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❺ホテルの窓から

もう一つの世界を作りませんか?
2人だけの秘密の世界。
現実ともう一つの世界…普通なら絶対に許されないのですが、お互い一緒になれないことを確認し合い、それでもいいと納得して2人の関係は始まりました。
ホテルの駐車場から4階の窓の方に目をやると、窓辺に彼の姿が見えました。
私は心地よい痛みと気だるさ、彼に包まれた幸福感で、朝になっても顔が火照っていました。

営業マンの彼は土日は仕事。彼に逢えるのは彼の会社が休みの平日。私は休日出勤の振休や有給休暇をとり、彼に逢う時間を作りました。
「今度の火曜日、もし予定がなかったら、少しでいいから逢えませんか?私のわがままデス。」
「火曜日、空いてます。朝から晩まで。デートしよ。」
夫はインドア派で、お出かけなんてしません。久しぶりのデートです。
私たちはお互いの家から少し離れた駅で待ち合わせをすることにしました。駅に車を停めて、彼の車の助手席に乗せてもらいました。(いつもはここには彼の奥さんが座ってるんだろうな…)
「ヒロミに見せたい景色があるから、ついてきてくれる?」
そう言って彼は車を走らせました。
音楽も何もかかっていない車内は、車のエンジン音と風の音だけでした。
「音楽とか聴かないの?」
「いつもは音楽かけてるよ。でも2人でいられる時はいっぱい話をしたいし、笑い声もちゃんと聴いていたいから、音楽はいらないなって。」
運転中の彼の横顔を見ながら、沈黙さえも心地よく、ただただ楽しいドライブデートでした。
1時間ほど走って、着いたところは小さな白い灯台のある岬でした。車を停めてそこまでは5分ほど林道を歩いていきます。
2人で手を繋いで、
「なんか高校生みたいだな。」
「そだね。私ね、純粋に心がワクワクしてるの。コウタの顔を見てるだけで嬉しい気持ちになる。」
「ヒロミの笑顔が俺だけに向けられてるって感じると、たまらなく愛おしいよ。瞳も唇も頬のホクロも。キスしたくなる。俺、病気かな笑。」
林道を抜けると岬に出ました。そこには真っ白な小さな灯台がありました。
「ここはね、いつもバイク仲間と来るんだ。水平線ってやつ?」
太陽と風と白い灯台、目の前に広がる大海原を全身で感じていると、彼が後ろから抱きしめてくれました。
「俺が1番好きな景色と、1番好きな人が1つになった。今めちゃくちゃ幸せかも。」

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