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黄色ブドウ球菌菌血症(SAB:Staphylococcus aureus bacteremia)のマネジメント

熱源がよくわらないけど経過をみていたら入院時の血液培養から黄色ブドウ球菌が生えてきたということはありませんか?黄色ブドウ球菌は1セットでも陽性であれば本物です。侵入門戸がよくわからない時の方が感染性心内膜炎などの合併症のリスクが高いようなので注意です!
参考文献:JAMA Review(PMID: 25268440)、Lancet infect(PMID: 21371655)、J infec Chemo(PMID: 31676266)より

【ポイント】
・SABを見たらまず侵入門戸検索、最初の血培から2~4日後に血培の再検、経胸壁心エコー、必要あればデバイス除去・ソースコントロール
・リスクや臨床所見を考慮して経食道心エコーを検討
・転移感染がないか、日々問診・診察
・治療期間は、非複雑性SABなら血培陰性から2週間、複雑性SABなら4~6週間

<総論>

・黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)の全死亡率は20%で、1990年代から変化していない
・MRSAは死亡に対する単独した危険因子
・SABの管理方法は、
①十分な病歴聴取と身体診察
②治療開始後に菌血症が消失したことを確認するフォローアップ血液培養
③膿瘍のドレナージと感染デバイスの除去

など確率されているものもある
・黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎は一般的であり、臨床的にはSABと区別がつかないことが多く、不十分な治療は致命的になることもある
全てのSABで、感染性心内膜炎の有無について検討すべき(少なくとも軽胸壁心エコーは施行すべき)
・感染性心内膜炎の有無を判断するのに、経胸壁心エコーで十分なのか、経食道心エコーが必要なのかははっきりしていない

<経食道心エコーについて>

・経食道心エコーを受けた患者の方が、経胸壁心エコーを受けた患者よりも感染性心内膜炎の全確率が高いがサンプリングバイアスを受けている可能性がある
・経食道心エコーの方が経胸壁心エコーよりも検出率が高いことが示された(14-28% vs 2-15%)
・経胸壁心エコーが陰性だった患者で、経食道心エコーが陽性となったのは19%(15/77人)という報告もある
・感染性心内膜炎の臨床所見を持たないSABの患者144人に対して経食道心エコーを施行すると15%で感染性心内膜炎の診断になった

・いくつかの感染性心内膜炎のリスクを持たないSABの患者には経食道心エコーを安全に回避できることが提唱されている
・感染性心内膜炎のリスクが低い要素として
①永続的な心内デバイスがないこと
②最初の4日以内でのフォローアップ血液培養が陰性であること
③血液透析依存状態でないこと
④院内で発症したSABであること
⑤遠隔感染がないこと
⑥感染性心内膜炎の臨床所見がないことが挙げられる
・これらを満たした場合の陰性適中率は93-100%であった
・また、すでに遠隔感染のために長期の抗菌薬投与を予定されている場合は経食道心エコーは省略できる可能性がある

<治療期間について>

・ガイドラインによると、以下を全て満たす場合非複雑性SABと定義している
①感染性心内膜炎が除外されている
②人工物が植え込まれていない
③最初の血培から2~4日後のフォローアップ血培が陰性
④有効な抗菌薬投与後72時間以内に解熱している
⑤遠隔転移感染の所見がないこと

・非複雑性SABであれば最初の血培陰性から少なくとも14日間の静注治療が推奨される
・14日よりも短期にすると、再発率が高くなる
・上記いずれかを満たさない場合複雑性SABとなり、4~6週間の治療が推奨される
・これらの推奨は低品質のエビデンスに基づいている

<MRSAに対する治療>

・第一選択はバンコマイシンとダプトマイシン
・一般的に抗菌薬の併用療法は効果がないとされている
・MRSA感染性心内膜炎に対してVCM+RFPで治療しても効果は得られなかった
・MSSAに対してはバンコマイシンよりもβラクタム系の方がよい

<感染巣の除去について>

・感染した静脈カテーテルを抜去しないことはSAB再発の最も強い独立した危険因子であることが示されている
・黄色ブドウ球菌心内膜炎(SAE)の早期外科介入、特に感染した人工弁の早期除去は予後改善につながる
・黄色ブドウ球菌に感染した人工関節を除去しないことは治療失敗と強く関連している
SABの10~40%では、初期検査時に感染源を特定できない場合があり、これらの患者に隠れた感染性心内膜炎を来しやすいという報告もある

<転移感染metastatic infectionについて>

・原発感染巣とは解剖学的に無関係な深部、遠位、二次感染と定義され、感染性心内膜炎、椎骨骨髄炎、腸腰筋膿瘍、化膿性関節炎などが含まれる
侵入門戸としては、褥瘡、手術創、糖尿病足病変などの皮膚バリアの喪失が最も一般的である
・静注薬物乱用が感染性心内膜炎のリスクとした報告もある
・鍼治療を含めた局所注射も潜在的な侵入門戸として考えるべき
侵入門戸が不明な場合、転移感染を来す可能性が高い
・CRBISによるSABでは転移感染のリスクは低いことと関連していた
・理由としては、CRBSIでは診断と治療までが早いことが挙げられる

・転移感染のリスクとしては、人工物が体内にあること(人工弁、ペースメーカー、人工関節など)、持続菌血症、持続的な発熱が挙げられる
持続菌血症(有効な抗菌薬療法を開始後3日以上経過した血液培養が陽性)は合併症の最も強い予測因子
・これらがある患者では転移感染を評価することが賢明である
・市中SABの方が、院内SABよりも感染性心内膜炎の発生率が高いことが報告されている
黄色ブドウ球菌側の病原因子も転移感染と関連している

○感染性心内膜炎

SABの6~24%で感染性心内膜炎を合併していたという報告がある
抜歯やう歯に伴う口腔内病変に伴うViridansグループの連鎖球菌によるものが多かったが、近年では黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎が増加している
・臨床症状から感染性心内膜炎を除外することはできないため、SABの全ての患者において心エコーを施行すべき
・SABの感染性心内膜炎発症に関する予測因子の検討によると、塞栓症、ペースメーカー、人工弁、感染性心内膜炎の既往、静注薬物使用歴のある高リスク患者には少なくとも経食道心エコーを施行すべきと示唆された
・IDSAでは、MSSAに対しCEZ、MRSAに対しVCM or DAPを推奨しており、人工弁の有無に関わらず6週間の治療を推奨している

○脊椎骨髄炎

SABの1.6~11.8%で脊椎骨髄炎を合併していたという報告がある
・脊椎骨髄炎は、脊椎手術後、腰椎症に対する局所注射、一部の患者では血流感染後などが原因で発症する
最も一般的な原因は血行性感染であり、一般的な病原体は黄色ブドウ球菌であり、次いで連鎖球菌である
・脊椎骨髄炎の多くは背中や頸の痛みを訴えたが、発熱を認めたのは35~52%のみであった
・一部のSABでは、転移感染の局所症状を来さないこともある
・したがって腰痛や発熱がなくても椎体脊髄炎を除外してはいけない
・検査では、ESRおよびCRPが椎体骨髄炎で高い感度を示した
・診断には、CTよりもMRIの方が感度が高い
・椎体骨髄炎の治療が不十分な場合、歩行障害や神経障害を引き起こす可能性がある
・SABに椎体骨髄炎を合併していると診断された患者には、黄色ブドウ球菌に対する抗菌薬治療を6~8週間続ける必要がある
・RCTでは、6週間の抗菌薬治療は12週間よりも劣らないことが示されている
・しかし、中には治療失敗が見られ、治療失敗には黄色ブドウ球菌が関連していた
・さらに硬膜外膿瘍の合併も治療失敗に関連することが示されている

○腸腰筋膿瘍

SABの0.9~5.5%で腸腰筋膿瘍を合併していたという報告がある
・一次性は、他の感染源からの血行性、リンパ性播種による
・二次性は、腎臓や腸管などの近傍臓器からの直接播種による
一次性では、黄色ブドウ球菌が最も一般的であり、二次性では、多菌性が最も多いことが示された
・SAB患者の腰痛では、腸腰筋膿瘍や脊椎骨髄炎を診断するためにCTやMRIが推奨される
・<3.0~3.5cmの小膿瘍であれば、抗菌薬単独治療は経皮ドレナージと同等の効果があるという報告もある
・一方で経皮ドレナージは腰痛を速やかに改善し、≧5cmであれば有効かつ安全に施行できるという報告もある

○化膿性関節炎

SABの1.4~18.8%で化膿性関節炎を合併していたという報告がある
・機能的後遺症が残る重要な疾患
・化膿性関節炎は、関節注射や手術の合併症として知られていたが血行性播種が最も多いと報告されている
・人工関節かどうかに関わらず、最も多い原因は黄色ブドウ球菌
・診断と治療が遅れると後遺症が残る可能性があるため、SABの患者では関節の診察が重要である
・化膿性関節炎の診断には、関節液の一般検査、グラム染色、培養が必要
関節液中の白血球>50,000/mLが化膿性関節炎と関連するという報告がある
・黄色ブドウ球菌による化膿性関節炎と診断された場合は、十分な抗菌薬治療に加えて関節ドレナージを施行する必要がある
・IDSAガイドラインでは、MRSAに対する化膿性関節炎には3~4週間の治療が推奨されている

○眼内炎

SABの9%に眼病変を合併し、そのうち2.5%が眼内炎6.7%が脈絡膜炎と報告されている
・すべての眼内炎で最も多い原因菌はS.epidermidis(表皮ブドウ球菌)であり、次いでViridans group streptococci(緑連菌)黄色ブドウ球菌であった
・眼内炎は、白内障術後、眼窩関連、外傷性、内因性などいくつかのタイプに分類され、これらのタイプ毎に多い原因菌が異なる
白内障術後ではS.epidermidisが最も多い
内因性では、黄色ブドウ球菌が最も多く、次いでKlebsiella pneumoniaeが多い
・脈絡膜炎のみでは、抗菌薬全身投与のみで眼内炎の発症を防ぐことができるが、眼内炎では抗菌薬の眼内投与や硝子体手術が必要な場合もある
・SABの評価においては、視覚症状のある患者には注意すべきである
・SABに眼内炎を合併した症例の抗菌薬投与期間は、眼内炎の臨床経過に依存する

○敗血症性肺塞栓症

SABの0.9~18.8%で敗血症性肺塞栓症を合併していたという報告がある
・敗血症性肺塞栓症は、右心系感染性心内膜炎、頸部血栓性静脈炎、菌血症に関連する合併症である
半数以上の患者に呼吸困難、胸痛、咳嗽などの呼吸器症状がなかった
・しかし、多くの敗血症性肺塞栓症の患者がICU入院を必要とし、院内死亡率は9.0~30.0%と高い
・いくつかの研究によると、敗血症性肺塞栓症の原因菌で最も一般的なのはKlebsiella pneumoniaeで、次いで黄色ブドウ球菌と報告されているが、黄色ブドウ球菌が最多であるという報告もある
・黄色ブドウ球菌の侵入門戸は、血管内カテーテル、皮膚軟部組織と関連しており、K.pneumoniaeの侵入門戸は肝膿瘍や肺炎と関連していた
・胸部レントゲンでは検出できない場合もあるため、CTが推奨される
・治療期間は、臨床経過や画像所見に依存するが最低4~6週間の治療が必要とされる

<私見:いつ経食道心エコーまでやるか?>

・実臨床では、SABの診断となった場合、とりあえず血培の再検、経胸壁心エコー、侵入門戸検索、必要あればデバイス除去・ソースコントロールまではほぼルーチンだと思います。
・誰に経食道心エコーまでやるかということが悩ましいポイントだと思います。(もちろん経胸壁心エコーで疣贅が見つからなかった場合)

以下を全て満たせば経食道心エコーまで施行しなくてもよさそうです。
①永続的な心内デバイスがないこと
②最初の4日以内でのフォローアップ血液培養が陰性であること
③血液透析依存状態でないこと
④院内で発症したSABであること
⑤遠隔感染がないこと
⑥感染性心内膜炎の臨床所見がない

逆に以下を満たす場合は、経食道心エコーをすべきでしょう。
Ⅰ.塞栓症の合併
Ⅱ.ペースメーカー、人工弁がある人
Ⅲ.感染性心内膜炎の既往
Ⅳ.持続菌血症

・いずれも満たさない場合(特に市中発症で④を満たさないとき)は、全身状態や施設の経食道心エコーへのアクセスなどを考慮して、経食道心エコーを施行するか、慎重に経過観察しながら抗菌薬投与することになると思います。
・最近はエコーも進化しており、経胸壁でも十分観察可能な場合もあるため、「経胸壁心エコーで観察が難しい場合や人工弁の場合に経食道心エコーを考慮する」という記載も見られます。(レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版)
・いずれも満たさない場合の治療期間は、臨床経過に応じて血培陰性後から2週間もしくは感染性心内膜炎に準じて4~6週間になります。
・個人的には、感染源(侵入門戸)がはっりしないSABの場合は、全て静注にするかどうかはさておき長めの抗菌薬投与でもよい気がします(4~6週間)。


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