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ゆうやけがきれい。震災の義捐金の申請に来ない人には文盲と呼ばれる人たちがいます。

日本にも文字の読めない人が
100万人いるといわれています。
幸か不幸か私は字の読めない人に
会ったことはありませんでした。
 
大震災後、被災者には義捐金が
支払われることになりました。
役所には多くの被災者が集まりました。
その中に申請窓口の前の列に
並ぼうか並ぶまいかモジモジと
している60歳くらいの
おばちゃんがいました。
市内に住んでいる親戚の申請に
付き添って来ていた私の方に
おばちゃんが近寄ってきました。
「あの・・・ごめんなさい
わたし・・自分の名前は書けるんですけど
住所が書けないんですよ・・
教えてくれますか?」
「はい・・・どこですか。お住まいは?」
(この人、字が書けへんのや・・・)
申請書に、おばちゃんの住所を
代筆しました。
「ありがとう・・・先生」
「先生なんて、たいそうなこと言わんどいて下さい」
おばちゃんは窓口の前の列に加わりました。
しばらくして、帰ろうとしていた私たちの背中を
叩く人がいました。振り返ると、
先程のおばちゃんです。
「あの、先生。おかげで申請できました。
なんとか生きていける。
ありがとう」
「そんなたいそうなこと・・・それに
僕は先生やないし」
役所にも初めて来たらしく
道も分からないそうなので、
バス停まで一緒に行きました。
「ありがとう。先生やなくて、えっと・・・
あんたさんにも、もう二度と会えへんやろ。
もう、ひとつ、字を教えてくれへんか」
「いいですよ」
「”夕焼けがきれい”って
どうやって書くんや?」
メモになるべく丁寧に大きく書いて、
おばちゃんに手渡しました。
「わたしの住んでる住宅から
”夕焼けがきれい”で
いつも、思うやけど・・・
口には出せるんやけど・・・
書けへん・・・あんた、やっぱし先生や。
ありがとう。ありがとう・・・・・」
おばちゃんは涙をポロポロ流して
何度も何度も頭を下げました。
 
震災の義捐金の申請に来ない人、
その多くは文盲と呼ばれる人たちです。
 

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