映画を作る映画② 評判の悪い『ビューティフルドリーマー』
立て続けに観た"映画を作る映画"の2回目は、評判の悪い『ビューティフルドリーマー』です。『評判の悪いビューティフルドリーマー』というタイトルではなく『ビューティフルドリーマー』です。あったりまえですね。評判は悪いですが、モノを作る人にとっては"論点"にできるポイントが多い作品と言えます。
『ビューティフルドリーマー』の公開は2020年11月。監督は『踊る大捜査線』などでよく知られる本広克行さん。アニメ『PSYCHO-PASS』の総監督もやっているそうです。え、知りませんでした。原案は『パトレイバー』や『攻殻機動隊』などで有名な押井守さん。
タイトルと押井守さんの原案というだけで説明不要な人も少なくないと思いますが、本作は、1984年公開の劇場版アニメ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』をベースにした作品です。大好き。
『うる星やつら』自体については人それぞれ好き嫌いがあると思いますが、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は西暦3000年まで語り継がれてもおかしくないほどの名作、いわゆる"必修科目"です。そのころ日本があるかどうかは微妙ですが、世界は忘れないことでしょう。
ただ、残念ながら『うる星やつら』の原作者である高橋留美子さんはお気にめさなかったらしい、と言われています。それもあってファンのなかには「ビューティフル・ドリーマーは押井さんのもの」という認識があり、それが『うる星やつら』部分を除いて単体作品化(?)されるとあれば注目せずにはいられません。
なお、ややこしいので以下『ビューティフルドリーマー』を「実写版」または「本作」、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を「アニメ版」と表記します。
ただ正確には、実写版はアニメ版を実写化したものではありません。
ネタバレを回避しつつアニメ版の内容を短く説明すると「明日の文化祭当日に向けて準備に追われる高校生たちが、その"明日は文化祭当日だ!"を何度も繰り返すループもの」です。ループは小刻みなのでネタバレには相当せず、物語は「なぜループするのか」を求めて展開します。
それが実写版では大学での映画撮影(文化祭ではある)になっているのですが、ややこしいことに、劇中で作る映画もビューティフルドリーマー(アニメ版を実写映画化するもの)になっているのです。
このため、実写版の構造は「ホラー映画を撮るホラー映画」になっています。そして、この手の二重構造の作品によくあるように両映画の内容がシンクロする要素があります。ただし両映画の主人公(の視点)が異なることもあってうまくいってはいません。両作のネタバレ回避の都合で詳しく書きませんが、ここが重要なポイントのひとつとなります。
実写版の作品全体では、撮影しようとしている劇中劇の映画が「アニメ版の再現」にこだわりすぎて二次創作化していることが残念ポイントです。二次創作自体が悪いわけではありませんし、作品において作者がなにを推すかは作者の自由なので強く批判するものではありませんが、アニメ版を知らない人に劇中劇の概要がわかる構造にはなっておらず、またアニメ版を知っていると逆に「チョイスのおかしい名場面集」のように見えてしまうので、まーまー批判されても仕方ありません。
また本作は全体の尺が"75分"とモーレツに短いにも関わらず、アニメ版のディテール再現にかける時間が長くなっています。絵的な質を上げて「アニメ実写化の悪夢」を払拭しようとするならともかくですが、そこはそのままで、あくまでシーン再現にこだわります。
さらに"縁故"により有名人が映画撮影に参加してくれる要素があるのですが、これが多い。チート要素は『うる星やつら』にもあり、その再現を兼ねている部分もあるとは思うのでチート要素による「大物参戦」自体はあっていいのですが、ほぼ本筋に関係してこないうえに「それほどでもない」微妙さゆえに無駄になっています。
幅広い層に作品を見てもらうために他分野の有名人を連れてくる「事情」は、アニメ映画で「実写俳優が声優を務めて大不評」を繰り返してきたことでよく知られていますが、「まだそれやるんだ?」という感じ。若い人にはわからない言い方で申し訳ないけど、作品をオモチャにする「昭和のフジテレビ感」全開でおじさんはつらいよです。
なお本作は『Cinema Lab』というレーベルで制作されていますが、このレーベルは、"監督の作家性を最大限に活かす「監督絶対主義」"を標榜しています。いやいや、あふん(変な声でちゃう)そこまでいうなら業界のお約束はやめましょうよ。それとも「昭和のフジテレビ感」は作家性だったんでしょうか。
また「監督絶対主義」という言葉もヤバすぎです。もう語彙が足りなくなってきました。
そもそも映画業界は監督の過剰な権力(忖度含む)で横暴がまかりとおることで知られている世界。遅れてやってきた #MeToo 運動で日本映画界の性暴力発覚が相次いでいるほどです。
これが才覚ある無名の新人監督に「好きに撮れ!」と言ったり、「サッカーチームの監督に映画を撮らせてみるぞ、文句言うな!」とかならその挑戦は"一見の価値あり"ですが、本広さんのような実績のあるベテラン監督をあてがっておいて何を言っているのだキミは夢を見ているのかああこれがビューティフルドリーマーの真実……なんてオチはないですよねだってビューティフルじゃないもん(キレすぎ)。
落ちないのでもう少しだけ続けますが、あまり注目されないポイントとして本作は「いかにも演技」的な台詞ではなく、ドキュメンタリー風(例えば是枝裕和監督作品のような)のナチュラル会話で物語が進みます。大体。
大体ではなく全体がそのつもりで作られているのかもしれませんが、映画研究会の仲間のナチュラル会話に「やる気なさ」がよく現れている以外は、作品自体がナチュラルではないためナチュラル感は出ず、終盤に行くに従ってそれは顕著になります。単にうまくいっていないとも言えます。
なお映画を作る映画として今回取り上げる3作品のうち、もっともやる気がないのが本作です。
本作の劇中劇「夢見る人」は様々なトラブルに見舞われて「完成させられない呪いの脚本」という位置づけで登場しますが、どう見ても「やる気のなさ」が最大の原因です。これはアニメ版における主人公たちのやる気のなさを反映してしまっていることが原因と思われ、根本的な設計上のミスとしか言いようがありません。
なお3作品のうちで一番真剣味があるのは『劇場版SHIROBAKO』で、商業映画を作る話なので当然ですが、次回取り上げる『サマーフィルムにのって』もまったく劣りません。傑作です。
(つづく)
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