思い出 パチンコ屋の西川

パチンコ屋で知り合った西川という男がいる。九州から出稼ぎに来て、そのまま独身のまま初老を迎えた。彼は米問屋で働いているので、パチンコ仲間からは名前ではなく「米屋」と呼ばれていた。

ある日、いつものようにパチンコ屋で米屋に会うと、彼の歯が欠けていることに気づいた。理由を尋ねると、彼はぽつりと教えてくれた。

「若いころからわたあめが好きでね。週末の夏祭りに行って、わたあめを買ったんだよ。少し食べて、残りは翌日にとっておいたんだ。翌日、かじりついたら、カチカチに固まっていてね。それで歯が欠けちゃったんだ。」

それを聞いて、私はこの小柄な初老の九州男児が、一人でわたあめにかじりつき、歯が砂糖の塊に負けてしまう姿を思い浮かべた。なんだか寂しくもあり、愛らしくもあった。

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