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別所さんのお話は
「今世紀最大の一大事だ」で始まり「テーブルにメモと一緒にプリンが置いてあったから」で終わります。
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今世紀最大の一大事だ
と別所さんから呼び出されたのは午前5時。
坂本組に入ったばかりの俺の今の仕事は、ガラケーを使っている別所さんの連絡係だった。
突然四国に呼び出したり、東京湾付近の倉庫に呼び出したり、かと思ったら別所さんの大好きな甘い物を手に入れるために朝から並ばされたり、相変わらず本当に人使いが荒いが、そんな連絡係の俺に「電話にでない」選択肢はなかった。
「どうしたんですか?」
「説明は後でするからとりあえずお前の家に行ってもいいか」
「え、良いですけど……どうしたんですか?」
…………
電話は早々に切られた。
あの人からしたら珍しく、結構焦っているようだった。
こんな時間に電話…今世紀最大の一大事……まさか別の組の奴に家がバレて帰れなくなったとか…?抗争に巻き込まれたとか……??

あれ……これ結構ヤバいやつなのか…
迎えに行ったほうがいいのか……?
でも場所わからないしなぁ…

どんな姿で現れるかわからない、血塗れの可能性だってある。
とにかく受け入れ態勢は万全に、別所さんを待った。

30分後、チャイムが鳴り、扉を開けた。
そこには息切れした別所さんが立っていた。
「だ、大丈夫ですか!?なんかあったんですか??今すぐ組の皆さんにLINEでもしますか??」
「いや!その必要は……ない……」
乱れた呼吸を整えながらも別所さん自身はかなり冷静だった。服に血がついていたり、破かれた後もなく、傷も見当たらない。
「え、でも今世紀最大の一大事なんですよね?なんかありましたよね?」
「とにかく……上がるぞ」
ずかずかと俺の家に入ってきた。
「水」と言われ、慌てて水を用意する。一体どこから走ってきたのだろう。
「あの…で…こんな時間にどうしたんですか…まだ6時前ですよ」
ん?
あれ…
寝てる……
壁に寄っかかりながら別所さんは眠ってしまった。

「ちょっとえぇ…別所さん…よくわからないですけど…せめて横になってください…」
と言ってはみたが起きるはずもなく、仕方なく先ほどまで寝ていた自分の布団に寝かせた。

んんん?こういう時どうすればいいんだ…?
とりあえず組に入った時から良くしてもらっている先輩にLINEで聞いてみることにした。

>お疲れ様です。朝早くに失礼いたします。
>あの、別所さんが突然俺の家にきて、特に怪我とかしてるわけじゃなく、ただ全速力で走ってきたみたいで今は寝てるんですけど…
>どうすればいいですかね、坂本さんに連絡したほうがよろしいでしょうか?

だがこのメッセージを送った直後、俺も寝てしまった。

起きると、もう10時をまわっていた。
は、別所さんは!?と布団の方を見たら、いない。
どこに行ったんだろうか。
何か連絡入っているか、スマホを見る。
と、朝方先輩に送ったLINEに返事が来ていた。

>あー、なんか覚えがあるなぁ…それ
>「今世紀最大の一大事」とか言ってなかったか?
>それ、家にゴキブリが出たって意味だから、覚えといて。
>それ以外だったら電話して

あ、これか…
先輩から一度聞いたことがあった。別所さんの家にゴキブリが出たからと、先輩の家に一時的に居候していたことを。

ふと、テーブルにメモを見つけた。
別所さんの筆跡だった。
「事務所行ってくる。午後には帰る。」
これは間違いない、俺の家に暫く居候するつもりだ。
なぜかって、テーブルにメモと一緒にプリンが置いてあったから。