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【資格】貸金業務取扱主任者 その3 公務員が取得する意味はあるか

この資格は自治体にとって必置資格という訳ではない。なので有資格者だからといって採用上有利になるとは限らない。では、公務員がこの資格を取得するとどんな意味があるか。この点を少し考えてみよう。


1 効果(1) 民事法(債権管理法)の概観

まずは債権回収を中心とした民事法全般に及ぶ知識を俯瞰できるようになることだと思う。債権のライフサイクルは、おおむね以下だ。

  • 発生と弁済期の到来(民法などの実体法)

  • 弁済がない場合・・・債務名義の獲得(民訴法、民執法など)

  • 債務名義に従い強制執行(動産・不動産・債権など。民執法)→満足

  • または破産その他法的整理

この試験は、このサイクルを肉付けをしながら学ぶことができる。実体法に「支払いや損害賠償を請求できる」とある場合に、どんな方法で請求するのか。債務名義とは何なのか。判決を得るための訴訟の他に、支払督促や公正証書、和解とは何なのか。どのような手続が必要なのか。債務名義というお墨付きを得たら、次はどうすればいいのか。弁済(満足)以外に、どんなときに債権は回収できなくなるか。こういう債権回収の基礎を整理できるのは強みになる。自治体の債権回収といえば「税」が思い浮かぶかも知れないが、他にも公営住宅の家賃や水道料金、奨学金、給食費などがある。これらはこの資格で学ぶような民事法(私法)の手続を踏まなけば回収できない。このことから、自治体職員はこれら債権を「私債権」と呼ぶ。自治体の職員は税の徴収実務には強くても、私債権の回収には弱い傾向があると思う。この意味で、貸金業務取扱主任者の取得を通じて民事法の体系を外観できるのは大きな意味がある。

また、民事法の常識を身につけることも重要だ。私債権の強制執行のために債務名義が必要なのは無論だが、財産の在り処がわからないときは財産開示手続をとる。こういう理解のないまま「税の感覚」で債権回収を行おうとすると、軽い気持ちで税務課の職員の財産情報を訊いてしまうかもしれない。これはアウトだ。

2 効果(2) 民間の感度・ルールを知ることができる。

貸金業法は自治体に適用されないと言った。が、同法の考え方を知っておいて損はない。

1)総量規制

貸金業法には「総量規制」というルールがある。ざっくり言うと、「返済期間内に完済することが合理的に見込めない貸付を禁止」し、その額を「年収の1/3」としている(10条の21)。ここで「自治体には貸金業法の適用ないから関係ないよね」と単純に考えてはならない。

たしかに、自治体は貸金業ではなく、利益を追求する訳でもない。むしろ福祉・政策的な見地に立って低所得な方に融資することもある。しかし、貸金業法の総量規制の背景には、「年収の1/3を超えたら期間内に返済できない」という根拠がある点を見逃してはならない。「民間の債権は年収の1/3を超えたら返済できないが、公金なら返済できる」というものではないだろう(利率の話は別にして)。つまり、年収の1/3を超える額を自治体が貸し付けるという場合は、「公金を貸付け、しかも合理的期間内に返済されないかもしれない」という認識が必要だということではないか。更に言葉を変えるなら、その貸付の根拠制度には、「帰ってこないかも知れない融資をする」という事実を支える合理性が必要だ。この資格まわりの知識は、こういったことを考える契機になる。

2)業界ルール

この試験は貸金業法の業界ルールを学ぶ訳だ。例えば貸金業法21条1項や貸金業者向けの総合的な監督指針は、「午後9時から午前8時まで」に電話催告や訪問してはならないとしている。この時間の債務者へのアプローチは望ましくないということだ。民間が電話するのは望ましくないが、市役所ならよいか。否だろう。昔、ナイター中継があった頃は、「巨人ファンの家には巨人が敗けていたら行かない。怒鳴られるから」みたいな笑い話があったが、貸金業法のルールに照らせば、そもそも9時ちょっと前には訪問すべきではない時代になったのだ。控えるべきは控えるのがよろしいだろう。

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