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経営者は従業員経験をつくる人になってゆく

はじめに

本連載は、弊社代表の平康によるブログ「あしたの人事の話をしよう」から抜粋し整理したものです。その中でも特に、人事、人材についての記事について一部加筆修正を加え、掲載しております。


「エンプロイー・エクスペリエンス」という言葉があります。

EEと略すこの言葉は、従業員に経験を積ませることでいち早く成長させることができる、という人材育成の考え方です。
多くの人事関連有識者が示すように、これからの人材マネジメントの主流になっていくと思われます。
このEEですが、じゃあ誰が経験を提供していくのでしょう。

人事部?
もちろん制度と運用プロセスは設計しなければいけません。

上司?
部下に直接経験を積ませるのはもちろん上司です。だからこそ上司によるタイムリーな支援や軌道修正は重要になります。

しかしより本質的なEEの設計者は、経営者にほかなりません。
ただしそれは、これまでの経営者のあり方を大きく超えたものになるのも事実です。
経営者の役割とは、原則として企業価値の最大化です。
そのためにビジネスモデルを作り上げ、それを回していくことが求められます。
この時、従業員に対してはビジネスモデルを回すための歯車であることを求めます。

自発性などを求める場合もありますが、それは現場での顧客対応を迅速化するためか、陳腐化しつつあるビジネスモデルを改善するために求めることがほとんどです。うまく回っているビジネスモデルにおいて、余計な創意工夫は邪魔でしかありません。
だから従順にビジネスプロセスを運用してくれる人材を採用し、習熟させ、生活を安定させる選択肢をとります。
これは伝統的日本企業に限らず、多くの成功した企業の原則的な人材マネジメントモデルです。

しかし働く意味の拡大が、エンゲージメントマネジメントの成熟を超えて進もうとしています。
言い換えるなら、どれだけ自社で働くことを魅力的に見せようとしても、出産や子育てなどのライフイベントを重視したい人の一時的離職を押しとどめることができないようなものです。
エンゲージメントを高めていれば、休職を経ても戻ってくる、と思うかもしれません。

しかしそこに用意されているキャリアが、階段を少し遅れて進む道でしかなかったとしたら、戻ってくるインセンティブは小さくなってしまう場合もあります。
そんな時、魅力的に映る他社への転職を選ばれてしまったとしても、決して従業員を責めることはできません。
大事なことは、経営者が、従業員にどんな経験を積むキャリアを想像できるかです。
そのキャリアは新卒から始まる連続的なものではなく、むしろ自分で選択可能なイベントのようなものです。

仮に入社2年目で「なんとなく」辞めた従業員が5年後に戻りたいといってきたとき、入社2年目までキャリアを戻すのではなく、今できる役割を見極めて与えられるかどうかです。
中途採用をする際に、新卒●●年目と同様の報酬を用意するのではなく、今生み出す価値に対しての対価を支払えるかどうかです。
そのような仕組みを作っていくために必要なことは、経営者が常にビジネスモデルのブラッシュアップを考え続けることです。

今うまく回っているビジネスも数年後にダメになるかも知れない、という前提で、歯車になっている一人一人に歯車ではない役割を与え続けることです。
従業員に経験を与え続ける人材マネジメントは、経営者の事業戦略と密接につながってゆく、あらたな人事戦略に他ならないのです。


セレクションアンドバリエーション株式会社
代表取締役 平康慶浩(ひらやすよしひろ)

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