見出し画像

『エクレアと人間風車』 第二回  ビリー・ライレー・ジムの仲間たち

この記事は無料です。

来る1月19日より日貿出版社より『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』を上梓する現役プロレスラーの鈴木秀樹さん。鈴木さんは“人間風車”の異名を持つ、名レスラー・ビルロビンソン氏より、キャッチ アズ キャッチ キャン(以下、CACC)と呼ばれる、プロレスの源流ともいえるレスリングを学び、現在フリーのレスラーとして、様々な団体で活躍しています。

そこでコ2【kotsu】では、『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』の出版記念集中連載として、鈴木さんにビル・ロビンソン氏とCACCについてお話しを伺いました。

第二回目の今回は、ロビンソン氏やゴッチ氏が「すごかった」というビリー・ジョイスのお話です。

『エクレアと人間風車』

第二回  ビリー・ライレー・ジムの仲間たち

語り●鈴木秀樹

構成●コ2【kotsu】編集部

名人・ビリー・ジョイス

ロビンソンの先輩にビリー・ジョイスというすごい強かった人がいるんです。その人は最初、お兄さんにレスリングを習っていたんですけどずーっとダメで、ある時から急にうまくなったらしいんですよ。

その「ある時」ってなんなのかわからないんですけど、モノになるまでに時間がかかる時もあるそうなんですよね。

ビリー・ジョイスにはカール・ゴッチもロビンソンも全然勝てなかったそうですよ。腕力があるわけでもなくてヒョロヒョロで。写真を見ても普通のおじさんという感じ。でも、誰も敵わなくてあっという間に上を取られてやられたそうです。自分が押すと引かれて倒されるし、逆に引くとすーっと入ってこられてテイクダウンを取られちゃう。どうやってやられたかわからないくらい、早くやられたっていいますよね。だからスピードが速いわけではないと思うんですよね。自分の引き手とビリー・ジョイスの入ってくるスピードの二つがあわさっているから、すごく速く感じたんでしょう。

ビリー・ジョイス(http://snakepitusa.com/about-us/legends/) より

ロビンソンはよく言ってました。「ビリー・ジョイスは本当にすごかった」と。「どんな時も構えを崩さず、ステップですーっと入っていく」と。これはは今CACCで練習することと同じです。おそらくビリー・ジョイスはそういうのがすごかったんだと思いますよ。でもビリー・ジョイスに関して関節技がすごかった、という話は聞かないんです。「とにかく2時間、誰とやっても疲れないくらいリラックスしていた」と。それと「こちらから引けばすごいスピードで入ってこられたり、押せばそのまま引き倒されたと。あれは天才だったと、美しかった」と言ってましたね。ロビンソンって滅多に人を認めない人なのに、そうやって素直に言うくらいだから本当にすごかったんだろうな、と思いますよ。

カール・ゴッチもそういうインタビューを残してるんですよね。だからカール・ゴッチは日本のマスコミに「プロレスの神様」と持ち上げられてるけど、そうじゃないよ、と。ロビンソンはゴッチがビリー・ジョイスにやられてるの見てるわけですから。でも別にゴッチの悪口を言っているわけじゃないんです。上には上がいるよ、ということを言いたかっただけですね。

ロビンソンは1967年にブリティッシュヘビー級のベルトをビリー・ジョイスから奪取しています。でもずいぶん歳の差があったから、「本当に勝てたのかどうかわからない」と言ってました。よほど強いと思ってたみたいですね。ビリー・ジョイスのことを。当時、ビリー・ジョイスは技術も経験もあったんですけど50代だったんです。それも今みたいなちゃんとしたコンディショントレーニングがない時代ですから。30歳にもなれば引退を考える時期の話です。(※編注 ビリー・ジョイス1916年生まれ、ビル・ロビンソン1938年生まれ)

ビリー・ジョイスはビル・ロビンソンの招きで来日して国際プロレスの試合に出ています。何試合かやったんですけど、全然ダメだったそうです。彼は家族が大好きな人でイギリスからヨーロッパに遠征するのも嫌がったそうなんです。だから日本に来たら大変なホームシックで、体調も崩しちゃったんですよね。自分のちっちゃい町の中で暮らしているのが好きだったそうです。ビリー・ジョイスの動画はずっと探してるんですけど、いまだ見つかりません。国際プロレスの映像とかあってもよさそうなものなんですけどね。一度観てみたいです。

ロビンソンはカール・ゴッチ(1924年生)やルー・テーズ(1916年生)と比べるとかなり年下なので、本来ならライバル関係にならないはずなんです。でもデビューが速かったんですよね。だからゴッチとかとライバル的に比較されるんです。デビューした頃は地元の新聞に若手のホープみたいな書かれ方したらしいですよ。


老いてもなお強し・ダニー・ホッジ

あと同世代のレスラーとしては、U.W.Fスネークピットジャパンの練習生だった時に、ダニー・ホッジが来たことがありました。

当時のロビンソンは足が悪くて杖をついて歩いていたので、レッグダイブ(足へのタックル)などの見本が見せられなかったんですよ。だから、ダニー・ホッジには、自分の足をうまく使う技術を教えてくれとリクエストしてました。それで足で締め付ける技とか色々と教えてくれたんです。

セミナーの他にダニー・ホッジとロビンソンのトークショーもおこなわれました。スネークピットジャパンにあるリングで、ロビンソンとダニー・ホッジに軽く組んでもらったんですよね。そしたら二人とも熱くなっちゃって(笑)。ロビンソンも動くんですよ。膝が悪いのに。あれはびっくりしましたね。みんな慌ててましたけど、主催者の宮戸優光さんは一人で感動してました(笑)。

二人とも60代とか70代のよいおじいちゃんなんですけど、ファイティングスピリットは衰えないんだなと思いましたね。その時、僕もダニー・ホッジと握手したんですけど、思い切り握りこんでみたんです。するとダニー・ホッジは全く動じずに「そんなに強く握ったらダメだよ」と言いながらぐっと軽く握り返してきたんです。その途端「痛ってー!」と悲鳴をあげましたよ。まるで機械に潰される感じ。ものすごく痛かったです。脚も強かったですよ。脚で抑えこまれた時なんて太くて重い金属の棒みたいでしたから。まるで動かせる気なんてしなかったですね(笑)。

ロビンソンもそうですが、あの世代の人たちは骨が太いし力が強い。それで手首が太いんですよね。特にロビンソンは「ビッグリスト」と言われて有名で。特に手首が太かったんです。「しっかり掴め」と言われても、掴めないんです。太すぎて指が回らないんですよ。それじゃしっかり掴みようがないでしょう(笑)

(第二回 了)

『キャッチ アズ キャッチ キャン入門』

鈴木秀樹さんの初の著書『ビル・ロビンソン伝 キャッチ アズ キャッチ キャン入門』が、現在、全国書店、Amazonで発売中です。

著者●鈴木 秀樹(Hideki Suzuki)

すずき・ひでき/本名同じ。1980年2月28日生まれ、北海道北広島市出身。生まれつき右目が見えないというハンディを抱えていたが、小学生時代は柔道を学ぶ。中学時代にテレビで見ていたプロレス中継で武藤敬司に魅了され、プロレスの虜になる。専門学校卒業後、上京。東京・中野郵便局に勤務。2004年よりUWFスネークピットジャパンに通うようになり、恩師ビル・ロビンソンに出会う。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンを学び、2008年11月24日、アントニオ猪木率いるIGF愛知県体育館大会の金原弘光戦でデビュー。2014年よりフリーに転向。ZERO1やWRESTLE-1、大日本プロレスなどを中心に活躍。191センチ、115キロ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?