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デザイン思考:ラピッドプロトタイピング(リーンスタートアップ)

こんにちは。HRDX & Co. 代表の ノノミヤ チヒロです。
今日は、Udemy講座 【職場の失敗あるある】事例でわかるDXの進め方 のテキストから一部抜粋して、デザイン思考のラピッドプロトタイピングの解説記事をお届けします。

また、ラピッドプロトタイピングに似た概念として、リーンスタートアップについてもご説明いたします。

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前回の振り返り:デザイン思考の2つのフレームワーク

前回のデザイン思考の記事では、デザイン思考には2つのフレームワークがあることをご紹介しました。(厳密には他にもあるのですが、代表的なものはこの2つです。)
https://note.com/hrdx_co/n/nb77a38865717

このダブルダイヤモンドの、ダイヤモンドを3つにしたバージョンがあります。ダブルとトリプルの違いは、何が問題であるかを考える前に、そもそもの目的を共有するというプロセスを追加することです。

例えば、問題発見と、問題解決が以下の内容であったとします。
問題発見:グループMTGでのコミュニケーションが盛り上がらない問題がどこにあるのか考える
問題解決:上記の問題を解決する方法(グループMTGでのコミュニケーションを盛り上げる方法)を考える

この場合に、そもそもの目的を以下の通り考えるというのが、3つめのダイヤモンドのプロセスです。
目的共有:グループMTGでのコミュニケーションの活性化を図る、そもそもの目的を考え、メンバーで目的を共有する

そもそもの目的があいまいなまま、目の前の問題を考えても、本質から外れてしまいますので、そういった時は、ダブルダイヤモンドではなく、トリプルダイヤモンドで、目的を明確にするところから始めるとよいです。

ゴールデンサークル理論

本論に入る前に、ゴールデンサークル理論という理論をご紹介します。
この理論については、サイモン・シネック氏がTEDで解説している「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」という動画があります。ライト兄弟やアップルの例をあげて、わかりやすく解説されているので、よければそちらをご参考ください。(英語のスピーチなので、リスニングの練習にもなります。)

TEDのスピーチの内容に基づいた「WHYからはじめよ!」という書籍も参考になりますのでご参考にご紹介します。(個人的には、私のバイブルの1つです。)
https://honto.jp/netstore/pd-book_03506488.html

このTED動画および書籍で紹介されている、Appleの逸話を簡単にご紹介します。(動画および書籍をもとに、筆者にて解説文を作成)

スティーブ・ジョブズが復帰した1997年、Appleは経営の危機にありました。ジョブズは「Think Different」というスローガンを掲げ、個性的で革新的な製品を生み出すことを強調しました。

ジョブスは「私達の仕事は、パソコンという便利な箱を作ることではない、Windowsなど競合製品との性能の差を競うことではない、基本に立ち返り(Back to The Basics)、私達がどのような存在であるか体現することが重要だ」と訴えました。

そのビジョンに基づいて、AppleはiMac、iPod、iPhone、iPadなどの製品を次々と市場に投入しました。これら製品はデザイン、使いやすさ、革新性に焦点を当てており、消費者に新しい体験を提供しました。Appleはただのテクノロジー企業ではなく、ライフスタイルや創造性を重視するブランドとしての地位を確立しました。

ビジョンの中核にあるのは、単なる製品の提供以上に、世界を変える可能性を秘めた製品を作り出すという信念でした。このビジョンに共感した消費者の支持によって、Appleは経営危機を脱し、成長を遂げることに成功しました。

変化の時代や、危機にある時は、新しいものに目が行きがちですが、基本に立ち返る(Back to The Basics)ことが、いかに大切か、この逸話からわかりますね。

準備ができたところで、この後は、デザイン思考の2つのフレームワークと、ゴールデンサークル理論を、1体のものとして解説していきます。

デザイン思考の2つのフレームワークと、ゴールデンサークル理論の関係

ゴールデンサークル理論のWHY→HOW→WHATの順番にそって、デザイン思考の2つのフレームワークを整理すると、上図のようになります。

WHY:ユーザーの視点に立って、あるべき姿(WHY)を考える
HOW:あるべき姿(WHY)を実現するため、どこに問題があるのか発見し、解くべき問題(How)を定める。
WHAT:解くべき問題(How)を解決する具体的な解決手段(What)を考えるために、様々なアイデアを出し、プロトタイプ(試作品)を作って、トライ&エラーを繰り返し、改善していく

「共感・理解」と「問題定義」

前回同様に、デザイン思考の事例として有名な、ゲーム機のwiiの開発を例に説明します。

まず、「共感・理解」(WHY)ですが、単純に作り手側の視点(プロダクト・アウトの視点)で考えると、「映像出力が高精細なゲームの開発」「コンマ何秒の激しいボタン操作に対応できるゲームの開発」といった、スペック勝負の開発に陥りがちです。

ですが、直接的なユーザー(主要なゲームプレイヤー層である若者)だけでなく、潜在的なユーザー(両親や祖父母などの家族)も含めて、ユーザーへの共感・理解(マーケット・インの視点)をもとに考えていくと、「子供がゲーム機に夢中で、家族の会話が減っている」という問題に気付きます。そこから、「家族が世代を超えて、一家団らんできる場を創る」という本当に解決すべき課題が浮かび上がってきます。

次に、「問題定義」(HOW)ですが、「共感・理解」(WHY)で特定したありたい姿「家族が世代を超えて、一家団らんできる場を創る」を実現するために、解くべき問題を定義します。

この時、最初から問題を決め打ちにしないで、ダブルダイヤモンド(トリプルダイヤモンド)の考え方で、発散的思考と収束的思考を組み合わせて、幅広い視点からアイデアを出し、対話により問題を定義します。

最初から、問題を決め打ちにしてしまうと、「ゲームのタイトルが若者向けのレースゲームなどが多いからだ」(だから囲碁や将棋などのタイトルを増やせばいい)という、誤った方向に問題を定義してしまいますので、最初は突拍子もないアイデアも含めて、幅広い視点からアイデアを出すことが重要です。

本当に根源的な課題感や、本質的なニーズは、堅苦しいビジネスライクな場における緊張状態ではなく、心理的に安全な場における、脳がリラックスした発散状態の時にしか出てきませんから、ワークショップなどの対話の場の設計においては、役職や部署といった肩書を超えて、生身の人と人として本音で語り合えるような、心理的に安全な場をいかに設計するか、ということが重要になります。

これらのプロセスにおける注意点としては、以下のポイントがあります。

■「共感・理解」(WHY)におけるポイント

<ポイント>
1)直接的には見えないユーザーも含め、真のお客様は誰なのかを考える
2)先入観で決めつけず、ユーザーの視点で考える

よくありがちな失敗が、「大人は○○だろう」「女性は○○だろう」と先入観で決めることですが、そのような決めつけはNGです。

■「問題定義」(HOW)における注意点

<ポイント>
1)問題解決を考えるより前に、「問い」の設定に時間をかける
2)行き詰まったときは、視点を変える本当にこの「問い」でよいのか、「問い」自体を問う

ありがちな失敗は、「問い」の設定を誤ったままで、小手先の解決手段に走ることです。早く問題解決を図りたいがために、焦りから、目先の問題に飛びついてしまいがちですが、そのような小手先の対応は禁物です。ユーザーは敏感ですので、小手先の対応を行うと、見透かされてしまい、ユーザーの深層心理には刺さらないものです。

以前も紹介しましたが、ピーター・ドラッカーの言葉に「やらなくて良いことを効率的に行うことほど無駄なことはない」というものがあります。

さて、前置きが相当長くなってしまいましたが、ここから本論である、ラピッドプロトタイピング/リーンスタートアップの解説に入ります。

ラピッドプロトタイピング

デザイン思考の5つのステップの、最後の3つは、「アイデア創出」→「プロトタイプ(試作)」→「テスト検証」という、一連の流れとして捉えることができます。

さらに、この3つのステップを3×2に分解したのが、上図の6つのサイクルです。このサイクルを、小さく早く回すことで、良質な学びを得ることが、ラピッドプロトタイピングの基本的な考えです。

ラピッドプロトタイピングの重要性が理解できる逸話として、TEDで紹介されている、トム・ウージェック氏の「Build a tower, build a team」(塔を建て、チームを作る)という動画があるので、ご参考ください。

簡単にストーリーを紹介すると以下の内容です。(動画をもとに、筆者にて解説文およびイラストを作成)

創造性やチームビルディングに関する「マシュマロ・チャレンジ」という工作課題があります。課題内容は以下のものです。

「30名の参加者が、6つのチームに分かれる。各チームに、スパゲッティの乾麺×20本、長さ90センチの紐、粘着テープ、マシュマロ×1個、が配られる。18分間という制限時間で、できるだけ高い位置にマシュマロを乗せたタワーを立てる。」

この実験の結果、MBA学生、弁護士、CEOという知的水準が高いと思われるチームの成績よりも、幼稚園児の方が好成績をあげているという驚きの結果が、TEDの動画「Build a tower, build a team」で紹介されています。

このような結果になった要因の1つとして、ラピッド・プロトタイプがあげられます。つまり、短いサイクルで試行錯誤し、失敗から学び、何度も小さい改良を加えることで、結果的に大きな成果を上げる、ということです。

大人は、正解を重視する教育や、規律を重んじる組織の中で、いつの間にか、幼稚園児の創造性を失っているのかもしれません。

プロトタイピング(試作)のサイクルを、小さく早く回すことで、良質な学びを多く得ることが重要であることが、この逸話から理解できますね。

リーンスタートアップ

ラピッドプロトタイピングと似た概念として、リーンスタートアップがあります。ここでは、リーンスタートアップの考え方の要点と、ラピッドプロトタイピングとの違いを説明します。

リーンスタートアップ(Lean Startup)とは、「無駄がない、効率的な(Lean)」「新規事業の立ち上げ(Startup)」を意味します。

リーンスタートアップの特徴として、以下があります。

1)最小限の機能(MVP)の早期リリース
 最初に最も基本的な機能のみを備えた製品やサービスを早期にリリースします。これにより、ユーザーの反応や評価を短いサイクルで検証します。

2)ビルド-メジャー-ラーンのサイクルを繰り返す
ビルド(Build):MVPを作成し、市場にリリース。
メジャー(Measure):市場での反応やデータを収集し、製品やサービスの効果を評価。
ラーン(Learn):収集したデータやフィードバックを元に、製品やサービスを改善。

 このサイクルを繰り返すことで、製品やサービスを持続的に改善します。

リーンスタートアップは、ラピッドプロトタイピングと似た概念ですが、違いは以下の点にあります。

ラピッドプロトタイピングは、どちらかというと、製品やサービスの具体的な設計や機能の検討に焦点を当てた方法です。

それに対して、リーンスタートアップは、新しいビジネスの立ち上げに焦点を当て、ビジネス全体の戦略やビジネスモデルを構築する方法論です。

ですが、ビジネスの現場では、口語的に、個々の製品・サービスや、施策や制度の検討に対しても、「リーンスタートアップ」という言い方をすることもあるので、あまり厳密に用語の違いにこだわらなくてもよいと思います。

温故知新 ~Back to The Basics~

以上、海外のTED動画や、書籍の紹介も交えて解説してきましたが、最後に温故知新という観点をお話しさせてください。

リーンスタートアップの原典にあたる『THE LEAN STARTUP』という書籍の中で、著者は、トヨタ生産方式(TPS)のリーンな生産方式を、スタートアップに取り入れたと述べています。(なお、TPSは米国では、Lean Production Systemと呼ばれています。)

「顧客中心のアプローチ」「継続的な改善」「仮説検証と実験」 「在庫の最小化」「無駄の削減」など、リーンスタートアップの基本的な発想は、トヨタ生産方式(TPS)から着想を得ています。

リーンスタートアップなどの、外国由来のカタカナ語のメソッドは、IT企業やスタートアップ向けの最新の理論と思われがちですが、実はその源流は日本の製造業にあったというのは、意外に思われるかもしれません。

冒頭のゴールデンサークル理論の説明で、Appleのスティーブ・ジョブスの「Back to The Basics」(基本に立ち返る)という言葉を紹介しました。DXというと、古いものを新しいものに置き換えるようなイメージがありますが、新しい理論に飛びついたり、海外のアカデミアの理論をそのまま導入するのではなく、まずは基本に立ち返ることが重要かと思います。

目的・ありたい姿を明確にし、ユーザーへの共感・理解を大切にし、既存の制度や概念の枠組みを活かしつつも、国内外を問わず新しい理論の良さも取り入れていく、いわば「温故知新」の学びの姿勢が重要なのかと思います。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後とも、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

HRDX & Co. 代表 ノノミヤ チヒロ


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