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真面目な人ほど、恋愛にハマるとやばいことになる、財産を全部失ってしまう人も結構いる。ご老人となると、ますます歯止めが効かなくなる。恋愛と運転免許は似ている。早めに自主返納すべきである。わ

年とって遊び始めた真面目人間ほど
怖い者はない。康郎は、60歳まで
1日も休まずに仕事一筋で、
浮気もせず、賭事もせず、タバコも
酒もやらない。女房と二人の子供を
一人前に育てたい一心で頑張った。
「いったい何を楽しみに生きてるのか?」
「あんたは仙人じゃないのか!?」
と仲間に皮肉を言われるほどの超真面目人間だった。
 そんな康郎が長年勤め上げた会社を定年退職してから
おかしくなった。暇を持て余した康郎が
フラフラと散歩していると、年齢なら17か18くらいの
ピンクのミニスカートをはいた
亜由美がジュースの自動販売機の前でしゃがんでいる。
たぶん、100円玉を落としたのだろう。スカートを
気にしながらだから、自動販売機の下に転がった100円玉
を拾い難そうである。
親切心で康郎は近づいた。
「お嬢さんや、わしが拾ってやるから」
と言うと康郎は地べたに這いつくばって
100円玉を拾ってやった。
「おじさん、ありがとう」
と若い亜由美の輝くような笑顔が康郎には
たまらなく眩しかった。100円玉を手渡すときに触れた
彼女の手のフワフワ感には、しびれてしまった。
それだけなら良かったのだが、康郎は起きあがると同時に
腰を痛めたらしく
「痛い、痛い」
と言って倒れてしまった。
さて、縁とは、運命とは、人生の分かれ目とは、
道ばたの自動販売機のあたりに転がっているものである。
康郎は亜由美の肩を借りて、
そのまま近くの外科病院に行くことになった。
腰の痛みは、すぐに治った。病は気からである。
「こづかいが欲しかったら、いつでも電話しておいで」
康郎は亜由美の若さの虜になってしまった。
亜由美も、アルバイト辞めたところで
お小遣い欲しさに康郎と毎日のように会うようになった。
「いいアルバイト見つけた」
亜由美は、友達にそう話していたらしい。
1ヶ月も過ぎたころには、康郎と亜由美は互いのスマホに
1時間おかずにメッセージを送りあう仲になってしまった。
若い亜由美が送るのは、どうってことないが、
60を過ぎた康郎が、老眼鏡をかけてスマホと一生懸命に
にらめっこしている姿は、なんとも意地らしいではないか。
そればかりか、康郎は、毎日のように美容院に出かけて
白髪まじりの頭を茶髪に染めたり、
パーマをかけたりはじめた。
「男は男らしく」
と息子たちには耳にタコができるくらい言っていたのに
耳にはピアスをつけた。
持病の鼻炎の具合がよい日には
鼻にもピアスをつける始末だった。
 こんな調子でも、
「40年以上一生懸命働いてきたんだから」
と、たいていのことは目をつぶっていた康郎の奥さんも息子たちも、
「お父さん、昼間からそれだけは辞めてくれ」
と涙ながらに止めに入ったことがあった。
こともあろうことか、亜由美の友達や後輩の
ミニスカートで髪を染めて顔を黒くした女の子たちと
ビジュアル系ロックバンドのコンサートに行くようになった。
康郎は黒や青や赤でギンギラギンにメイクして、
隣近所の話題の中心になってしまったからだ。

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