交通事故の日②

 病院のベッドに移されて、ガラガラと廊下を移動して、レントゲンとCTスキャンを取った。どちらもベッドから診察台に移ってその後ベッドに戻らなければならないのが痛くて辛い。

 最初に運ばれた、部屋とか処置室というより仕切りのある、多目的スペースのようなところに戻ってきた。出入りがしやすいように広いスペースをカーテンや仕切りで区切ってある感じだ。看護師さんが来て、綿棒で鼻の奥をこすってまたどこかに行ってしまった。ああ、コロナね。そもそも帰国時陰性で、一人暮らし自主隔離のすぐ後なので、コロナに感染しているとは思えなかったが、これでもし感染していた場合どうなるんだろうか。

 担当になる医師がやってきて少し話した。月曜に手術とのこと。一刻を争うような状態ではないので平日になるまで待ってねということだろう。骨折の様子から相当な衝撃だったはずだ、と言われた。

 また看護師さんが来て、顔を拭いてくれた、傷があるらしく染みたし擦られると痛かったが、自分の顔は見えないし、どんな様子かをその時は考える余裕もなかった。ずっと仰向けでだんだん腰が痛くなってきた。心配だなあ。

 別の医師が来た。折れた脚を手術の時まで「牽引」するとのこと。普段は骨があるので筋肉は伸ばされているが、骨折して骨が正しい位置からずれてしまうと、筋肉はどんどん縮んでしまい、放っておくと手術の時にももう元にもどせない。それを防ぐため、手術の時まで、骨を正しい位置にして筋肉を伸ばしておかなければならない。処置としては、膝に穴を開けてワイヤーを通し、ワイヤーの先に錘をつけて脚を引っ張っておくのだそうだ。骨折だけでなく膝にも穴が開くってわけだ。

 医師がドリルと錘(6.5kgと言っていたか)を看護師に言って掛けて取り寄せる。膝の骨に穴を開けてワイヤーを通す、というのはかなりぎょっとしたが、病院でやることなので、大丈夫なのだろう。いずれにせよ今の私に選択肢はない(この後ずっとそればっかり)。膝には麻酔をかけたようで痛みはなかった。ドリルの音が聞こえる、ドゥルル、ドゥルル、ドゥルルルル。しばらくすると医師が、ドリルの電池がなくなりそうなので、もう一台のドリルを持ってくるようにと看護師に指示した。しばらくすると看護師が戻ってきて、もう一台は今手術室にあって、取りに入れない、と言う。それ、どうするの膝?やりかけでその手術室に入れるようになるまでこのまま待たされる?医師は手元のドリルで続ける事に決めて、幸い穴が貫通したらしい。焦げた臭いがする。

 それから(ドリルの前だったかもしれないが順序としては穴をあけておいてから足を引く方が理にかなっている気がする)脚を引っ張って骨の位置を直した。悶絶…ごく短時間だったはずだが、心の中で、「はやく終わって」とずっと叫んでいた。痛みを堪えるために、手すりと、歯を食いしばるタオルが欲しかった。手のひらをベッドに開いて押し付けるのが精一杯だ。後から思い出しても、牽引処置と牽引されていた足掛け3日間は入院中で最悪とは言わないが、3番目には入る辛さだった。
  検査と処置が終わって夕方、病室に入った。


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