松本人志監督作品「さや侍」のあらすじだけ見て物語を作ってみたら……

こんにちは。
みなさん、松本人志監督の作品「さや侍」はご覧になりましたか。
私は見ていないのです……。

Movie Walkerのあらすじはこんな感じ。

ある出来事がきっかけで、刀を捨てた侍・野見勘十郎。娘のたえと当てのない旅をしていたところ、無断で脱藩した罪で捕えられてしまう。そこで変わり者として有名な殿様に、笑顔を失った若君を笑わすために一日一芸を披露する“三十日の業”を科せられる。一度でも笑わすことができたら無罪放免、失敗すれば切腹をすることに。

Movie Walker Press

ということで、このあらすじと遥か昔に見たCMの記憶を頼りに物語を作ってみました。



ストーリー

武士の命である刀を持たず、鞘だけを腰に下げて幼い娘と共に流浪の旅をする浪人、野助。

ある日、山道を歩いていると山賊に遭遇。娘を守るために逃走していると、土地の大名の籠にぶつかってしまい、娘と共に死罪を言い渡される。

縄をかけられ、大名屋敷に連れられる野助と娘。どうにか逃げられないかと案じていると大名は満面の笑みを浮かべ、「死罪を放免にする方法がある」と持ちかける。

それは藩に伝わる「三十日の刑」と呼ばれるもので三十日間に渡って一日に一度、指定された相手を笑わせる為に芸を披露し、一度でも笑わせることができたら無罪放免、途中でやめたり笑わせることができなかったら切腹というものだった。

大名が指定した相手は大名の息子、若君。母を亡くしてから心を閉ざしてしまった少年だった。

野助は町の外れに粗末な小屋を与えられ、翌日から「三十日の刑」に臨むことになる。
武士である父を誇りに思う娘、お市は「人前で芸事を披露して笑いものになることは良くない」と野助に訴えるが野助は全力を尽くすとだけ応えた。

翌日、野助は大名屋敷の庭に立ち、芸の披露の刻を待つ。娯楽の少ない時代にあってこの刑の執行は、普段高鼾をかいている武士の間抜けな姿を見れるチャンスであり、大勢の人が集まっていた。

見物客の男達が話している。
「今度のはいつまでもつか賭けようぜ」
「よし乗った。俺は三日だ」
「大きく張ったな、そんなに持つやつは今までいなかったじゃないか。俺は今日切腹するに賭けるぜ」
「じゃあおいらは明日切腹だ」
賭事はどんどんと周りの人々を巻き込んでいき、鉄火場の様相を呈している。

大名と若君が連れ立って、庭前の高座敷に現れると民衆の騒ぎも収まり静寂が訪れた。

老中の合図を受け、野助は手伝いを頼んだ屋敷の使いに目配せをする。使いは真剣を構え、「切り捨て御免」と宣い野助に切り掛かる。野助は飛び上がり、向かいくる刀を間一髪で交わすとそのまま宙返りをして背中から地面に落ちる。

「ぎゃああ、斬られたあ」
野助は叫び声を挙げて死んだふりをする。見物客は皆、一様にきょとんとしている。大名と若君の表情も真顔のまま、お市だけが野助を悲しそうな顔で眺めている。

「刑は失敗。また明日の挑戦を待つ」
老中が叫ぶと、大名と若君は退屈そうに座敷を後にする。それを見て見物客も口々に好き勝手な会話を交わしながら去っていった。

倒れ姿から起き上がり、座っている野助の元にお市が駆け寄る。目にはうっすら涙を浮かべ怒っている。
「武士があんな大勢の前でやられた振りをするなんて!」
「お前が小さい頃、よく斬られ役をやってやったろう。コロコロと笑ってくれたから上手くいくと思ったんだが……」

こうして野助の三十日の刑が始まった。お市の心配をよそに、野助は諦めることなく連日芸を披露した。

天に投げた瓦を頭に落として割ったり、酒瓶を足の指でつまみ竹馬にしたり。しかし笑いが起きることはなく、それでも続ける野助を見て見物客は「まだ続けるなんてやっぱり刀を持たない武士は矜持も持っちゃいねえや」
「さっさと切腹する度胸もないんだな」
などと揶揄をした。

お市はというと最初は律儀に付いていたが、野助を馬鹿にする見物客と喧嘩になったり、それでも続ける野助の姿を見ていられなくなり次第に刑を見に来なくなった。

刑が始まって七日が過ぎた夜、野助の小屋に、眠るお市を抱いた男が訪ねてきた。
河原で遊び疲れて眠ってしまったという。

男に礼を言い、茶をもてなすと男は野助に妙なことを言う。
「お前さんはよっぽど矜持が大事なようだ」
野助は耳を傾ける。

男は河原乞食だった。乞食と言っても、道行く人々に短い話芸や芸事を披露しお金を貰う、いわば笑いのプロだ。

男は野助の刑での振舞いに指摘をする。
いわく野助の芸は武士がする恥ずかしいことでしかない。民衆からしてみれば、馬鹿にはするが乞食どころか自分達でもできる児戯を見せられても笑えない。
見物客が笑わなければ、笑える空気も生まれず大名も若君も笑わせることはできないだろう。
男は又蔵と名乗った。

その日から野助は又蔵に師事をし、刑に挑むようになった。野助の芸はより馬鹿らしさを増していったが人を笑わせると言う行為は一朝一夕でなるものではない。
刑で笑いが起きることはなく日々が過ぎていく。野助は又蔵の路上芸で笑いが起き、お金が缶に入れられる様を真面目に見ていた。

刑の半分である十五日を過ぎても、野助の挑戦は続いていた。又蔵は「緊張と緩和」など自身の持つ極意を教えても笑いが起きないことに頭を抱え、助っ人として旅役者の富美八を連れてきた。
野助の芸に演技を取り込もうという考えだった。

その頃には見物客も随分と疎らになっていた。民衆は気位の高い武士が芸をしたり切腹をしたりする様が楽しみなのであって、プライドを捨てた男の芸には興味が湧かなかった。

お市は頑なに野助の芸を見なかったが、実は野助の芸がある度に大名屋敷の近くの木陰で野助のことを想い、祈っていた。しかし、そんなお市の耳に笑い声が届くことはなかった。

ある日のこと、お市が屋敷近くの木陰で野助の失敗を落ち込んでいると、若君が一人で屋敷から抜け出すのを目撃する。
お市は文句の一つでも言ってやろうと後を尾けていく。

お市は尾けていった先に、墓前で拝む若君を目にし思わず声をかけてしまう。

父親の芸で笑わないことを咎めるお市。若君はお市の言い分を黙って聞いていたが、お市と父親の関係に小さく「羨ましい……」と呟いた。

その日から少しずつお市と若君の交流が始まったが、決してそれは良い関係と言えるものではなかった。

お市は傲岸不遜な態度の若君にイラついていたが、若君の「鞘しか持たない侍など、評価に値しない」と言う発言には共感を覚えたし父がなぜ鞘しか持っていないのか、理由を知らず言い返せないことを歯痒く感じた。

三十日の刑も残りわずかとなった時、町に江戸の大老からの遣いだと言う者が現れる。

町中を見聞し、屋敷を訪ね大名の歓待を受ける。

大名が来訪の目的を訊ねるが遣いの者はなかなか用件を言おうとしない。困った大名は話の繋ぎとして「刀を持たない武士が「三十日の刑」を続けている」と笑い話として伝える。

すると遣いは不思議な顔をし、江戸に伝わる噂話を聞かせる。

昔、将軍の親衛隊が道行く武士に難癖をつけて絡んだ。しかし、その武士は殊勝に平伏すどころか隊を全員切り捨ててしまった。

当然、将軍に楯突いたということで大問題になったが、時の将軍は鬼神の如き強さのその武士を気に入り親衛隊の非を認めた。

いくら将軍が認めたからといってその武士を野放しにするわけにはいかない。大老は一計を案じ、鞘だけを腰に穿き、将軍の危機の際には助太刀に駆けつけると言う条件で流浪人になることを許した。

大名は噂話にやや眉を顰めたが、遣いの「まあただの噂話です」という結びの言葉と、野助の刑での無様な姿に安堵し笑っていた。

いよいよ三十日の刑が後三日で終わりとなった日、野助は相変わらず身体を張った芸を披露していた。裸で全身に墨を塗り半紙に突っ込むという芸はまるでウケることはなかった。

お市はその日の夕方、若君に笑わない理由を問い質す。若君は病床に伏せる母を蔑ろにした父を憎んでおり、父が笑って欲しいと願うのであればそれを叶えることはできない、と告げる。

お市はもちろん父親のことが最優先だが、流浪の旅の中で初めて出会った同世代の友人としての若君の想いも痛いほど理解した。

いつの間にか固い友情で結ばれていたお市と若君だったが、若君が足を滑らせ崖下に転落。助けを呼びにいったお市は若君を外に連れ出して怪我をさせたとして、捕えられてしまう。

残り二日、刑での芸披露の場に着いた野助は言葉を失う。屋敷には縄で捕えられたお市が待っていたのだ。

「芸を披露しろ」と告げる大名の言葉を身体を震わせ黙るしかできない野助。
「できないなら切腹だ」という声に、野助は地面を大きく踏みつけ怒りを露わにする。
もう終わりだと思われたが、野助は何度も足を踏み音を鳴らしリズムを奏でタップダンスを披露するのだった。

当然笑いは起きず、振り返ることなく黙って立ち去る野助。大名は縄で捕えたお市を小突き、若君は心配そうな顔でそれを見ていた。

その夜、小屋で怒りに耐える野助を宥める又蔵。野助は今にもお市を助けに屋敷に乗り込みそうだ。

又蔵は言う。
「覚悟はできてるのか」
野助は静かに頷き、又蔵は諦めの顔になる。
「よし、わかった」

若君は寝床を抜け出し、お市の様子を見にいく。満足に水も食事も与えられずにいるお市は衰弱していた。
その様子を見て、若君は父親に真実を告げる決意をする。

翌日、今まで興味を失っていた民衆達も「三十日の刑」の最終日とあって屋敷に集まってきていた。

若君は朝から必死に「自分の怪我はお市のせいじゃない」と父親に訴えていた。大名は若君の反抗的な態度に少し苛立ちを見せたが、後継ぎとしての強さを身につけてもらおうと思い直し、「ではお前の怪我のことはなかったことにしよう。どちらにしろ、あと数時間で親子で死罪なのだ」と答えた。

若君は自分の失態からお市を救えたと一瞬喜んだが、父が罪人を決して許すことはないのだと落ち込んだ。

予定の時間は目前だと言うのに野助はなかなか現れない。群衆がざわついていると、屋敷の門番が
吹っ飛ばされて飛び込んでくる。

屋敷内の者が全員、門に目を向けると昨日までザンバラ頭だった野助が髷を結い立っている。右手にはもう一人の門番を掴み、軽々と中へと放り投げる。

護衛の者達が慌てて野助を止めにかかるが、野助は素手でどんどんと薙ぎ倒していく。
見物客達は、野助の凶行に巻き込まれまいと次々と逃げ出していく。

大名と若君は高座敷で様子を伺っている。護衛の数はまだまだおり、すぐに捕まるだろうと大名は高を括っている。

しかし、野助は恐るべき強さを見せ屋敷内の者を全て打ち倒してしまう。野助はお市の元へいき、縄を解くと気を失っているお市を優しく寝かせておく。

大名は野助の暴挙に怒り、床の間にあった刀を抜き構える。
「俺も剣の腕でここまで成り上がったのだ。素浪人風情が調子に乗るな」
と凄み、切り掛かる大名の刀を宙返りで躱す野助。体制を崩した大名の刀を蹴り飛ばし、刀は庭石に当たって折れてしまう。

座敷の端に追い詰められる大名。
「俺は殴られた程度じゃ殺せん。すぐに町に出ている家臣達が戻ってきてお前を捕らえるぞ。鞘しか持たないお前に何ができる……」
言って野助を初めてまともに見た大名は驚愕する。野助の鞘に柄が収まっているのだ。

若君は野助と父親のやりとりを傍で見ている。

大名は武士の姿となった野助を見て取り乱し、情けない命乞いを続ける。野助は耳を貸さず、小さな声で「切り捨て御免」と呟く。

野助が刀を抜き、大名が情けない叫び声をあげて切りつけられた時……

ポコん。

野助の抜いた刀は樹脂で作られたピンク色のへにょへにょな棒で、間抜けな音を立てて大名に当たった。

あまりの恐怖に小便を漏らし、涙と鼻汁まみれの顔になる大名。どこからか座敷に笑い声が響く。
それを皮切りに野助に打ち据えられた家臣たちも押し殺しながら笑う。

徐々に沸き立つ笑いと、威厳に溢れた父の情けない姿に、若君は思わず笑ってしまう。

屋敷中に笑い声が響き、放心状態の大名に向かって野助が口を開く。
「若君が笑いましたので、無罪放免でよろしいですね」
その言葉に大名は唖然とし、若君はハッとする。

高座敷を降りる野助に、大名は慌てて声を張る。
「お前、こんなことをして許されると思っているのか! どこに逃げようと追っ手を送るぞ」

野助はゆっくりと歩き、先ほど蹴り飛ばして折れた大名の刀を拾いにいく。
身構える大名と家臣達。

野助は庭に腰を下ろし、笑顔で言った。
「娘の罪は無罪放免です。私は今日の非礼を詫びて切腹いたします」

折れた刀を腹に構える野助の元に、座敷の陰に隠れていた又蔵が介錯刀を持って近寄っていく。

澄み切った青空に、野助の頭が地面に落ちる音が伸びていった。

日が明けて、町中が噂話で持ちきりだった。「三十日の刑」を成功させた者が現れたというのに、一体どうやって若君を笑わせたのか町民は誰も知らないのだ。屋敷の家臣達も主人の名誉と、野助の名誉を守るために口を閉ざした。
それによってどんな面白いことが起きたのか、皆想像して楽しんでいた。

町の外れ、父の死を知り形見の鞘を持ったお市が旅路をいく。傍らには荷物を抱えた又蔵がいる。
「野助さんは、最後まで武士の誇りを持って戦ったよ」
又蔵の言葉に、お市は頷く。そのまま俯き、落ち込んでいるように見えるお市の肩に手を掛ける又蔵。

お市は又蔵の手を払う。
「そんなことはあなたに言われなくても知っています」
お市は、父の行動の全てが自分を守ることを最優先に考えていたのを理解していた。

二人の元に、大名屋敷にいた江戸の遣いの男が近づき、又蔵が笑顔になる。
「いくぞ、富美八」
遣いの男の変装を解き、富美八は笑った。

「あんた達、裏でなんかしてたね?」
問い詰めるお市にごまかす又蔵と富美八。

回想が流れる。
刑の初日の賭け事をしている男達。場が盛り上がってきたところで又蔵が現れ、金を払う。
「俺はあいつが笑わせる方に賭けるぜ」
その姿を遠くから見ていた野助。

最後の日の前夜。
野助が又蔵に声を掛けている。
「お市のこと、頼んだぞ又蔵」
又蔵は静かに頷く。

鳶の鳴き声が呼ぶ山道を二人の男と少女が進んでいく。
「なあ、俺らが協力すりゃなんでもできるぜ。役者でも芸人でもなんでもな」


「私は、父のような武士になります」
少女の澄んだ声が天にまで響いた。

おしまい

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