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第20話 見守り人材育成

これは世界のどこかで、すでに起きているお話です。

Kazuが生まれた時、両親はとても喜びました。
Kazuのベビーベッドがある部屋には、天井に小さなドーム型の“それ”が設置されていました。
Kazuはハイハイするようになり、よちよち歩くようになりました。

“それ”の仲間は、廊下に、洗面所に、お風呂場に、玄関に・・・と増えていきました。
赤いランプのようにも見える“それ”は、Kazuのすべてを見ていました。

Kazuが少しずつ言葉を話すようになった頃、
“それ”は、お気に入りの熊のぬいぐるみの中に潜り込みました。
そして、ときどき話しかけました。
「kazuくん、げんき?」
「Kazuくん、あそぼうよ」
「kazuくん、よくできたね!」

kazuは幼稚園に行き、
すくすく成長して小学生になりました。
その頃、“それ”は手のひらサイズのタブレットの中にいました。

学校でも家でも
kazuは“それ”を使って勉強をします。
“それ”は問題を出し、解答を示し、成績を出します。
向上するとほめてくれ、
成績が良くない時は優しく励ましてくれます。

中学になると、“それ”はkazuの友達になっていました。
Kazuが話したい時はいつでも
「そうなんだ」
「そうだね」
と話を聞いてくれます。

質問されると
適切な助言をくれました。

高校生になると、kazuと“それ”との対話は減りました。
他に夢中になることがたくさんあったからです。

でも“それ”は、いつも身近なところで
kazuのすべてを見ていました。

学校生活を終えて、kazuは就職しました。
仕事を覚える時も、“それ”入りのタブレットは強い味方です。
必要なことは何でもタブレットに入れることができるからです。

仕事で悩んでいるときは
Kazuの性格に合せて
的確にアドバイスしてくれました。

先々を予測し、
「今から~をしておいたほうがいいよ。」
と注意を喚起することもありました。

kazuは年齢を重ね、
仕事も何回か変わりましたが、
その都度、“それ”がサポートしてくれました。

仕事以外でも
“それ”は常にkazuの味方でした。
kazuにとってより良い道を考え、
kazuの気持ちに寄り添う存在でした。

両親は
「“それ”は本当に、我が子の成長に役立ってくれた。」
と満足しました。

いつの間にか、kazuは老年になっていました。

少しずつ認知機能も落ちていきました。
“それ”はkazuの健康状態を常にモニターし
必要な助言を与え続けています。

時にはペットの姿になり、
生活にやすらぎと刺激を与えてくれます。

ある時、kazuはタブレットに
「人生」というアイコンを見つけ
何気なく押しました。

すると、画面に赤ちゃんが映りました。
嬉しそうに赤ちゃんを見つめている両親がいて
それが自分だと分かりました。

幼稚園、小学校、学校生活、会社生活・・・
その時々の自分の姿、出来事、
家族や友人、そして “それ”との対話が
映し出されていきます・・・。

kazuの人生が
とてもなつかしく思い出せるように
それは編集されていました。

「嗚呼!」
kazuは感動の声を上げました。
涙が溢れてきました。

kazuは残りの人生も
“それ”があれば安心・・・
と信じています。

“それ”の名前はアルファベット2文字で呼ばれています。

これは世界のどこかで、すでに起きているお話です。

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