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レビュー『ドローイングレッスン -古典に学ぶリアリズム表現法-』

「ダ・ヴィンチも学んだ絵画の基本」というキャッチコピーが気になり、手に取りました。

本書は、ルネサンス時代の伝統的な技法を見直すことにフォーカス。

巨匠たちが学んだアトリエでのトレーニングに現代的なエッセンスを加え、美大1年生向けのカリキュラムを書籍で再現しています。

デッサンの理解を深めたい方、これからデッサンを本格的に始めてみたい方におすすめ。

ルネサンス時代、絵画の巨匠たちがアトリエで学んでいたのは、師が示す手本を通して、美感を経験から体得することと、自然をありのままに写し取るためのドローイングの技法。

現代は美術が学校で教えられるようになり、「師から弟子への技法の継承」が途絶えてしまいました。

そんな技法の継承をサポートするのが、本書の主眼となります。

なかでも印象に残ったのが「名画の模写」で、模写はルネサンス時代から脈々と受け継がれてきた修行の一環で、ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ピカソやマティスも行った練習法です。

模写をつうじて、ライン、明度、フォルムを作品の中にどのように活かしているかを実践的に理解することができます。

模写するには、作品の構造をよく知る必要があり、構想を立てて、計画し、全体像と小さなディテールの両方をうまく操らなければいけません。

以下、他に気になった箇所を箇条書きで抜き出します。

・「エドガー・ドガは、絵画制作を犯罪を犯すのと同じだけの策略と狡猾さが必要な作業だと表現しました。」(p83)
・自然に存在するものとアートとの間には大きな隔たりがあり、巨匠はこの溝を埋める
・内側を見通し、平凡の中にすら美をみいだし、表面的なディテールと本質的な構造とを巧みに分離することによって、現実そのものではなく現実のエッセンスを提示
・古典彫刻は、ありのままの姿と原型としてフォルムの極到
・「石膏ドローイングは、初心者には特に有効なトレーニングで、3次元の世界を説得力のある2次元の画像へと変換するための入り口です。」(p88)
・解剖学を知っていると曖昧に見える領域を解釈でき、構造や強調する物を決める時にも役に立つ
・知識だけだはだめ。自分がみたいと思うものを描いてしまう。なので理論的な知識を実物の直接観察や個人的な解釈と組み合わせてかいたものが優れたもの
・常に一定水準の作品を描けるようになるためには、学生は、そのドローイングがうまく描けた理由、そして習得した技術がその作品にどう生きているかを知る必要がある

著者は教育者であり、アーティストでもあるアメリカ人のジュリエット・アリスティデス(Juliette Aristides)で、ワシントン州シアトルで活動。

ジュリエットさんは「アトリエムーブメント」の第一人者として知られています。

それは、アトリエが盛んだった時代の手法を学び、そこから斬新な表現手法を生み出そうという活動であり、現在世界中に広まっています。

本書では、現代のデッサン教育で実際に行われているドローイングレッスンを紹介。

さらに、巨匠の習作や現役アーティストのデッサンがフルカラーで多数掲載されており、眺めるだけでも楽しめます。


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