タイポグラフィ年鑑入選までご縁があった仕事を振り返る話。
久しぶりの投稿です。
前回は「妻が自分の手書きフォントを作った」という記事を書きましたが、今回は私自身のお話で、半分くらいは自分の今の気持ちを記録しておくための覚書です。
この度「タイポグラフィ年鑑(※)2023」に自分が制作したロゴデザインが2点入選しました。尊敬する方々の仕事が記録されているこの歴史ある書籍に、自分のデザインが入選したということはとても光栄なことです。
またひとつの節目のようにも感じ、一度ここで立ち止まって今の自分を形作ってくれた人とロゴデザインの仕事について振り返ってみようと思いました。
今までを辿る記録として残せればと思います。
はじめに、私について
自分は大阪のWeb制作会社に勤めるWebデザイナーです。
普段はWebサイト制作、アプリUIデザイン、グラフィックデザイン、動画編集などの制作業務をしています。その中で一番面白いと感じていたことがロゴデザイン・レタリングデザインの分野でした。
0.01mm太さが変わるだけで印象がガラリと変わり、ミクロからマクロ、マクロからミクロにパスを緻密に描いていくこと。あらゆる方向のアイデアを出しきり、限られたエリアの中でデザインの最適解を創り出す。
宝石を探り当てるようなその作業に魅了され、私は独自にロゴ・文字デザインの勉強をし始めました。
影響を受けた人
デザイナー アートディレクター/西長正輝さん
https://twitter.com/n_masateru
Webデザインからこの業界に入った身としてデザインに対する姿勢、クライアントへのプレゼン対応など、制作時の大事なことは当時の上司であった西長さんに教わりました。
UI設計時のユーザーファーストの考え方、枠にとらわれない表現方法、一見自由に見えるデザインには制作物ごとに必ず正解が存在する事。
よくある一般企業のサイトしか知らなかった私にとって日本国外でも評価される西長さんのWebデザインは衝撃で、頭がかち割れるような感覚でした。
西長さんは現在独立され、NOT4Hのメンバー、Havvvnaとしてご活躍されています。
独立後の実績を拝見する度にすごい方と一緒に仕事していたんだなと日々実感しています。
西長さん、長年教えていただき本当にありがとうございました。
グラフィックデザイナー/大島依提亜さん
https://twitter.com/oshimaidea
昔から映画が好きでよくパンフレットやチラシを集めていましたが、その中でも際立って制作物が素晴らしいと思っていたのが大島依提亜さんのグラフィック・ブックデザインです。
大島さんは普通のポスターや物販冊子という枠だけにはとらわれず、物語から掬い上げた要素をもとに手に取れる形としてデザインされています。
映画のポスター制作は自分のデザインの出発点でもあるので、映画グラフィックの最前線で活躍されている大島さんのお仕事はいつも勉強になっています。
大島さんの劇場パンフレットデザインを特集したZINE
ロゴデザイナー/さとうコージィさん
https://twitter.com/cosydesign
ロゴデザイン・タイポグラフィを学ぶ上でまず出会ったのはロゴデザイナー界の師匠的存在、さとうコージィさんです。
ヒアリングから情報をつかまえること、メリハリある形にすること、その表現はPC画面に限らず無限大であること、ロゴデザインを作る上での大事な基礎はさとうさんから学びました。
SNSの日々の発信で、今なお真髄を捉えようとするさとうさんの姿勢には尊敬の念しかありません。私自身もTwitterとinstagramでの発信を始めたのは、さとうさんがきっかけです。
SNSから様々なロゴデザイナー、タイプデザイナーさんの作品を知るようになりました。
さとうさんが著者で参加されている『ロゴデザインの現場』は私が最初に買ったロゴデザインの書籍です。
グラフィックデザイナー / ロゴデザイナー / かねこあみさん
https://twitter.com/ami5x10_k
いわゆる作字と呼ばれるジャンルに出会ったのはこの時SNSで発信されていたかねこあみさんの作品でした。
かねこさんの作品のひとつであった「鬱」文字に込められた情報量と存在感、こんな文字を一体どうやって作っているのかと圧倒されたことを覚えています。そしてどの実績もとても可愛いです。
誰にも真似出来ない唯一の文字を作られてる方と思っています。
かねこさんの文字デザインのように一眼見て素敵だと思える文字を作れることが出来たらと、私も自主制作を始めました。
『作字百景』『作字作法』にはかねこさんの作品、インタビューが載っています。
Webデザイナー/グラフィックデザイナー/ロゴデザイナー/せんざきさん
https://twitter.com/senzaki_d/
また同じく作字をされているせんざきさん。
365日の1年間クリエイティブを達成した企画には驚きしかありませんでした。
Twitter、instagramでの制作物の発信だけでなく、noteではデザインについて理論立て、それを言語化しアウトプットを継続する。
しっかり自身の軌跡を残して進んでいく姿から、私もクオリティを維持し継続することの意義を考えるようになりました。
せんざきさんの毎日クリエイティブの熱はSNSを伝播し、今の文字デザインの盛り上がりを作られたと思っています。
グラフィックデザイナー / アンドウ ヨウスケさん
https://www.behance.net/yosando
劇場パンフレットや映画のグラフィックに日々触れていると、配信サイトの映画タイトルロゴデザインは一体誰がデザインされているのか気になっていました。
そんな時にアンドウ ヨウスケさんのお仕事を拝見しました。
アンドウさんはNetflixや劇場公開洋画の日本語ローカライズタイトルロゴデザインを担当されている方のひとりです。
日本語タイトルのローカライズは、分析→分解→再構築の緻密な構成で制作されたものです。アンドウさんのお仕事は一貫して元国版の雰囲気を一切崩さずに、日本語の良さを取り入れながらも独自性の強い文字になっています。
一度映画タイトルに憧れて自主制作で何日もかけて作ったことがありましたが、後に制作されたNetflix版のタイトルとはあまりにも差があり落ち込んだことを覚えています。
私もいつかアンドウさんのようなタイトルロゴが作れるようになりたいと思っています。
グラフィックデザイナー / iyo yamauraさん
https://twitter.com/iyo_yamaura
洋画に限らず邦画のデザインも素敵なものばかりです。私が映画から手に取る形、目に映るデザインが気になってしまうのは、同じ映画を見たファンとしてデザイナーがどれだけこの物語が好きかどうかを感じ取れるからです。
邦画デザインの中でも、Iyo Yamauraさんのデザインは一見穏やかに見えるけれども他とは違う特徴をタイトルロゴやグラフィックデザインに取り入れられています。
ほんの少しだけの特徴、だけれども他には決してないもの。
ひっそりと、でも力強く感じ取れるその配慮は私の目指す方向性に近く、敬愛すべきデザインだと思っています。
当時自分の制作するものはイラレをちょっと触ったことのある人がやるSNSでの遊びぐらいでしかなかったと思います。
クライアントの意見を汲み取り、志し高く自身の仕事を全うする人のデザインには到底追いつかないことも分かっていました。
ただその先人が歩んだ道を少しでも進めるように、またお客様にとって良いと思ってもらえるデザインの仕事ができる引き出しを増やせるように、細々と継続と発信を続けました。
節目になった仕事
ドラマのお仕事
ひとつの転機はSNSからでした。
私の投稿をみた日本テレビのディレクターの方からDMがあり、Huluで配信するオリジナルショートドラマのロゴとOPアニメーション、EDアニメーションを制作して欲しいというご依頼を頂きました。
この時はAfter Efectでアニメーションを試して制作していました。その発信を見ていただいたことからご依頼に繋がりました。
テレビ局からの依頼は細々と作っていた私にとってはあまりに大きすぎるものでした。一人では抱えきれないと感じ上司に相談することに。そこから個人としてではなく会社の案件として無事にご縁に繋がりました。
無茶な相談を快く聞いていただき、その後のクライアントとの打ち合わせにも同席してくださり、制作にもアドバイスをくださった西長さんに改めて感謝をお伝えします。
ロゴ制作からのアニメーションの提案、全てが手探りでしたが無事納品も完了し、会社の実績として繋げられたことはなりよりでした。
第1話配信当日、エンドクレジットに自分の名前が載った画面を見た時は本当に嬉しかったです。
『恋、ランドリー。』はHuluにて全話配信中です。
神戸のデザイン施設のお仕事
ぼちぼちとSNSで発信を続ける中で、デザイン・クリエイティブセンターKIITOさまのイベント企画の文字ロゴデザイン、チラシデザインの依頼をいただきました。
KIITOさまは私の地元、神戸にあるデザイン拠点施設。デザインを人々の生活に採り入れ、より豊かに生きることを提案し、「デザイン都市・神戸」を発信するクリエイターにとって代表的な施設です。
1年通してデザインやアートにまつわるイベントなどを開催している地元の施設に自分のデザインが貢献できることは思ってもないことで、二つ返事でお引き受けしました。
今回のデザインはメインタイトル1種、サブタイトル2種のデザインを制作しました。
言葉そのもの形をデザインしている私とって、人に伝える、伝わることとはどういうことなのかを考えさせられるとても素敵なイベントでした。
今回はチラシではイラストを採用することになり、その制作に快く協力していただいた友人、uca_uさんに感謝します。
Director / Designer / Illustrator Uca Uさん
https://www.instagram.com/uca97_illust/
トークショーは2日間とも大盛況でした。会場に「このチラシを図書館で見かけて参加を申し込みました。」とおっしゃった方がいたことはずっと覚えています。
海外からのお仕事
ゆっくりのんびりと発信を続ける中でinstagramでは海外のフォロワーさんが徐々に増えてくるようになりました。そんな時にアジア圏からふたつのご依頼がありました。
映像制作会社「 BIGLAB 大頭研究所」
香港の映像制作会社BIGHEAD productionさまから。
今回の「タイポグラフィ年鑑2023」に入選したロゴデザインになります。
グループ会社として立ち上げる「 BIGLAB 大頭研究所」のロゴデザイン・中国語文字デザインのご依頼でした。フランクな英語でDMをくださった担当者の方と、翻訳機能を使いながら受注に至りました。向こうの要望を英語から汲み取りつつ対話を重ね、無事に納品できました。
「Be working like bee.」というキャッチコピーの元、ハニカムの形状をモチーフにしたシンボルマークBと英字ロゴをオリジナルで制作。
それを元に中国語文字デザインを制作させていただきました。
英語から意図を上手く汲み取れないことや、対話の流れをつかめずコミュニケーションの齟齬が生じるといった弊害もありましたが、問題なく形にできて安堵しています。
たまごケーキ焼菓子店「兔子高帽 雞蛋焼き」
台湾の洋菓子店「兔子高帽 雞蛋焼き」さまから。
こちらも「タイポグラフィ年鑑2023」に入選したデザインになります。
きっかけはやはりinstagramから。私の投稿見てくださった店長の方が「いつかリニューアルしたいからあなたにきっと制作を頼むよ!」と最初に嬉しいお声がけいただきました。その半年後に改めてご依頼をいただき、受注に至りました。
手書き文字だったものから独自性しかし遊び心があるものを。という要望を元に、文字を崩しつつもしっかり視認性のある漢字を再構築して制作しました。「兔子高帽」はうさぎのシェフぼうしという意味です。
小さい頃からウサギちゃんとあだ名を付けられていた店長さんがつくる料理店、ということでシェフ帽に見立てた部分を漢字に付け加えました。
店長は気さくで優しい方で、今回の入選したことをお伝えしたら感激して喜んでくれました。
いつかに台湾に行って現地で店長のお菓子を食べる事が私の小さな夢です。
英語・中国語でのメッセージのやり取りから、送金手続きなどの海外との事務作業などのはじめてのことに四苦八苦でした。しかし自分のデザインを日本以外の国で大事にしてくれる方がいるというのは本当に不思議な感覚で、とても嬉しかったです。
この二つの仕事は自分の視野が広くなるきっかけをくれたと思います。
映画宣伝団体のお仕事
私は前職で映画館に勤めており、ポスターやチラシを作る色々な企画に携わっていました。
「あなたにはそういう何か作ることが向いてると思うよ」と、私におさがりのmacbookをくれた支配人はデザインの仕事を志すきかっけをくれました。そうじゃなかったら今の私はいなかったです。ありがとうございます。
映画館時代にあった企画のひとつが学生がミニシアターを応援する団体の結成でした。それが「映画チア部」です。SNS でのミニシアター情報の発信、オールナイト上映、トークイベントによる映画への理解、発見を伝えるイベントを開催するなど多岐に渡り活動されています。
そんな彼らのSNS用のアイコンロゴを当時photoshopとillustratorを触り始めた自分が作っていました。全力で作ったものがこちらです。
今では目も当てられません。ただ今それを恥ずかしいと思えるのであれば少しは進めたのかなと思います。
改めてチア部代表の方にヒアリングのお時間をいただき、再度デザインをお任せいただきました。
映画を応援する事、また映画の発見を伝える事をイメージし、スクリーンに発見の「!」、そして前回の応援メガホンの形を受け継いで、曲線を中心として、親しみやすく柔らかい文字を作りました。
あれからできるようになったことは、
などなどです。
当時の自分はとりあえず目立つものを作ると意気込んでいただけでした。その時には全く出来なかった事を想定し制作できるようになり、振り返りを感じた一件でもありました。
映画チア部はいまや神戸を飛び出し、大阪、京都支部と、ミニシアターを支える関西随一の映画宣伝団体になっています。
今後の映画チア部の活躍を楽しみにしてます。
NPO法人のお仕事
「NPO法人 O'hana (オハナ)親と子の絆を育むお手伝い」さまは、 関東・関西エリアを拠点に、はじめての子育てに不安を感じている方のご自宅に訪問し、子育て支援を行っているNPO法人です。
若くして妊娠し、身近にサポートがなくて困っているママさんや、愛情を持って子育てをしていく自信がなく、子育てに不安を感じているパパさんなどに向けて、ご自宅に訪問しての子育て支援を行っています。
妻は子どもの社会問題に力をいれており、本業の傍らボランティアとしてO'hanaさまで活動を続けています。
妻と同じく子どもを育てる身としてできることがあればと、所属するO'hanaさまの広報デザインなどをお手伝いしていました。
その中で名刺を新しく作り替えるということがあり、ロゴも一新することになりました。
元々あったゴシック体の固いものから優しい印象のロゴタイプを目指しました。
「親と子の絆を育むお手伝い」の部分は遠くから見ても潰れないように。横線、縦線、はらいに余白を持たせゆったりとした印象を与えられるような文字を構築しました。
英字はOptimaをベースにしたものです。
「子どもだけではなく、その親も全員が笑顔になれるように」
日々奮闘しているO'hanaさまの活動を今後も妻と一緒にご支援できればと思っています。
タイポグラフィ年鑑のこと
これまでに出会って影響を受けた人、節目となった仕事を書き留めました。
ロゴや文字デザインは、イベント・企画・お店や会社の第一印象を決めるとても重要な存在です。ロゴ制作を通して、お客様にとってのはじめのスタートに貢献できるということも、とてもやりがいがある仕事です。
その中で今年、自分の仕事が一定の評価として認めて頂き入選したことは身に余る光栄でした。
はじめて応募した去年はまったくの選外で心底落ち込みました。
実力の低さを目の当たりにし、表現の限界に大きな壁を感じました。ですが忖度なく評価していただけることにとても感謝しています。
今後も自分のデザインの価値基準をしっかり確認しながらクオリティを高めていこうと思います。
今後関わっていきたい分野
映画の仕事
今年3月に映画『まっぱだか』の東京公開に合わせたポスターを制作の仕事をいただきました。
私の原点はやはり映画です。たくさんのことを教えてもらい、心の支えになっている物語があります。映画館に勤めていた時も映写室越しに見る景色を今でも覚えてます。
学生時代の映画を作る側になるといった夢は叶いませんでしたが、自分はデザインで映画に関わることができました。
今後もアンドウヨウスケさん、Iyo Yamauraさんのような映画のタイトルロゴや、グラフィックデザインで貢献することができたら嬉しいと思っています。
子どもの仕事
また最近は子育てする中で感じたことを文字日記のように形にしてみることをやっています。色々な方向性の文字をつくってきましたが、こういった日常の可愛いと感じる文字を作るのが中心になってきました。
それから子供のイベント、保育園、幼稚園、NPO法人、そして絵本のタイトルなどのロゴデザインをよく拝見するようになり、いつかそんな仕事に関われたらと願うようになりました。
デザイナーとして何者かになるというよりもO'hanaさまとのお仕事であったように、自分の仕事が次の世代、子どもたちの成長・笑顔に繋がる貢献が出来たら本望です。
今回は、半分くらいは私の今の気持ちの覚書のように記事を書きました。
10年後20年後にこの記事を見返した時に「若いなー。青いなー。」と感じていたらいいなと思います。
ではまた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?