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プレスリーよ永遠に

かなり有名な霊媒師の厚子は、最近、テレビに出た。
「霊をあの世から呼んで頂けるのですね」
と司会者からニコヤカに紹介された厚子は、得意になって
「まあ、そんなところです」
と少し得意になって答えてしまった。
そこで、司会者は、会場に来ている男女に、
「あの世から、誰を呼んでほしいですか?」
と聞いて回った。すると、プレスリーを呼んで欲しいという中年女性がいた。
司会者は、
「プレスリーを呼ぶとなると、通訳が必要ですね。こんなこともあろうと
呼んでおいたのです」
なんと、バイリンガル美人通訳が現れた。さて、厚子は、心配になった。今ま
で、外国人を、あの世から呼んだことなど一度もないのだ。そんな心配をよそ
に、会場は暗くなった。
…しかたない呼ぶとするか…
厚子は、瞑想に入った。半分眠ったような気分になった厚子は、土管のような
トンネルを抜けて霊界に入った。プレスリーの霊は、待っていた。
彼は両手を広げた。何の為に行くのか分からないというジェスチャーだった。
気の進まない彼を無理に連れて行くのは可哀想に思った厚子は、ありのままに
話した。すると、会場に集まった男女は、
「霊を呼べるなんて嘘だろう」
とブーイングの嵐になった。
こんな状況で司会者は困り果て、通訳はフンと軽蔑の怒りを露わにして去って
行った。テレビ局は、なんとか、コマーシャルを入れて誤魔化したが、厚子は、
大恥をかいてしまった。
厚子が、しょんぼりして、家に帰ると、
「お母さん、日本人の誰かにしてもらえば良かったのに」
と高校生の娘まで、厚子の霊媒師としての能力に疑いの眼差しだ。
ますます落ち込んだ厚子が部屋に入ると、周りの空間が揺れてた。
揺れた空間の向こうには、プレスリーがいた。
プレスリーは、ニッコリ笑って、申し訳ないとジェスチャーした。
厚子は、
「出る出ないは、あなたの自由よ。あなたは、神様になったんだもの」
と優しく微笑んだ。厚子は、どんな霊に対しても、優しく接するのだ。
そんな厚子に、プレスリーは、ひと差し指を一本立てた。
…何をするのかな…
と思っている厚子に、プレスリーは、かつてのヒット曲ハートブレイクホテル
を厚子だけの為に熱唱した。その音量は、家中が振動するほどだったので、
厚子の娘もビックリして、部屋に飛び込んできた。
「お母さん、今、音楽聞いてなかった」
「うん、プレスリーが来てくれてね」
開いた口が塞がらない娘をニコニコしながら見つめる厚子に、軽く手を振りな
がらプレスリーはあの世に帰って行った。

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