見出し画像

何の取り柄もないのだが、たなぼたのようなことが起きて何とかうまく生きている人間もいるから人生は不思議だ。そんな人間の特徴はやさしさかな。

今年、72歳になったヨッサンはゴールデンウイーク目前に、
新築の一戸建てをゲットした。
でも、このヨッサンは、財産家ではない。
また、年だから住宅ローンなんて、銀行が許さない。
ホソボソと年金で暮らしている老人で、
若い頃から飲んだくれだったせいか、
貯金もほとんどないし、要介護認定2だから、
ほとんど寝たきりで、息子も娘もいるにいるが、
わがまま勝手なヨッサンに愛想つかして、
とうの昔に独立してしまった。
なのに、ヨッサンは、不動産屋さんから
キャッシュで一戸建ての家を買ったのだ。

ええ、どうして?
ヨッサンは、ヨッサンのお母さんの遺産のおかげで
もともと一戸建てに住んではいたが、それが
もうボロボロで、建て替えるお金もないので
困り果てていた。水道をひねれば水は飛び出すし、
風呂を沸かそうとしても火は付かない、
雨漏りはするし、昼間でも夕方のように日当たりは悪い。

でも、半分ボケているけれど、
きれいな家に住みたい欲望だけは強いヨッサンは、
名案?を思いついた。
「この家を売って、その売ったお金で、
家を建てよう。少しくらい狭くなっても新しい方がいい。
家が新しくなったら、息子たちも時々来てくれるかも」
そう考えたヨッサンは日本一の不動産会社に頼んで
古い家を売ってもらうことにした。
しかし、待てども待てども家は売れない。
この不況下、こんなボロ家が売れるわけない!
困ったヨッサンであったが、何故か、この人の人生には
棚ぼたが多い。18歳の時はアルバイトで貯金局、
22歳の時は国鉄の運転手、23歳からは配電会社と
つねに棚ぼたでお気楽な仕事を見つけてきた。
嫁さんのユキサンだって10歳も年下で、
お母さんに段取りしてもらったのだ。
そんな棚ぼた人生の王道を歩むヨッサンは、
もう半分棺桶に足を突っ込んでいるくせに
まだ、この人には棚ぼたがあったのだ。
昼間から寝ているヨッサンの所に、
お隣の紳士と淑女が
息子さんといっしょにやってきた
「お願いがあるのですが、
この家を売って頂けませんでしょうか。
私どもも年ですし、息子たちと
いっしょに住みたいのです」
お隣さんは、ヨッサンの家を改築して、
息子さんたちを住ませるつもりなのだ。
願ってもない話に喜び勇みたくても、
半分ボケているヨッサンは
ウーウーと唸った。
答えはオーケーに決まっているのだが、
答えが言い出せないのだ。
そんなヨッサンの態度にお隣の紳士さんは
「そうですね・・・大切なお宅ですからね」
と言った。紳士さんは、ヨッサンが家を売りたくない
と思ったのだろう。
ここぞと言う時のフェイントは駆け引きを有利に運ぶ。

その日は、そのまま退散したお隣さんだが、
どうしても息子さんと地続きに住みたいのか、
何度もヨッサンに会いに来るようになった。
おかげで、4月初めにめでたく売買成立した。
ヨッサンが半分ボケているのが幸いしてか?
相場よりも高値で古い家を売った。その上、
たまたま、時期を同じくして30メートル!斜め向かいの
古いマンションがとり壊された。
そこに間が良いことに、どこかの建設会社が
家を建て始めたのだ。つまり新築だ。
しかも、バリアフリー
(階段手すり付き、風呂も段差がない)だ。
おまけに、日当たりの良い。不況のせいか、
その家の買い手がなくて建設会社は困っていた。
かくして、ヨッサンは、なかなかの安値で
すぐ近くに新築一戸建てを手に入れたのだった。

もう、棚から落ちてきたぼた餅に
埋まってしまいそうなヨッサンなのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?