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レビュー『B:鉛筆と私の500日』

本日はすこし変わった本のご紹介。

コロナ禍に毎日ツイッターに投稿した鉛筆画と、軽快なエッセイがついた『B:鉛筆と私の500日』という本です。

作者は画家にして作家のエドワード・ケアリーさん。

イギリス人の彼は、コロナ禍で隔離生活を強いられた一年余りのなか、毎日一枚の絵を描き、ツイッターに投稿していきました。

本書では、その時の絵である偉大な作家や芸術家、歴史上の人物、小説の登場人物、動物や鳥、植物や建物、風景といった500もの絵が収録されています。

個性満載のイラスト集としても、時代を切り取るエッセイ集としても楽しめる一冊となっています。

英語の原題は"B A Year in Plagues & Pencils"。

直訳すると「B 疫病と鉛筆の一年」となります。

タイトルの『B』は著者愛用のトンボ鉛筆のBに由来しているそう。

エッセイも軽快で興味深いです。

たとえば以下のように、コロナで誰もが抱いた感覚をうまく言語化しています。

毎日窓の外を見ればそこには相変わらず人がいる。通りを行き来している人たちが見える。だがその人たちの顔は見えない。目から上の部分だけが見える。新種の人間みたいだ。鼻がなくて口がなくて顎がない。あの人たちは誰なのだろう

P89

さらに面白いと思ったのが、彼が一日一枚の絵を描くことと「囚人が独房の壁に刻む、独房での生活が何日たったかの印」は同じと語っていること。

日本だと、5日くぎりで「正」の字を刻んでいくあれです。

ここで著者はその作業にかかる時間や労力のことをいっているのではなく、「その日1日の記録」や、「現在自分が、どの位置にいるのかを客観的に確認」、そして「すこしの達成感」といったものを語っているのだと思います。

また彼は、投稿をつづけるなかで「今日は何を描いたらいいんだ」と頭を抱えることになり、人間臭さも感じました。

彼の悩みを救ったのは、見知らぬ人たちからSNSに書き込まれるリクエスト。

絵をかくことが、家の中にこもる今日の自分の確認といったものが、「外にいる誰かのため」に描くことで画家を救う話には心あたたまりました。

また、「顔を描くときは必ず鼻から描き始める」というのも面白く、鼻が決まればすべてがキマるという絵のアドバイスも楽しめます。

エドワード・ケアリーさんがコロナ禍ロックダウンの2020年、毎日SNSに画を投稿すると宣言したことから始まった冒険。

その成果がこの本となっています。

毎日スケッチ画を1枚SNSに投稿するというシンプルな試みですが、継続の大切さと創作の楽しさをおしえてくれる本です。


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