見出し画像

5分でわかる子宮頸がん⑩母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象

 先日、「国立研究開発法人国立がん研究センターを中心とした研究チームは、小児がん患者2名の肺がんが、母親の子宮頸がんの移行により発症したことを明らかにした」という驚きのニュースがありました。今回はこの発表をわかりやすく解説していきます。

今回の発見に至る経緯

 国立がん研究センター中央病院では、2013年より臨床研究TOP-GEARプロジェクト(がん遺伝子パネル検査「NCCオンコパネル検査」の有用性を調べる臨床研究)を行なっています。同プロジェクトは、小児がん患者2名(肺がんを患った男児2名)について遺伝子の解析を行いました。結果、患者の肺がんには本人以外の遺伝子配列が存在していることが発覚しました。

 通常、解析によって本人以外の遺伝子が検出された場合には、検査の過程で誤って他人の細胞が混入した可能性を疑います。しかし今回の場合、小児2名の母親はともに子宮頸がんを患っていました。そこで、小児の肺がんと正常の組織、母親の子宮頸がんと正常の組織について遺伝子の比較を行いました。結果、小児2名の肺のがん細胞は母親由来の遺伝情報を持っていることが明らかになりました。

 また、男児の肺のがん細胞は、本来男性の細胞に存在するはずのY染色体がない女性の細胞であることが判明しました。更に、小児とその母親のがんの両方から、子宮頸がんの原因となる同じタイプのHPVの遺伝子が検出されました。よって、小児2名の肺がんはその母親の子宮頸がんが移行して発症したと結論づけられました。

母から子どもの肺へのがん細胞移行のメカニズム

 出産直後、子どもは泣くことで呼吸を開始します。この際、小児は羊水を吸い込みます。よって今回のケースは下図のように、

①出産時、母親の子宮頸がんのがん細胞が羊水に混じる

②子どもが生まれて泣いたときに、がん細胞を含んだ羊水を吸い込み、肺に広がる

この流れで、母親の子宮頸がんのがん細胞が子どもの肺に移行し、小児が肺がんを患ったと考えられます。

出典:「母から子供の肺へのがん細胞移行」(国立研究開発法人国立がん研究センター)

出典:「母から子供の肺へのがん細胞移行」(国立研究開発法人国立がん研究センター)

 胎盤を通る血液を通して、母親のがん細胞が子どもの臓器に移行するケースは皮膚がんなどでこれまでに発見されています。しかし今回のように、羊水を吸い込むことによる母親から子どもへのがん細胞の移行は世界で初めての報告です。

子宮頸がん予防は子どもの健康リスク低減に

 このケースでは、母親の子宮頸がんがその子どもの肺に移行したことがわかりました。つまり、子宮頸がん発症を予防すれば、“母親の子宮頸がんが子どもへ移行すること”を防止する可能性があります。子宮頸がんは罹患者本人だけでなく、その子にも健康被害が及ぶ場合があります。2年に1回の子宮頸がん検診受診がより重要なものとなってくるでしょう。

参考文献

国立研究開発法人国立がん研究センター(2021)「 母親の子宮頸がんが子どもに移行する現象を発見」https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/20210107/index.html

【この記事を書いたのは】インターン生 山口賢聖 普段はHatch Healthcare株式会社で、noteの記事作成やPR活動を担当

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?