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夫婦で『デュシャンは語る』を読む 夫婦の読書会 #9

夫婦で『デュシャンは語る』の後半部分を読み切った。


この本は、『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』で薦められている本の中から選んだ、四冊目の本なる。

「反芸術の革命家」と呼ばれる20世紀を代表する芸術家であるマルセル・デュシャンへのロング・インタビューがこの一冊にまとめられてあり、希代の芸術家の生き方や感情、創作への考え方が生きた言葉で紡がれている。

夫婦ともども、デュシャンの名前を聞いたことはあったが、実際になにをした人なのかは詳しくは知らなかったので、簡単な年表を調べてみた。

デュシャンの年表

・1887年、7月28日にフランスに生まれる。父は公証人。マルセルは7人兄弟の3男。
・マルセルは兄らの影響で少年時代から絵を描き始める
・1904年、パリに出る
・1912年、油絵を複数制作後、油絵をほとんど放棄
・1913年、ニューヨークのアーモリー・ショー(アメリカにおけるヨーロッパ現代美術の最初の大規模な展覧会)でセンセーションを引き起こす
・1915年に渡米
・1917年に製作したレディ・メイド『泉』で物議をかもした
・1923年、「大ガラス」という作品の制作を未完のまま放棄し、「芸術家」らしい仕事を辞めた(死後、ひそかに作られた作品が発表され周囲を驚かせた)
・1968年、他界

読書感想

ぼくと妻の率直な意見として「こんな人もいるんだ!」という驚きだった。

あくまでも自由で自然体で、人間としてどうあるべきかという、自身の中に確固たる世界観を持っているように思われた。

その世界観の一端が現れている箇所をいくつか引用する。

「ここ(フランスのヌイイー)に来たのは、休もうと思ってですから。何もしないくせに休むのです。つまり人はいつでも、ただ存在しているというだけで疲れているのですから。」

P215

「ただ存在しているというだけで疲れている」という言葉がとても自然体で、心地よささえ感じる。

「いわゆる野心家では、私はないのです、。そうするのは好きではない。第一に、疲れますし、次には、一般的にそれは何の役にも立ちません。私は何も期待していないし、何も必要としていないのです。」
「芸術家が自分は何かをつくる義務があると信じたり、大衆に尽くすべき義務があるとしたりらするような社会的役割、それを芸術家に割り振るのは嫌なのです。そうした考え方には、ぞっとします。

P168

デシャンは、自身が製作したものは全て「人の頼みに応えただけ」と言い、野心のためではないという。

芸術家として、この考えには意外性を感じた。

ゆえに彼は芸術家というよりも職人という言葉を好み、依頼されたり求められたりした場合に作品を作るというスタンスだった。

「ある位置というか地位をとるようにしむけられるたびごとに、あなたはそれを皮肉などで弱めてしまうという印象がありますが?
いつもそうです。なぜなら、そういうものを信じていませんから。
では、何を信じていらっしゃるのですか。
なんにも!<<信じる>>という言葉は、間違いです。<<判断>>という言葉と同じです。こういうのは、恐ろしいもので、そんなものの上に地球は成り立っているのです。月の上では、そんなことがないように、私としては望みたい!」

p189

のらりくらりとしているようで、好き嫌いをはっきりしている。

「(中略)もう歳のせいで子供をつくることができない女と一緒になりました。私自身、子供が欲しいと思ったことなど一度もありません。ただ生活費を減らしたいためなのですが。」

P158

「家庭というのは、自分の本当の考えを放棄させて、それを家庭によって受けいれられているものと交換してしまうのです。社会やほかのがらくた一切とです。

P158

どの言葉もなんというか、嫌味を感じない言い方だ。

「私について言えば、アメリカ籍で七十歳以上ですから、かなりの金額を政府から受け取っています。たいして税金を払ったわけでもないのに、です。毎月五十七ドルで、いずれにせよ、かなりのものです。もちろん、私がこの金額をもらえるのは芸術家としてではなく、単なる年齢の問題です。この支給を受けるのは六十五歳からで、ほかにお金を稼いでいてはいけません。もし稼いでいれば、その分もらえる額が減らされます。七十歳をすぎれば、月に百万ドルの収入があっても、変わりなく五十七ドルを受け取ればます。

P209

デシャンが作品製作に追われず、自分のたてた原理原則にのっとって生活をしていたことの背景には彼の経済基盤があった。

もともと裕福な家庭に生まれ、父からの援助もあった。

それに付随して、生活観念の美学ともいうべき考えを持っており、お金の心配をしないで良いように、ありとあらゆる工夫を凝らしているが以下の文からわかる。

デュシャンからの学び

本書を読んでの一番の学びは、芸術家として自身の意見を貫くには、お金のために働かないことが重要で、そのためには経済的基盤が必要となるという点だ。

また、ある物事に対して「人間として」自然か不自然かの率直な意見を持つことの重要性を学んだ。

例えば家庭を持つことや、作品を作ること、世の中で認知されることなど、本書ではデュシャンが飾らない言葉で彼の考えを語り、同時にぼくたちに、あなたはどう思う?と質問を投げ掛けれられている気がした。

一度立ち止まって自身が囚われている「常識」を見直すきっかけになりうる点でも、本書は役にたつ。

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