、多くは腸内細菌ではなく病院由来のブドウ糖非発酵菌などが多い(Pseudomonas spp、Acinetobacter spp、Stenotrophomonas maltophiliaなど)(レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版より)
・ESBL産生菌などの耐性菌にも注意を要する
・CRBSIが疑われる状況で、多剤耐性GNRの定着もしくは最近の感染を認める症例では、初期治療としてGNRに活性のある2種類の異なるクラスの抗菌薬を開始すべき
・GNRによる長期留置型カテーテルのCRBSIで、抗菌薬の全身投与と抗菌薬ロック療法を行っている状況下でも持続菌血症や重症敗血症が存在する場合は、カテーテルを抜去すべき
・ESBLを有する多剤耐性Klebsiella pneumoniaeとE.coliの治療においては、in vitroで感受性があってもセファロスポリン系やピペラシリン・タゾバクタムによって治療された場合はカルバペネム系で治療された場合と比較して予後不良と関連を認めた

<カンジダ属>

・カンジダ属によるCRBSIでは、カテーテルは抜去すべき
・中心静脈カテーテル温存は転機の悪化に関係している
・C.albicansとアゾール感受性株によるカンジダ血症の治療において、フルコナゾール400mg/日 血培陰性化から14日間の治療は、アムホテリシンBによる治療と同等の成績であった
・アゾール低感受性カンジダ属(C.grablataやC.krusei)に対しては、エキノキャンディン系(カスポファンギン 70mgローディング➔50mg/日、ミカファンギン100mg/日)もしくはアムホテリシンB脂質製剤(アムビゾーム 3-5mg/kg/日)が有効である
・empirical therapyでは基本的にエキノキャンディン系

<その他のグラム陽性菌>

・コリネバクテリウム、バシラス、ミクロコッカス属によるCRBSIの診断には、異なる場所から採取された検体で行われた血液培養で複数回陽性になることが必要である
・血液培養1セットのみから分離されただけでは真の菌血症とは診断できない
・短期留置型中心静脈カテーテルは抜去することが望ましい

血流感染合併症

<化膿性血栓性静脈炎>

感染性心内膜炎などの血管内感染巣を有さず、持続菌血症を呈する患者(適切な抗菌薬療法開始から72時間以上経過しても血培陽性が持続する患者)では、化膿性血栓性静脈炎を疑うべき
・化膿性血栓性静脈炎の診断には、血液培養陽性かつ画像(CT、エコー、その他)で血栓が証明されることが必要
・化膿性血栓性静脈炎に対する病変部位の外科的静脈切除は、表在静脈の化膿例、血管壁を超えた感染患者、適切な抗菌薬療法による保存治療に失敗した患者に限る
・ヘパリンの意義についてははっきりしていないが、検討されるべきである
・カテーテル関連血流感染症に化膿性血栓性静脈炎を合併した患者では、少なくとも3-4週間の抗菌療法が行われるべきである

・黄色ブドウ球菌が最も頻度の高い原因菌であり、悪性腫瘍に対する化学療法中または固形がんを有する患者が黄色ブドウ球菌のCRBSIを発症した場合、化膿性血栓性静脈炎のリスクが高まる

<持続血流感染と感染性心内膜炎>

・カテーテル関連感染性心内膜炎ではカテーテル抜去を行う
・血管内カテーテルの菌定着は、最も高頻度に同定される院内発症の心内膜炎の感染源
ブドウ球菌が主要な起因菌であり、腸球菌カンジダ属がそれに続く・院内発症の心内膜炎のリスクは、人工弁、ペースメーカー、悪性腫瘍、留置カテーテルを介しての透析中などの背景因子を持つ、黄色ブドウ球菌菌血症患者で最もリスクが高い

<コメント>
・けっこう古いガイドラインなので現在の知見と解離しているところもあるかもしれません
・黄色ブドウ球菌のCRBSIに対してハードル低く経食道心エコーをやれと書いていますが現実的には難しいでしょう
・黄色ブドウ球菌CRBSIは比較的安全に経食道心エコーを省略できることや長期の抗菌薬投与でなくてもよさそうという研究もあります

前回の記事を参照ください↓


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