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レビュー『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』

2015年の作品と少し古いですが、気になっていたので視聴。

テレビアニメの『PSYCHO-PASS サイコパス』第二期のあとの話が描かれています。

ざっくりとストーリー紹介

舞台は2116年。

日本政府は紛争国へ「シビュラシステム」と無人ロボット・ドローンの輸出を開始し、世界にそのシステムを広げようとしていました。

内戦状態だったSEAUn(東南アジア連合/シーアン)は「シビュラシステム」を実験的に導入。

管理下に置かれた水上都市シャンバラフロートは、つかの間の平穏と安全な生活を享受することに。

そんななか、監視官の常守朱と一係のメンバーが日本で対峙したテロリストが、SEAUnから送り込まれたことが判明。

そしてそのテロリストたちの影には、かつての仲間である狡噛慎也の姿がありました。

事件の捜査と狡噛の動向を探るために、常守はひとりでシャンバラフロートへと乗り込みますが...

国のあり方

作品の舞台となるシーアンですが、内戦状態がつづいています。

シリーズのなかで「日本だけ」が平和な状態を維持していると語られているですが、本作によって、日本以外の国の状況がはじめて描かれています。

「日本だけ」ということはつまり、民主主義の牙城であるアメリカも、ヨーロッパも、平和な状態ではなくなってしまっていることを示唆しています。

日本以外はまさに弱肉強食な世界。

監視社会でなければ、平和は維持できない。

そんな強烈な大前提からスタートしている本作は、やはりインパクトがあり、国のありかたというものを考えさせられます。

もちろん平和を実現している「超監視社会」も完璧ではなく、いびつな構造の上になりたっています。

テレビアニメ第一期と二期では、そんな監視社会のいびつな構造が描かれ、登場人物たちはその構造の盲点をついた敵に苦しめられるわけです。

一人の天才の無力さ

日本では、超監視社会が生活のすみずみにまでいきわたっており、若干の抵抗はあるものの、ほとんどの人が監視システムを疑うことなくすごしています。

そんななか、「シビュラシステム」の真実を知り、「シビュラシステム」と対等に渡りあうのが主人公の常守朱です。

彼女は人間の良心や、正義の代弁者としての役割を担っています。

本作の後半でも、「シビュラ」のおかした罪を「シビュラ」に説教。

結果、シーアンにおいて民主主義の基礎となる「選挙」を実現させます。

しかしエンドロール後に描かれたのは、結局は「シビュラ」の思い描いた通りの結果。

これは、一人の天才の無力さを物語っていました。

理想の国家とは?

「シビュラシステム」は最大多数の幸福をもとめて、システマチックに人間の管理をおこなっています。

「シビュラシステム」の外、つまり日本以外では基本的に弱肉強食な世界なので、劇中に狡噛が「静かな場所なんてなかった」と語るように、内戦や紛争が絶えません。

システムに飼われる家畜となって人間としての尊厳をなくすか、または、明日生きていけるか分からないような弱肉強食の世界でサバイバルするのか。

どちらも動物の世界で、理想からはかけ離れているように思えます。

そこで問題となるのは、「理想とはなにか?」という点。

新自由主義や、リバタリアニズム、新保守主義など、ニュースでみることもありますが、個人的にはあまり違いが分かっていません。

経済倫理=あなたは、なに主義?』を読んで、理想の国家のあり方について考えようと思いました。

英語が気になる...

本作はストーリーも戦闘シーンも楽しむことができたのですが、残念なことが一点。

おおくの方がレビューで挙げているとおり、作中でおおくのキャラクターがたどたどしい英語を話し、そちらのほうが気になって興がそがれます。

アジアでのお話なので、全員が英語ネイティブではないゆえに(劇中に登場する傭兵はもしかしたらネイティブの設定かも)、これぐらいの英語なのではという、製作者側の意図だったのかもしれません。

しかし登場人物たちの英語が気になりすぎて、ストーリーが頭に入ってきませんでした。

さらに、日本語からそのまま訳したような英語で、「本当にそんないいまわしをするだろうか?」と気になって仕方ありませんでした。

すべてを日本語、または、劇中にて翻訳機をつかう直前だけに英語をとどめておけばよかったと思います。

おわりに

テレビアニメシリーズを超えることはできていませんでしたが、観る価値のある良作だと思います。

それは、超監視社会と、そうでない社会の両極端を知ることで、国や統治のあり方を考えるきっかけとなるからです。

最新の劇場版である「PROVIDENCE」も楽しみです。


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